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ネット上の健康・医療情報を諦めない カギは私たちの「監視と警告」

Google担当者は「期待していてほしい」とイベントで発言。

「病気かな」と不安になり「ググる」のは当たり前。でも、その結果が信用できるかは、わからない。

約30億ーーこの膨大な数字は、世界最大の検索エンジン・Googleが1日に処理する、ネット利用者の検索回数だ。

このうち健康・医療情報の割合は5%。つまり日に約1.5億回、検索されている。中には「がん」など命に関わる検索キーワードもある。

このようなキーワードは当然、がん患者やその家族らの切実な状況を反映している場合がある。

だからこそ、Googleは健康・医療など“YMYL(Your Money or Your Life)”の領域において、特に信頼性と専門性を重視すると表明していた。

しかし、2016年後半にかけて、日本ではその方針、さらにはインターネット上の情報全体の信頼性を揺るがす事件が起きた。いわゆる“『WELQ』問題”だ。

これは、「がん」などの命に関わるキーワードでも、サイト運営側の利益追求のために、信用できない情報が検索上位に表示されていると明らかになったもの。

記者(朽木)が最初にこの問題を指摘してから、ちょうど1年が経過した。この間、ネット上の健康・医療情報はどうなったのか。今後、どうなっていくのか。

BuzzFeed Newsは、いち早くこの問題を提起していた検索エンジン対策(SEO)の専門家・辻正浩氏にあらためて話を聞いた。

『WELQ』閉鎖から半年後、健康・医療記事を大量生産する手法が乱用され「大きな問題が残る」状況に。

Googleは記事の内容だけでなく、ネット利用者がどのサイトを訪れ、どう読んだかなどを総合した、複雑なシステムで検索順位を決定している。

そのシステムを攻略し、信頼性の低い健康・医療情報であるにもかかわらず、それを検索結果の上位に、かつ大量に表示させていたのが『WELQ』だった。

一時、複数の種類の「がん」の検索結果で、上位をほとんど独占していたことが確認されている。

このことへの批判や報道を受ける形で、同社は『WELQ』を閉鎖。DeNAの南場智子会長と守安功社長による謝罪会見がおこなわれたのが、2016年12月のことだ。

それから半年、2017年6月に辻氏は健康・医療情報の検索結果の推移を公開。「もしかするとWELQが出ていた方がまだ良かったのでは?」と懸念するほどの状況であると明かした。

「『WELQ』閉鎖後も、『WELQ』同様の手法、つまり、網羅的な内容の記事を短期間で大量に用意し、上位表示を狙う手法が続いていました」

健康・医療について、長文の記事を1日に何本も、場合によっては100本以上用意するような手法では、情報の信頼性は担保できない。

これは、記事のチェックが行き届かず「肩こりは霊の仕業」などとした記事を掲載していた『WELQ』で明らかになった通りだ。

この手法で規模を拡大していたサイトの一つである『ヘルスケア大学』では、記事の内容について「正確でない」との指摘が続出。運営のリッチメディアは修正の必要を認め、応じている。

「また、末期がんにも効くと謳う高価な漢方を販売するサイトが『WELQ』閉鎖後に順位を伸ばし、上位に表示されるケースもありました」

このサイトの内容については、専門の医師がBuzzFeed Newsの取材に「事実と大きく異なる」と回答している。

「これでは、状況は改善どころか、悪化しているともいえます。『WELQ』閉鎖から半年が経過したにもかかわらず、大きな問題が残り続けていると考え、ブログにして公開しました」

現在、健康・医療情報の大量生産サイトは順位が下落傾向。「ネットの自浄作用」も後押し。

辻氏は約10年に渡り、健康・医療情報の検索結果のデータを収集し続けている。『WELQ』問題前後の推移は以下のようなものだ。

例えば、2016年前半に大きく伸ばし、同年末に閉鎖により0になった赤線が『WELQ』、下落傾向にある黄線が『ヘルスケア大学』だ。

このグラフからも、健康・医療情報が掲載されているサイトがネット上に無数にあること、そのうちいくつかが頭一つ飛び出していることがわかる。

「現在『ヘルスケア大学』『いしゃまち』など、『WELQ』同様の手法で規模を拡大していたいわゆる“医療キュレーションメディア”は、検索順位が下落ないし若干の下落傾向にあります」

では、全体としては改善されつつあるのだろうか。辻氏は「NAVERまとめやYahoo!知恵袋など、医療の非専門家が書き込むサイトの順位は最近また上昇傾向にあり、そうとは言い切れない」という。

加えて『WELQ』同様の手法は「残念だが未だに有効と思われる」。しかし「ネット上にはこのようなサイトへの問題意識が生まれ、自浄作用が働きつつあります」と辻氏。

「『WELQ』のような手法のサイトの増加によって、検索結果が汚染されたのは事実です。しかし、ネット上で上がった声は、何らかの形でGoogleにも届いている。それがうかがえる検索結果の変動も確認できます」

2009年ごろから健康・医療情報の検索結果をチェックしている辻氏によれば「長期の視点で見れば、検索結果は良くなっている」。

検索エンジンの歴史の上では、健康・医療情報についても、長らく個人サイトやリンク集の上位表示が続いていた。検索結果の1ページ目にも、“がんの真実”として「医者の言葉はウソ」と主張するようなものがいくつもあったという。

そういったサイトは、Googleが対応し続けてきたことにより、現在はめったに検索上位には表示されない。

ネット利用者の要望と信頼性の間でジレンマに陥るGoogle。担当者は「期待してほしい」とコメント。

しかし「改善されても完ぺきには絶対になり得ません」と辻氏は警告する。その理由には、検索エンジンというサービス自体の難しさがある。

例えば「末期がんの治療」について正確に記載したサイトと「ウソみたいに末期がんが治る」と断言するサイトがあるとする。

どうにかがんを治したいという思いで検索する人は、どちらのサイトを訪れるだろうか。おそらく後者だ。そして、Googleはネット利用者が好むページを評価するため、後者の順位が上がり、さらに多くの人を集めることになる。

健康や医療に関する情報を検索する人は、その切実な状況ゆえに、悪質なビジネスの標的になりやすい。

「それなら」と、大学や政府機関など公的なサイトのみを上位に表示する設定にしたとしよう。

この場合、公的なサイトは概して個別の情報が多くはなく、「千代田区 耳鼻科」や「6カ月 赤ちゃん 吐いた 38℃」など、細かなニーズに応える情報は表示しにくくなってしまう。

ネット利用者の要望を重視しすぎると信頼性の低い情報が表示され、信頼性を重視しすぎるとネット利用者のほしい情報が表示できない。Googleはこのようなジレンマを抱えている。

一方、こんなニュースもある。8月25日に開催されたイベント『Google Dance Tokyo 2017』の質疑応答で、グーグルの担当者が以下のようにコメントしたことを、辻氏を含む複数の出席者がBuzzFeed Newsに証言した。

「多くの人から指摘があることはGoogleでも把握しており、(健康・医療情報の検索結果改善の)優先度を高くしている。詳細はここでは明らかにできないが、期待していてほしい」

辻氏は「Googleがここまで言った以上、次の動きは期待できるものだと思います」とした上で、次のように述べた。

「とはいえ、今日明日で万事解決ということはありませんし、その間に、命に関わる重大な事件が起きないとも限りません。中国では検索上位に表示されたデマを信じ込んでがん治療を受け、学生が亡くなったことが報じられています」

「しかし、検索する人の行動が検索結果に反映されるなら、“ダメなサイトを訪問しない”などの行動により、誰でも検索結果の改善を多少なりとも後押しできることにもなります。引き続き、みなさんの継続的な監視と警告が必要です」

ネット上の健康・医療情報に気になることがあれば、BuzzFeed Japan Medicalに教えてください。私たちはそれを調べて、世の中に訴え、問題解決の道のりを一歩でも前進させたいと思っています。

ある日、自分や自分の大事な人の健康に関して決断を迫られたとき、納得のいく選択をするために大切なのは、信頼できる情報です。だからこそ、BuzzFeed Japan Medicalは、信頼されるだけでなく、わかりやすく、読者の心に届く記事をネットを通じて発信していきます。


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