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もう国は待てない……進まぬ受動喫煙対策、自治体などで独自の動き

喫煙者と非喫煙者の「共存」のポイントとは。

喫煙者と非喫煙者の「共存」とは

「吸う人も吸わない人も、ここちよい社会」ーーこれはJT(日本たばこ産業)のキャッチコピーです。喫煙者と非喫煙者の共存は、実現できるのでしょうか。

そのことを考える上で、参考になるデータがあります。民間シンクタンクの日本医療政策機構が1000人を対象に実施したインターネット調査では、アンケートの中で、たばこに関してもいくつかの質問をしています。その結果をまず、紹介しましょう。

「受動喫煙という言葉を知っていますか」という質問には、「意味を含め知っている」が79.0%。一方、10.9%が「知らない」、10.1%が「言葉は知っているが、意味はよく知らない」と回答しました。この結果によれば、2割は受動喫煙についてよく知らないということがわかります。

さらに、受動喫煙について「意味も含め知っている」と回答した人に対して、「受動喫煙による肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、小児喘息、乳幼児突然死症候群への影響があることを知っていますか」と質問すると、その結果は以下のようになりました。

肺がんに影響することを知っていた人は95.6%。虚血性心疾患(心筋梗塞など)は67.9%、脳卒中は71.4%、小児喘息は69.0%でしたが、乳幼児突然死症候群では44.4%に留まっています。たばこと肺がんの関係については知られていても、他の病気については理解が進んでいないことがわかります。

注目したいのがここから。「受動喫煙に対してあなたのお考えに最も近いものを1つお選びください」という質問です。

「たばこを吸わない人が受動喫煙から守られる環境を整備すべきだ」と回答した人が68.6%と最も多く、「ある程度の受動喫煙は仕方がない」は14.5%、「受動喫煙は容認すべきだ」は3.9%でした。そして、ポイントは最多となった回答の内訳です。

「たばこを吸わない人が受動喫煙から守られる環境を整備すべきだ」と回答しているのは、非喫煙者では73.4%。一方、現在喫煙者でも、過半数の51.6%がこう回答しているのです。喫煙者であっても、他の人には受動喫煙をさせたくない人が多いことがわかります。

そうであれば、受動喫煙対策はもっと早く進みそうなものですが、飲食店におけるたばこの扱いとなると、事情は変わります。飲食店の広さによって「禁煙」「一部禁煙/一部喫煙」「喫煙」と分けることについて、どのように思うかという質問に対しては、意見が割れていました。

「飲食店の広さに関係なく、全面禁煙とすべき」が49.9%と約半数。一方、「飲食店の広さによって、禁煙、一部禁煙/一部喫煙、喫煙を分けるべき」は 33.5%。ここで生まれる仮説は「禁煙、一部禁煙/一部喫煙、喫煙を分ける」つまり「分煙」で受動喫煙を防げると考えている人がいることです。

結論から言うと、分煙では受動喫煙は防げません。国立がん研究センターがん統計・総合解析研究部長の片野田耕太氏は、BuzzFeed Japan Medicalの取材に「分煙ではたばこの煙をシャットアウトできない」と回答。そして、喫煙ルームに出入する従業員は受動喫煙をすることになると指摘しています。

みなさんも飲食店で、実際にはパーテーションが設置されているだけ、トイレに行くためには喫煙ゾーンを通らなくてはいけない、というような、名ばかりの分煙を体験したことがあるかもしれません。受動喫煙を本当に防ぎたいのであれば、必要なのは屋内原則禁煙、ということになります。

国レベルの対策は二転三転

しかし、国レベルの受動喫煙対策は混迷しています。2020年の東京五輪を前に、受動喫煙対策は日本にとって重要な課題の一つです。というのも、オリンピックは「スモーク・フリー」(たばこの煙がない状態)が原則。WHO幹部に「前世紀のようだ」と批判されるなど、日本に向く世界の目は厳しいのです。

そこで当初、厚生労働省の受動喫煙対策法案は「屋内原則禁煙」でした。しかし、飲食店や自民党のたばこ議連が強く反対し「店舗面積30平米以下のバーやスナックでは例外として喫煙可」に変更。それでもまだ反対され、2017年は法案を国会に提出できないという、緊急事態に陥りました。

2018年1月末には、複数のメディアが「店舗面積150平米以下の飲食店は例外として喫煙可」などに方針が変更されたと報道。しかし、これにも飲食店側から反対があり、「客席面積(*)100平米以下の飲食店は例外として喫煙可」などにさらに変更されたとも報道されています。

*店舗面積から調理場などの面積を差し引いた客席の面積。客席面積にすると、調理場が大きな飲食店は規制の対象から外れやすい。

この二転三転に対して「骨抜き」との批判も根強くあります。自民党内でも受動喫煙対策に積極的な動きはあり、2月14日に開催された受動喫煙防止議員連盟の緊急総会では、もともとの厚労省案に近い「飲食店の広さに関わらず原則屋内禁煙」の案が決議されました。

オリンピックが開催される東京都はどうでしょう。2月の東京都議会に受動喫煙を防止する罰則つきの条例案を提出する予定でしたが、これももともとの厚労省案に基づくもの。その厚労省が大きく後退したため、条例案の提出は結局、先送りになりました。

大企業・自治体は「独自路線」へ

このような情勢の中で、大企業は独自の対策を講じています。ファミリーレストランやファストフード業界を中心に、全面禁煙の店が増えているのです。

もともと、2013年にはロイヤルホストが、2014年にはマクドナルドが全席禁煙としています。ケンタッキーフライドチキンを展開する日本KFCホールディングスや、セブン&アイ・フードシステムズの展開するデニーズも全席禁煙を進め、サイゼリヤは2019年9月ごろまでに全席禁煙にする方針を明かしています。

自治体の中にも、独自の対策を始めるところが現れました。東京都調布市が2018年1月20日に「調布市受動喫煙ゼロの店登録事業」をスタートしたのです。

この事業では、店舗屋内禁煙や敷地内禁煙で受動喫煙対策をする飲食店を「調布市受動喫煙ゼロの店」として登録。登録店舗の入口などには専用の禁煙ステッカーを掲示し、市のホームページなどで情報を掲載することで、受動喫煙がなく安心して食事ができる環境を促進するということです。

自治体として他に先行する取り組みですが、その背景には「ラグビーワールドカップ2019日本大会および東京2020大会がある」と同市の担当者は明かします。

調布市は両方の大会の競技会場が立地する自治体です。受動喫煙対策の進む海外から多くの訪問者があることが予想され、「ラグビーワールドカップまでに対策を実施する」ことが目標でした。市民、そして調布市を訪れる人の健康の増進を図るため「全庁的な取り組みとして受動喫煙防止を推進して」いるそうです。

「市がおこなった調査で、飲食店は受動喫煙による健康被害の声がもっとも多く、禁煙への要望も大きい」ことが取り組みの理由。現在までに6回の会議を実施し、関係先との検討を進めていました。「会議を重ねることで、それぞれの認識が、受動喫煙防止の必要性を理解したものになった」(同担当者)。

また、屋内喫煙室の設置などによる分煙は「受動喫煙を完全に防ぐことは難しいため、認めていない」。紙巻たばこだけでなく、加熱式タバコなども禁止の対象にしています。このような対策に、現時点では「内外から反対の声などはない」とのことです。

今後も順次、登録数を増やしていく予定です。同担当者は「厚労省・東京都の動向を注視しながら、引き続き受動喫煙防止対策を推進したい」としました。

受動喫煙対策、あなたは何を望みますか?

国レベルの対策が停滞する中、受動喫煙防止を求める声は大きく、大企業や自治体は独自の取り組みを始めています。

政治が反映しているのは、誰の意見なのでしょうか。もうすぐ発表されると見られる法案を、引き続きチェックしましょう。