絶好調の陸上・桐生祥秀が失格 フライングの2つの「なぜ」

    「日本人初の9秒台」の期待がかかる選手に何が起きたのか。

    陸上競技の100メートルには「10秒の壁」がある。

    10秒を切るタイムを出すのは難しいとされ、9秒台の選手は世界でも約120人ほど。日本にはいない。

    そんな中で、初の9秒台に大きな期待がかかっているのが、東洋大の桐生祥秀選手だ。

    時事通信

    今季10秒0台を3回マークするなど絶好調で、13日のダイヤモンドリーグ上海大会に臨んだ。

    しかし、そんな桐生選手にまさかの事態が起きた。人生初のフライングで、失格になったのだ。

    時事通信

    失格直後の桐生選手の様子。

    ニュースなどでこの失格が報じられ、ネット上には主に2つの「なぜ」の声が上がった。

    1つ目の「なぜ」:0.084秒という反応時間

    今回、桐生選手の反応時間は0.084秒だった。

    スタートから走り出しまでは「速ければ速いほどいい」というわけではない。もちろん、反応時間が短ければ短いほど、タイムは短縮される。

    一方、日本陸上連盟によれば、ルール上、反応時間が0.100秒未満の場合は不正スタート(フライング)の判定になる。

    これは、「人間が音を聞いてから反応するまで、最短で0.1秒かかる」という医学的な根拠に基づいているとされる。つまり、0.1秒以下のリアクションタイムでは、選手は「音を聞く前に反応した」ということになる。

    しかし、この「0.1秒」という医学的根拠には「もっと速く反応できる人間もいる」との異論もある。また、装置によっては、実際に体が前に進んでいなくても、重心の移動を感知してフライングの判定をする可能性もある。

    2つ目の「なぜ」:1回のフライングで失格

    陸上短距離において、フライングの回数についてのルールは変遷している。

    過去には1選手当たり1回までフライングが認められていた。2003年より、同じ組で1回目のフライング以降にフライングした選手は(1回目にフライングしていない選手を含め)すべて失格となるようにルールが厳格化され、2010年より1回目のフライングで即失格となるようにさらに厳格化された。

    このルール変遷の狙いは。男子400メートルハードルの日本記録保持者・為末大さんは、BuzzFeed Newsの取材に、過去のルールで「フライングが相次いだこと」を挙げる。

    「1人1回のフライングが認められていた頃は、いわば“保険”がある状態なので、好タイムを狙う選手により、フライングが相次ぎました。その結果として、中継などテレビの放映時間内に収まらなくなったことが理由だと認識しています」

    1レースに出場する選手は最大で8人。為末さんによれば、当時のルールでは、決勝で4〜5回フライングが見られたこともある。また、駆け引きとしてフライングが行われることも「多少はあった」そうだ。

    現行ルールは、公平である反面「ルールによりパフォーマンスが低下、もしくはパフォーマンスする機会が失われている」と為末さんは指摘する。

    そのルールは誰のためにあるのか?

    2011年に韓国で開催された世界陸上は、現行のルールが初めて施行された(世界陸上の)大会だった。その男子100メートル決勝で、フライングにより失格になったのが、「人類最速」のウサイン・ボルト選手だった。

    その際、前出の為末さんはTwitterで次のようにツイートしている。

    レースは誰の為にあるのか。順番はどうか。フェデレーションにとってか、観客にとってか、メディアにとってか、選手にとってか。まずレースは誰の為にあるのかが議論の鍵になる。

    今年は世界陸上の開催年だ。2020年には東京五輪も控える。ボルト選手の失格から6年、議論は進んだのだろうか。

    引き続き9秒台への期待が集まる桐生選手は、レースの感想を次のように述べている。

    調子がよかっただけに悔しい‥ 応援してくださったみなさん ありがとうございます! 次の大会でこの気持ちをぶつけます!

    桐生選手の次のレースは、今月の関東学生対校選手権(25〜28日)の予定だ。


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