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気軽に使った貼り薬の重い副作用…「モーラステープ」の何に注意するべきなのか

「モーラステープ」の副作用を知っていますか? 湿布を剥がした後、日光に当たった部分がかぶれる「光接触皮膚炎」です。原因となるのは、モーラステープに含まれるケトプロフェンという薬剤。肩こりや腰痛に強い効果を持つので、気軽に使われることがありますが、副作用には注意が必要です。皮膚科専門家医が解説します。

肩や腰が痛いとき、治療として気軽に使われることがある貼り薬。そんな薬の副作用で「一生治りません」と医師に言われたとするブログが、ネットで大きな話題になりました。

関心を集めたのは「モーラステープ」という貼り薬。効果が高いため、整形外科などでよく処方される薬です。しかし、この薬には、ある副作用が存在します。それが「光接触皮膚炎」です。

治療に当たる皮膚科医は、この薬について「いくつか注意するべきポイントがある」とBuzzFeed Japan Medicalの取材に答えます。それはどんなところか、皮膚科専門医の佐治なぎささんに説明してもらいました。

「一生、日の光を浴びれない」は誤解

そもそも、光接触皮膚炎というのは、「日光に当たった皮膚が極端に赤くなることなどの総称」である光過敏症のうち、「原因薬剤があって、そこに日光が加わることで生じるもの」だといいます。

この場合、原因薬剤となるのは、モーラステープに含まれるケトプロフェン。この薬剤が、テープを貼った部分に吸収され、そこに日光の刺激が加わることで、性質の変わったたんぱく質により、アレルギー症状が発生します。

その症状は「強いかゆみを伴う皮膚の赤み、発疹、刺激感、腫れ、むくみ、水ぶくれやびらんなどの重度の皮膚炎症状や色素沈着、あるいは脱色」、さらに重症化する場合は、患部を超えて「全身に皮膚炎症状が拡大」することもあります。

モーラステープによる光接触皮膚炎の特徴として、皮膚に残留した薬剤が、数週間以上経過してから、症状を引き起こすこともあると知られているそうです。テープを剥がした後も、少なくとも数週間は患部を日に当てないことが必要です。

佐治さんによれば、一度この光接触皮膚炎を発症してしまうと、「モーラステープを使うこと」「モーラステープを使った状態で患部を日に当てること」はその後、ずっと避け続けなければなりません。

しかし、「一生、日の光を浴びることができないというわけではありません」と佐治さん。必要なのは、あくまでも「原因薬剤を使った状態(あるいは剥がした後)で日光に当たること」を防ぐことです。

ただし、モーラステープの副作用にはもう一つ、別の特徴もあります。それが「交叉感作」。ケトプロフェンによるアレルギーのある人が、さらに起こす可能性があるこの交叉感作という反応が、モーラステープの問題をより複雑にしてしまうのです。

専門病院で原因の特定を

もともとは、ケトプロフェンと日光によって性質の変わった(変性した)たんぱく質がアレルギーの原因となるのでした。

しかし一旦、初回のアレルギー反応が収まったあとでも、その変性たんぱく質と構造が似た物質が体に吸収されると、同じような反応が出てしまうのです。

そして、交叉感作を起こす可能性があるのが、一部の鎮痛剤に含まれる物質や、さらにある種の「日焼け止め」に含まれる物質なのです。

*ケトプロフェンの場合、鎮痛薬ではスプロフェン・チアプロフェン酸の含まれるもの、また日焼け止めの中ではオキシベンゾンを含むものを使用した場合。

日焼けを避けようとして塗った日焼け止めにより、また皮膚炎が起きてしまうことがあり得る、といえます。

このように、厄介な交叉感作ですが、こちらもやはり、日の光を浴びることができなくなるわけではありません。佐治さんは次のように述べます。

「万が一、モーラステープを使っていないのに症状が出た場合は、そのとき服用している薬や日焼け止めなどを持って、皮膚科の専門病院を受診してください」

「専門病院であれば多くの場合、検査により交叉感作の可能性も含め、アレルギーを起こしている原因物質を特定することができます。原因が特定できたら、その物質さえ避けることができれば、外に出て活動できるようになります」

今回、話題になったモーラステープについて、佐治さんは「副作用の治療をする皮膚科医と、実際に処方をされる整形外科医などの方々との間に、大きな認識のギャップがある薬」であると指摘しました。

皮膚科医と他科の医師のギャップ

ケトプロフェンの医療用医薬品としてはゲル剤、パップ剤、ローション剤、クリーム剤、テープ剤がそれぞれ1986年以降に順次、発売されました。モーラステープのようなテープ剤の出荷量は、2009年時点で約24億枚となっています。

ケトプロフェンを含む薬については、過去に複数の注意喚起がなされています。その理由は、やはり副作用の報告が集まってきたことでした。

少し古いデータにはなりますが、厚生労働省『医薬品・医療機器等安全性情報 vol.276』によれば、1986年の販売以降、医療用医薬品では2010年までに光線過敏症は2028例(うち重症例は47例)が報告されています。

このうち、症例数、重症者数が共にもっとも多かったのがテープ剤で、1770例(うち重症例は37例)でした。

一般用医薬品では、1997年から2010年までに、光線過敏症は28例(うち重篤症例は2例)が報告されています。

2001年、医療用および一般用のすべてのケトプロフェンの薬の添付文書に、紫外線による全身性の光線過敏症に関する注意喚起が追記されています。2003年には、前述の交叉感作についても添付文書に注意喚起を追記。

モーラステープの副作用については、薬のパッケージにも、「戸外に出るときは天候に関わらず貼付部分を日光に当てないこと」「剥がした後も少なくとも4週間は同様の注意をすること」という主旨の注意が明記されています。

しかし、BuzzFeed Japan Medicalが複数の整形外科医を取材したところ、中にはこの副作用をあまり深刻には受け止めていない医師もいることがわかりました。

ある整形外科医は取材に対し、「自分の周囲には“とりあえず日光に当てなければいい”“腰痛や肩こりなどに処方する場合、服で隠れるからそこまで気にしなくてもいい”という認識の医師も多い」と明かしました。

正しく理解し、正しく注意する

前出の佐治さんは、医療側の問題点として「鎮痛効果が高く、患者さんからの人気も高いので、安易に処方されやすい」ことを挙げます。

また、光過敏症や交叉感作についてはメカニズムが複雑であるため、時間をかけて患者へ説明することが必要ですが、現場は忙しくてその余裕がないこともあるのでは、といいます。

そして、患者側には「よく効く薬だからと、他の人に処方された薬をあげたりしないでほしい」と訴えます。

「薬のアレルギーは誰にでも起こりうるリスクではありますが、一つの薬でアレルギーが起きたからと言って、すべての薬が使えなくなるわけではありません」

「もし不幸にしてアレルギーになってしまった場合は、注意すべき薬剤に対して適切に注意することがなによりも必要です。薬は正しく理解し、正しく注意して使っていただきたいのです」

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