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わずか15分で生命の危険も 車内の熱中症による子どもの死亡事故を防ぐには?

自動車会社のホンダは「2020年頃の新型車をターゲットに、子どもの熱中症事故を防止する機能の搭載を検討している」と回答した。

7月24日、奈良市内の駐車場の車の中で、9歳の男の子が熱中症とみられる症状で死亡した。

同行の母親は病院に行くために、発見された午後2時55分頃までの1時間半ほど、子どもを車内に残していたという。その日の奈良市内の最高気温は34.1度。

また、8日にも、静岡県湖西市内のパチンコ店の駐車場の車の中で、1歳11カ月の男の子が熱中症とみられる症状で死亡している。

同行していたのは父親。午前11時から午後1時まで子どもを車内に残し、パチンコをしていたとみられる。その日の湖西市内の最高気温は32度。

この時期、車の中では何が起きるのか。JAF(一般社団法人日本自動車連盟)の実験結果によれば「わずか15分で生命の危険がある」。

JAFが2012年に行なった実験では、室温を25度にした車の窓を閉め切り、気温35度の晴天下に置くと、エンジンを止めてから15分で人体にとって危険な状態になったという。

車内の最高気温は黒い車で57度、白い車で52度に達した。サンシェードを装着した状態では最高気温は50度、3cmの窓開けをした場合でも最高気温は45度だった。また、ダッシュボードは70度以上になる場合もあった。

25日、JAFは「子どもを車内に残したままのキー閉じ込み」の2016年8月の救援出動が全国で「297件」だったことを発表した。

BuzzFeed Newsは車内の熱中症による子どもの死亡事故について、JAFの広報担当者を取材した。

そもそも、「キー閉じ込み」とは、キーを車内に残したままロックしてしまうこと。不測の事態により内側から物理的にロックされるだけでなく、電子キーの電池残量の低下などでも起きることが国民生活センターに報告されている。

JAFによる調査は例年「旅行や帰省で普段は車に乗らない人も車を使う機会が増える時期に、事故の発生を防ぐため」に実施されているもの。

2016年8月1日〜31日の救援出動の件数は全国で297件。そのうち、緊急事態として「ガラスを割る等して対応したもの」は30件だった。2015年は236件(ガラスを割る等の対応は7件)、2014年は7月1日〜8月31日までで438件。

「JAF以外の鍵屋さんに依頼される場合もあるので一概には言えませんが、JAFの救援出動は近年、増加傾向にあります」(同担当者)

キー閉じ込みの原因として、現場での聞き取り調査では「子どもが誤ってロックを操作した」場合が多かったという。このような場合、保護者がキー閉じ込みに気づいたとしても、JAFが15分以内に到着できない可能性も十分にある。

同担当者は「短時間でも車内のお子さんから注意を逸らすことで、大きな事故につながる可能性がある」と指摘した。

「キー閉じ込みのトラブルにはならなくても、“少しの時間だから”“寝ているから”といって車内にお子さんを残したまま車を離れれば、熱中症を引き起こすことになりかねません」

「特に体温調節機能が未発達なお子さん、機能が低下している高齢者の方、ペットなどは“車内に残さずに連れて出ること”を徹底していただきたいです」

このような事故が続いてしまうことに、何か抜本的な対策はできないのだろうか。時を同じくして、ネットではある記事が話題になった。

その記事とは『車内温度の上昇による熱中症について自動車会社の社員に聞きたい』。子どもの親に責任があるとしつつ、このような事故を例えば温度や人感センサーと連動した通報システムでなくせないか、と問いかけたもの。

記事には「いいアイディア」「あってもいい」「メーカーやエンジニアの負担になる」「キリがない」など賛否のコメントが入り乱れた。

では、実際、自動車メーカーではどのような対策を講じている、または講じる予定なのだろうか。BuzzFeed Newsは複数の企業に取材を申し込んだ。

取材を申し込んだのはトヨタ自動車株式会社(トヨタ)・本田技研工業株式会社 (ホンダ)・スズキ株式会社(スズキ)・日産自動車株式会社(日産)の4社。

このうち、トヨタ・スズキからは、期限内に回答が得られなかった。

日産からは広報担当者名義のメールで「現時点での技術的な対応はございません。なお、今後の研究開発の状況については申し訳ございませんがお答えできません」との回答があった。

また、「熱中症だけでなく、お子様がクルマを操作してしまう危険性や、防犯上の理由からも、お車から離れる際は、短時間であっても小さなお子様を車内に残すことが無いよう、お気を付けいただきたいと思います」と述べた。

ホンダからは電話で回答があった。同社の広報担当者によれば、2020年頃の新型車をターゲットに、子どもの熱中症事故を防止する機能の搭載を検討しているという。「時期を早められれば早めたい」(同担当者)

実際に検討されている機能は「後部座席にいる人の存在を忘れたドライバーに警告する」「(乗客がいるときに)適切な温度調節をする」機能などとした。

同担当者は、これまでこのような機能が実現してこなかった理由として、例えば警報機能であれば「誤警報が多発すると製品への信頼性が下がってしまう」ことを挙げた。

自動車が死亡事故の一因になることをどう考えるのか。そう質問すると「基本的にはドライバーの方の責任」との考えを示した上で、「とはいえ、人命に関することなので、メーカーとしても最大限のことをしたい」と述べた。

(サムネイル:Getty Images)