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「軽度の疲労」は我慢せよ、でいいのか 他人事ではない医師の過労死

先行して医師の「働き方改革」に取り組んだ病院では、提供サービスの縮小も。

「軽度の疲労」なら我慢して仕事をしなければならないと、行政機関が明言している職業がある。

その一つ、医師は医師法で「診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではならない」と規定されている。「応召義務(おうしょうぎむ)」と呼ばれるものだ。

この条文について、旧厚生省は「単に軽度の疲労をもって拒絶することは義務違反」などの見解を示した。昭和30年のことだ。これが現代において「前時代的な内容で、過重労働を助長している」と指摘されている。

今年5月には新潟市の30代女性研修医、7月には都内の30代男性研修医の自殺が、それぞれ労災と認定されたばかりだ。これは医師だけの問題ではない。医師の働き方の問題は医療の質にも直結する。

例えば、2012年度に実施された日本外科学会のアンケート調査がある。この調査では、当直(泊まり勤務)明けの手術に参加した外科医の約88%が、「質の低下」など「当直が手術に影響を与える」と回答した。

医師、そして医療の安全を守るために、できることは。医療業界の内外から声が上がり始めた。

「働き方改革」を先送りされた医師。その間に失われる命を守れるのか。

3月に発表した「働き方改革実行計画」では、この「応召義務」などを根拠に、罰則を伴う医師の時間外労働規制が、5年間猶予される方針になった。つまり、医師の「働き方改革」が実行されるのは、最短で2024年になる。

この5年という期間を「長過ぎる」と訴えるのが、弁護士の川人博氏だ。川人氏によれば「(労災認定されるもので)例年4〜5人の医師の過労死がある」といい、早急な対応がなければ、その間に失われる命が増えてしまうとした。

中央が「過労死弁護団全国連絡会議」の川人博氏。左が「東京過労死を考える家族の会」の中原のり子氏。右が「全国医師ユニオン」代表の植山直人氏。
Seiichiro Kuchiki / BuzzFeed

中央が「過労死弁護団全国連絡会議」の川人博氏。左が「東京過労死を考える家族の会」の中原のり子氏。右が「全国医師ユニオン」代表の植山直人氏。

9月4日、「過労死弁護団全国連絡会議」「東京過労死を考える家族の会」「全国医師ユニオン」の3団体が連名で会見した。

過労死弁護団全国連絡会議の幹事長である川人氏は「応召義務は廃止ないし改正するべき」とした上で、医師の働き方について、具体的には以下の点について改善を求めている。

「医師の労働時間管理の適正化」「研修医の処遇の改善(実質的な勤務を“自己研鑽”の名目で労働時間に算入しない傾向の適正化)」「長時間労働の迅速な改善」「長時間労働をした医師が産業医面談するなど健康管理の厳格化」

東京過労死を考える家族の会代表の中原のり子さんは、18年前に小児科医の夫を過労自殺で亡くした。会見で「18年前、私は声を上げました。それからこれだけ時間が経過しても、何も変わっていないのです」と胸中を明かした。

「働き方改革」に先行して取り組んだ病院は、提供サービスを縮小する結果に。

総務省は2012年に「就業構造基本調査」を発表、労働時間が週60時間を超える人の割合がもっとも多い職業は医師で、41.8%だった。命に関わる仕事だけに、ミスは許されず、ストレスも大きい。

一方、医師の働き方を適正化すれば、現在、医師の過重労働によりカバーされている分の労働力を、別のことで補填する必要が生まれる。

全国医師ユニオン代表の植山氏は会見後の質疑で、「医師数の増加により、労働環境は改善される」との見方を示した。ただし「必要な医師数については人によって考え方が違う」とし、議論の難しさも垣間見えた。

養成・維持が社会的に高コストの医師を無計画に生み出せば、財政は破綻してしまう。今のところ医師は増え続けており、人口は2000年代後半にかけて急速に減少すると、国立社会保障・人口問題研究所が推計している。

このことから、厚生労働省の医師需給分科会は「上位推計(もっとも厳しい見込みによる予測)では、2024年以降は医師が過剰になっていく」としている。

この推計には異論もあり、どうすれば医師の労働問題を解決できるのか、見通しは立っていない。

労働問題の改善に取り組んでいる事例もある。2016年に労働基準監督署の立ち入り調査を受け、医師の長時間労働や残業代の未払いについて是正勧告を受けた聖路加国際病院だ。

同院では労働時間の管理や若手医師の負担軽減などの対策を進めたが、その結果として、従来の医療体制は維持できないと判断。夜間や休日に対応する医師の数を減らし、土曜日の診療科も大幅に廃止した。

医師の働き方の問題は、医療を受ける誰にとっても決して他人事ではない。どんな医療が理想なのか、その実現にはどのような取捨選択が必要なのか、決断を迫られる時期は、そう遠くない。

BuzzFeed JapanNews


Seiichiro Kuchikiに連絡する メールアドレス:seiichiro.kuchiki@buzzfeed.com.

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