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「監修は基本無償」「途中で原稿の質がガタ落ち」…ヘルスケア大学の監修医師が語る

ヘルスケア情報サイト「ヘルスケア大学」で監修を担当した医師が証言した。

低品質な医療情報は今もネットに大量に、目立つ形で残っている

そんな中、医師の「参画」や「監修」など、医師の関与を思わせる表現で、信頼性をアピールするサイトがいくつも現れた。

中には、網羅的な内容の記事を短期間で大量に用意し、検索エンジン対策をしてユーザーを呼び込むという、昨年末に閉鎖に追い込まれたDeNAの医療キュレーションメディア「WELQ」同様の手法を使ったサイトもある。

株式会社リッチメディアが運営するヘルスケア情報サイト「ヘルスケア大学」もその1つだ。同サイトでは実態のない「参画」が発覚、5000人以上としていた参画医師の情報は削除され、7月4日18時現在1510人となっている。

また、参画した医師が「監修」、つまり内容をチェックしたはずの記事について、外部の医師が誤りを指摘する例が相次ぎ、運営側もそれを認めた。【医師監修】という表記はネットでよく見かけるが、信頼していいのだろうか。

BuzzFeed Newsはヘルスケア大学で実際に約100本の記事を監修した経験のあるA医師に接触、【医師監修】の実態についての証言を得た。

A医師が記事を監修するように依頼されたのは、2015年。ヘルスケア大学立ち上げ当初、前身のスキンケア大学を運営していたリッチメディア社の関係者から「新しいメディアを立ち上げる」ということで声をかけられたという。

以来、2017年3月くらいまで約100本の記事の監修を担当していたが、今はしていない。ただし、A医師が監修した記事は現在も掲載されている。

なぜ、監修をしなくなったのか。主な理由をA医師は「記事の質がガクンと落ちたから」と説明する。

「立ち上げ当初から2016年の頭くらいまでは、良質な記事も多かったんです。“ほとんど修正なし”と伝えた記事もあります」

「しかし、それ以降は、文章として読むに耐えないものが送られてくることもありました。また、元々は自分の専門領域のみ依頼されていましたが、それ以外の依頼も来るようになりました」

A医師は「この頃からクラウドソーシングで作成された記事が自分の元に届くようになったのではないか」と疑っている。同じ言葉を繰り返し使ったり、やけに冗長な文章になったりと、文字数稼ぎを露骨に感じるようになったからだ。

「クラウドソーシングで1文字いくらという発注を受けたライターの方が、記事をかさ増ししたのではないでしょうか」(A医師)

2017年に入り「特にその傾向が顕著になった」という。「日本語になっていない」と怒ったこともあるが、謝罪などはなく、一度に送られてくる本数も4〜5本から15本ほどに増えた。

それでも「引き受けた以上は」と思い、監修を続けていたが、物理的に時間を確保するのが難しくなり、A医師は監修を止めてしまった。

A医師の姿勢は非常に献身的にも思える。よほど報酬がよかったのだろうか。筆者がそう質問すると、A医師は「監修は無償だった」と回答した。

A医師は「告知などを手伝ってもらったこと」はあるが、「基本的に監修は無償で行なっていた」という。

「そもそも、1本いくらのお金で医師が動くでしょうか。誤解を恐れずに言えば、私は生活には困っていません。物理的な金銭への期待というのは、監修を担当する医師にはあまりないのではないでしょうか」

「実際に、2016年の後半くらいに、1記事につき数千円の報酬を支払うという話もありましたが、それは立ち消えになりました」

記事を大量生産するヘルスケア大学のようなメディア運営モデルでは、1本の記事に大きな予算はかけられない。1本数千円で100本の記事を監修したとしても、支払われる金額はたかが知れている。

だからこそ「自分にとっては、お金の問題ではなかった」とA医師。「質の高い医療情報を世の中に増やしたい」という思いで、長らく監修を務めていたそうだ。

「私は勤務医なので、宣伝やブランディングといったメリットもあまりありませんでした。ただ、私の記事を読んだ特定の病気の患者さんが、私の診察を受けにきてくれたことはあり、それはありがたかったです」

「開業医の方であればクリニックの経営のために監修をすることもあり得るかもしれません」

ただし、ヘルスケア大学の記事がきっかけで、A医師の元を訪れた患者の数は、現在までに約20人ほど。クリニックの宣伝やブランディングのためだとしても、コストに見合うだろうか。

他の医師や病院でお金の動きがあるかどうかについては「わからない」とした。BuzzFeed Newsは別の監修医師(B医師)にも証言を得たが、B医師の場合は1記事当たり数万円の報酬が提示されていた。

医師によって報酬の有無、金額の幅があることについて、BuzzFeed Newsはリッチメディア社を取材した。同社はメールで次のように述べた。

「原則無償で監修いただいておりますが、記事を制作する過程において、必要に応じて有償で依頼する場合があります」

監修では具体的にどんな問題があったのか。A医師は、運営者が医療情報の取り扱いを軽視していた可能性を指摘する。

当初は2〜3カ月に1回、4〜5本の依頼が来ていた(記事はのちに編集部で複数に分割されるため、A医師の感覚と公開本数は必ずしも一致しない)。

これらを「数日以内で戻してほしい」と言われたが、それは難しいと伝えたそうだ。

しかし、「半ば意地になり、それでも1週間〜10日くらいでは戻していた」という。記事の出し戻しは、始めの頃は2回以上あったが、途中から1回になった。

立ち上げ当初から物足りなかったり、ピントがズレていたりする記事はあった。例えばそれは「参考文献が20年前のもの」や、「医師ではなく看護師向けの入門書の簡略化された説明を元にしているもの」など。

また、「○○(病気)を防ぐにはこれを食べろ」「こういう性格の人が○○になりやすい」など、「本来は複雑な病気というものを単純化しすぎる傾向もあった」とA医師は指摘する。

「そもそも、ソース(情報源)の信頼度を判断できないライターさんも多かったように思います」

「出典をつけるのはいいのですが、ガイドラインや厚労省のサイトではなく、それらを参考にした製薬会社のサイトを参考にしていることもありました。いわゆる孫引きのような形です」

また、A医師は再監修の依頼も何度か受けたことがある。「名前だけ貸しているような人、適当にしか見ずに右から左に流すような人もいたかも知れません」(A医師)

ただ、A医師がしっかりと監修していたことで、A医師の目が届かない記事の質が低かったとしても、読者はそちらも「信頼性が高い」と思い込んでしまうことがあり得るのではないか。

読者からすれば、A医師もまたヘルスケア大学の「参画」「監修」医師であり、同サイトに加担しているように見える。その可能性について、A医師は次のように述べた。

「読者の方には申し訳ないですが、その点は正直、諦めてしまっていました。時間的にも専門分野的にも、他の医師の監修記事をすべてチェックして、クレームを入れるというのは困難なので……」

「ネットの情報はあくまで参考程度にして、鵜呑みにせず、わからないことは主治医に聞くのがいいと、私は思っています」

これで「医師監修」は成り立つのか、疑問に感じてしまう。A医師はその条件として、「医師の善意と熱意」「ライターの質」の2つの要素を挙げた。

A医師によれば、かかる労力は原稿次第でピンキリだった。「原稿にどれくらいの時間がかかったかは、一概には言えない」そうだ。

「めんどくさいと思いつつ、診療が終わった夜中に真面目に(監修を)やっていました」

「やはり、誰かが医療者と一般の方の知識の差を埋めなければならない。いい記事が来れば気分も燃えました。しかし、そもそも質が低い記事が来ると、やる気は起きませんでした」

A医師はヘルスケア大学におけるこのような医師監修の実態を「医師の善意と熱意次第」だと表現した。また、「ライターの質も問題」という。

「日本語として成立していないものを修正するのは、本来、監修医師の役割ではありません」

「私は昔から文章を書く習慣があったため、それでも監修を続けることができましたが、そうでなければ、監修が適当になってしまうか、止めてしまうでしょう」

また、これは編集部が編集機能を果たしていなかったことも意味している。その意味で、これはライターだけの責任ではない。A医師は最近のヘルスケア大学についての報道を受けて、次のように話す。

「イージーな記事を量産して検索上位をとったり、短期間でも話題になったりしても、今回のように内容が悪くて炎上したら、結局は損になります」

「医療の進歩は早いですが、本質が変わるわけではないので、手間暇がかかっても良質な記事をコツコツと作っていったほうが、末永く利用してもらえるのではないでしょうか」

今後、ヘルスケア大学に望むことは。A医師からの回答はこうだった。

「頑張ってほしいです。この時代に、複雑化する医療を、誰かがわかりやすく紹介しなければいけないのは事実です。ここまでに挙げたような問題点が解消されたら、また協力してもいい」