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ある日、突然余命を宣告されたら、どう生きる? 難病のクリエイターが抱く「希望」

目で奏でる音楽が生み出す、音楽以外のもの。

私たちの時間は、有限だということ

「貴重なお時間をいただいて……」という言葉を、社会ではよく耳にする。私自身、これまで繰り返し口にしてきた表現だ。誰かの話を聞くということは、その相手の時間を奪うということーー頭ではそうわかっていたつもりだった。その「時計」を見るまでは。

WITH ALS / Via withals.com

スタイリッシュなロゴの下で、時を刻むこの時計が示すのは、ある男性の「生」の軌跡。男性とは、一般社団法人「WITH ALS」代表理事の武藤将胤(まさたね)さん(31)。

約1250日というのは、武藤さんが大手広告代理店で将来を嘱望されたプランナーとして活躍していた27歳のときに、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されてから経過した時間だ。

トップアーティストが気軽に出入りする、武藤さんの都内のオフィスで。
Seiichiro Kuchiki / BuzzFeed

トップアーティストが気軽に出入りする、武藤さんの都内のオフィスで。

ALSは、知性や感覚はそのままに、運動能力が衰えていく病気。症状が進行するにつれ、手足が動かなくなり、声が出なくなる。やがて呼吸もできなくなり、延命治療には人工呼吸器が必要になる。

日本では2013年の調査時点で約9200人がこの病気を患っている。人工呼吸器を使わない場合、病気になってから亡くなるまでの期間はおおよそ2~5年。原因は不明で、病気の進行を抑える薬、症状を和らげる薬はあるが、特効薬はない。

武藤さんはこの病気になって「時間の一瞬一瞬のありがたみ、重さみたいなものの、捉え方が変わった」という。

「誰にとっても時間は有限なものなのに、病気になる前は、勝手になんとなく、このまま幸せな時間が続くって思っていた自分がいて」

「でもALSになって、余命があと、数年だと突きつけられたときに、じゃあこの一瞬をどう生きるのか、後悔のない道を選択するのか、と考えるようになりました。そこで、“今、挑戦するんだ”という姿勢は、強くなったと思います」

武藤さんが「今」、「挑戦」しているのは「目で奏でるDJ・VJ(*)」。ALSでは病気が進んでも、眼球運動は残るとされる。武藤さんはその目の動きを利用して、手と同じようにDJ・VJの操作をする「EYE VDJ」だ。

*映像を素材としてDJと同様のプレイを行う人。

WITH ALS / Via withals.com

武藤さんは3月15日、「20年後の未来、必ずALSは治る病気に。」というスローガンを掲げてクラウドファンディングを開始。世界初の「目で奏でるミュージックフィルム」の制作費を募り、約2週間で目標金額の300万円を達成した。

以降の支援金はALSの治療薬開発を目的とした「せりか基金」への寄付やWITH ALSの活動を通したALS患者支援に充てられる。

なぜ、音楽なのか。そして、なぜ、未来にこのような「希望」を抱くのか。抱けるのか。今はまだ、ゆっくりとであれば会話ができる武藤さんの、本当の意味で貴重な時間をいただくことで、直接、想いを語ってもらった。

「目で奏でるDJ・VJ」が生まれるまで

――なぜ、音楽という形での発信をしているのですか?

僕がALSという病気を告知されたのは、ちょうど「アイスバケツチャレンジ」、ALSの治療法開発支援のために氷水をかぶるという世界的ムーブメントの年だったんです。僕自身もWITH ALSという団体を立ち上げて、ロゴやステッカーを作って配ったり、あちこちで講演をしたりと、地道な活動を始めました。

アイスバケツチャレンジだと、ALSがどんな病気かが伝わらなかった経緯もあったので、例えばスポーツのイベントを共催して、「ALSになるとみなさんと同じようにプレーすることはできなくなる」ことを体験してもらって、その上で具体的な支援を考えてもらう機会を作る、というようなことをしていました。

このような活動を続けていくうちに、支援の輪をもっと広げていくためには、コミュニケーションの手法自体を、どんどん広げていかないといけない、と思うようになりました。特に、僕は当時、ALSの患者の中でも最年少に近かったので、自分らしいコミュニケーション形態で、支援の和を広げられないか、と。

僕が自分の人生において、ずっと大事に取り組んでいたのが、音楽と映像だったんです。そこで、ALSをテーマにした音楽イベントを開催して、その中で自分の病気の体験を歌詞にして楽曲を制作するなどして、「音楽というコミュニケーション形態でALSの啓発ができるんじゃないか」というのがスタートでした。

WITH ALS / Via withals.com

――「目で奏でるVDJ」は、どのように誕生したのでしょう。

当初、イベントでは自分の手を使ってDJをしていたのですが、病気が進んで、それも難しくなりました。でも、WITH ALSのメッセージは“NO LIMIT, YOUR LIFE.”、すべての人生には限界がない、というエールなんですね。だから、僕自身、これは言葉だけでなく、体現していくべきなんじゃないか、と。

手は使えないものの、どこだったら僕は今、動かせるんだろう。もっというと、ALSの先輩たちを見てきて、どこだったら比較的、最後まで残るんだろうと考えたときに、それが目の動きだったんです。

今まで、ALS患者さんにとっての視線入力装置は「最低限の意思伝達をおこなうもの」という暗黙の了解があった。でも、患者さんたちは、日常生活の中で、健常者となんら変わらずに、いろんなことを考えている。

だったら、意思伝達以上の、表現活動だってしたくなるのが普通だと、僕は思ったんです。自分でも、そこまで振り切ってやってみようとしたのが、目でDJ・VJをするというプロジェクトだったんですね。

今、これだけテクノロジーが発展していく一方で、病気による不自由を「テクノロジーで解決しよう」という動きはそう多くありません。ツール自体は増えてきているのに、応用ができていなかったんです。

ALSという病気は、高齢者に多い。僕は年代的にも、そして広告の仕事をしていたという経歴からも、テクノロジーの感度は高いので、今あるテクノロジーで、これを実現できないか。テクノロジーをセレクトして、使い方をデザインする、というところが自分の役割なんじゃないかな、と開発をスタートしました。

それがメガネ型のデバイスを活用し、眼の動きによって様々な電子機器のコントロールを目指す「FOLLOW YOUR VISION」というプロジェクト。このシステムにより、目の動きだけで音楽と映像を表現することができるようになりました。ようやく形になった、というところです。

――これは、武藤さん専用のシステムということ?

いいえ、そうではありません。開発にあたりこだわったのが、僕がプレイをする独自システムというだけでは終わらせずに、そのシステムを、日常生活に応用がする、ということです。IoTのデバイスとして、広く使われるものを目標にしました。

だから、僕が視線入力するプレイの軌跡が、システムの精度を上げていく。そうしてそのシステムを、例えばまばたきで部屋の照明を点けたり、消したりといった、みんなにとって便利なものに応用する。新しいものが生まれてくるように、システムはオープンソースで誰でも自由に開発できるようにしています。

僕が一番やりたかったのは、スマホのカメラ。ALSになり、「今、写真を撮りたい」と思ったときに、手で構えてシャッターを切ることが、できなくなってしまった。だから、まばたきでスマホのカメラのシャッターを切る、というアプリを、このシステムで開発したんです。

あらためて、テクノロジーによって本当に、ALS患者さんの可能性を広げることができることを体感しました。

WITH ALS / Via withals.com

でも、僕はここがスタートラインだと思っていて。最初は僕の頭の中の妄想だったものが、現実に「目でDJ・VJをする」ライブまで、できるようになった。その上で、これからは何をメッセージとして発信するか。

今回のクラウドファンディングで「20年後の未来、必ずALSは治る病気に。」をテーマにしたミュージックフィルムを制作するということが、僕たちにとっては初めてのメッセージになります。

なぜ「希望」を掲げるのか

――今はまだ、ALSは治療方法が確立されていない難病です。このような「希望」を掲げたのはなぜですか?

僕がALSを告知されたのは、仙台の病院でした。帰りの2時間強、新幹線の中で、すごく落ち込みました。「なんで自分なんだろう」と。でも、東京に帰るときには「絶対に前を向いて歩いていく」と決めました。というよりも、歩こうって思えない限りは、やっていけなかったですね。

個人的なことですが、今は妻になってくれた女性に、プロポーズする直前だったんですよ。でも、本当にプロポーズしていいか、すごく悩みました。彼女を幸せにすると約束する以上は、僕が病気と一番向き合って、前を向かない限りは、やっぱり何も状況が変わらないな、とその車内で……。

これはもう、「強がりでもいいから前を向こう」と決めて、東京に帰ってきました。そこから僕の戦いは始まっていて。じゃあ、自分ならではの、ALSという病気の患者さんや治療に貢献できることは、一体なんなんだろう。そう考え抜いた結果、今の活動に行き着いて。突き進んで3年以上やってきました。

――経済的な理由や介護の負担などを理由に、7割は延命治療を受けない選択をしています。簡単には「希望」を抱けない人もいそうです。

僕自身、ひとりでできることは毎日のように減ってきているんですね。逆に言うと、毎日、いろんなリミットが増えている感覚です。

ALSの発症から4年半が経って、僕自身も延命治療を迫られているタイミング。気管切開をして人工呼吸器をつければ、さらに制限は大きくなるでしょう。まだまだ、30%程度の患者さんしか、延命治療を望まないという状況もある。簡単なことではないというのは、身をもって理解しています。

実際、ALSの患者会などに講演で伺うと、当事者の方から「とはいえ、毎日、限界を感じる連続なんだ」「どうしたらいいんだ」と質問されることもあります。でも、だからこそ、患者さんとよく話すのが、「今、目の前にあることでいいから、一個ずつ、やってみませんか」ということ。

その方が、僕自身は、後悔のない人生だなって思いますし、ちょっとでも前を向くきっかけになればうれしい。制約が増えてきた中で、どうすればあと一歩を踏み出せるのか、というのが、僕自身にとっても、患者さん一人ひとりにとっても、大切なことだと思うんです。

ALSだけでなく、難病の患者さん、特に治療法がない場合は、「どうしたらいいの」って僕も思いますし、早く治療法を開発してほしいとも思います。ただ、思うだけじゃなくて、僕にとっては自分のことだし、傍観者でいたくないんです。

なんとか、僕自身もですが、悩んでいる人がいたら、この先の未来に希望を見出すことで、「これはもうちょっと生きてもいいんじゃないか」って思ってもらって、一人でも多くの人と一緒に、僕は未来に進みたいと思ったんです。未来に希望があると思えないと、どうしたってその判断はできないから。

昨年からのせりか基金や、アイスバケツチャレンジもそうですが、少しずつ希望は見えてきている。ただ、ここで行動を止めてしまったら、アイスバケツチャレンジの二の舞いになってしまう。だから、これからも今回絶対に伝えていきたいメッセージというのは、“KEEP MOVING”、動き続けていくこと。

動き続けて、未来に、ALSを治せる病気にしていきましょう、と。その未来って、待っていても来ないと思うんです。やっぱり、希望が未来にあるって信じられるようにするためには、行動し続けなきゃいけない。支援の輪が広がって、行動し続ける人が増えなければいけない。

僕はその未来を作るために、延命治療を受ける決断をしました。そして、やっぱりみんなで一緒に変えていきたい。今回のミュージックフィルムも、このメッセージをみんなに発信することが、現状を変える一番の方法だと思って、制作しています。

――現状を、変えられるでしょうか。

僕は「ALSは治せる病気になる」と本気で信じています。必ず。強いビジョン、目標は、揺らがないように掲げていこう、と決めていて。

例えば、僕は服が好きなのですが、この病気になって、着れない服がめちゃくちゃ増えました。でも、着れない服が増えたことを嘆くよりも、だったらその発想を元に、ファッションブランドを作ってみよう、と思ったんです。

オリジナルブランドのジャケットの袖口に刺繍されたゼロの文字。ブランド名『01』には、「人は自らの意思で0から1を生み出すことで、きっと世界は広がる、世界は変えられる。」というメッセージを込めている。
Seiichiro Kuchiki / BuzzFeed

オリジナルブランドのジャケットの袖口に刺繍されたゼロの文字。ブランド名『01』には、「人は自らの意思で0から1を生み出すことで、きっと世界は広がる、世界は変えられる。」というメッセージを込めている。

車イスもそうです。車イスってやっぱり「障害者用の乗り物」というイメージがものすごく強い。現に、僕自身も乗るのがめちゃくちゃ嫌だった。だったら、乗るのが嫌なら、誰もが「これカッコイイし乗ってみたいよね」とポジティブに選択できるものにしたらどうだろう。

そうしてようやく見つけたのがこの「WHILL」でした。値段が高いので、カーシェアのサービスも提供しています。患者さんたち、これに乗るとみんな、子どもみたいにわくわくしながら乗ってくれるんですよ。

武藤さんが乗る「WHILL」は、4輪駆動で、7.5センチの段差も乗り越えられるパーソナルモビリティ。PCのマウスを扱うように片手の指で操作できるため、不自由な手でも使いやすい。スマートフォンアプリで遠隔操作もできる。
WITH ALS

武藤さんが乗る「WHILL」は、4輪駆動で、7.5センチの段差も乗り越えられるパーソナルモビリティ。PCのマウスを扱うように片手の指で操作できるため、不自由な手でも使いやすい。スマートフォンアプリで遠隔操作もできる。

それって僕はすごく大事な、コミュニケーションの醍醐味だと思っていて。やっぱり僕らは、ポジティブに選択したくなるものを、提案し続けたいって思うんですよね。

障害を抱えた方へのアプローチとして僕らがこだわっているのは、いわゆる「障害者用」というレッテルのあるような、つまりネガティブに選択するアプローチというのは絶対にしたくない、ということ。どれだけ楽しみに、ワクワクして、それを選択できるか、というのを大事にしています。

現状を変えるというのは、簡単ではありません。でも、ダメだと思われていることを、そのまま、不可能で終わらせたくない。可能にするチャレンジだけは、絶対にしたい。可能にできるかどうかは、やってみないとわからない。

「目でVDJをしたい」と言ったときも、周りからは「絶対無理でしょう」と言われました。でも、実現できたんです。だから、やるかどうか、やり続けるかどうかが大事なのだと、僕は思っています。これからも、なるべくそこは、チャレンジし続けたいと思います。

自分にできることが減ってしまっても

――WITH ALSのチームについてはいかがでしょう。仲間が増えることで、何か変わりましたか?

今、チームとしてできることが、どんどん増えているんです。一人だと、身体的な制約があって、できることが減ったものの、クリエイティブという意味では、仲間が増えることで、できることが増えていく。まだまだ発展途上ですけど、挑戦しているという実感が持てるくらい、毎日やれているのは、ありがたい。

WITH ALSを立ち上げたときから、僕の活動というのはつまり、ALSとともに一緒にアクションを起こしてくれる仲間を増やしていく活動だと思っていて。クラウドファンディングも、支援の輪が大きく広がって、その人たちと一緒にアクションを起こせるので、同じ感覚です。

――仲間に対しては、どのような想いですか?

この体になって、一緒に制作をするチームのみんな、遅くまで仕事をして帰っても支えてくれる妻、家族のおかげで変わらずにいられている。本当にありがたいですね。

支援をいただいている方々には、感謝の想いでいっぱいです。僕の頭の中だけにあったものが、こうやって世の中に実現できていること。それが大きな会社とかじゃなく、一人の人間から始まったものでも、実現できるというこのプロセス自体に、すごく希望があると、僕はいつも思っています。

――武藤さんにとっての「希望」とは?

チームのみんなと話していて、思い浮かぶのは、まずは、ALSが治る未来。もう一つは、障害の有無に関係なく、ボーダレスな社会です。20年後を思い描いたとき、それを実現できているということが、希望なのではないかと、僕自身すごく思うんですよね。

この2年、自分でも、それを体現できてきたのではないかと思います。全身が動かなくても、目の動きだけでVDJができる。ステージの上では健常者のアーティストの方とも、他のマイノリティの方とも一緒にセッションをさせていただいています。

こうしていれば、垣根っていうのはいずれ必ず、なくなる。僕はそういう希望を抱いています。コミュニケーションとテクノロジーには、その力がある、とも。

ALSの治療法開発を支援するWITH ALSのクラウドファンディングはこちら


Seiichiro Kuchikiに連絡する メールアドレス:seiichiro.kuchiki@buzzfeed.com.

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