知性や感覚はそのままなのに、運動能力が衰えていく病気がある。手足が動かなくなり、声が出なくなる人もいる。ALS(筋萎縮性側索硬化症)だ。

日本には約1万人のALS患者がいる。呼吸や飲み込みの筋力の低下により亡くなる病気とされてきたが、人工呼吸器や経管栄養・胃ろうなどで長期療養も可能になってきている。
ALSを患う人たちの課題になるのが、コミュニケーションだ。手足が動かせない、声が出ない状態で、どう意思疎通を図るのか。
これまでは、例えば「透明文字盤」などを利用してきた。しかし、この方法は「必ず介助者を必要とする」「長文を伝えにくい」などの難点があった。

そんな中で、ALSなどのコミュニケーションに課題を抱える病とたたかう人たちのために開発された「ガジェット」がTwitter上で話題になった。
まずは、その様子を確認してほしい。
「車椅子で視線入力→発話ができて前方もみたい」というALS患者さんの要望を実現してみた結果・・・すごくSFっぽくなった



こちらは、投稿者の吉藤健太朗氏が開発した「シースルー デジタル透明文字盤」。SFを思わせるビジュアルは反響を呼び、「これが未来」といった感想も寄せられた。
AERA「日本を突破する100人」、米Forbes「30 under 30 2016 ASIA」にも選出された気鋭のロボット研究者である吉藤氏に、BuzzFeed Newsは開発の経緯を聞いた。
開発理由は「ALSの友人が社会に参画できるようにするため」。車イスに装着することで、外に出てコミュニケーションができる。
もともと、吉藤氏は『OriHime』という「分身ロボット」を制作していた。これは、入院や不登校などの事情で自ら外出や移動ができない人たちが、遠隔操作をすることで仮想的にそこに存在する体験を味わえる、まさに「分身」だ。

OriHimeは基本的にはタブレット操作を想定しているが、視線を測定するシステムと組み合わせれば、ALSのように運動能力が衰える病気の患者も、社会と関わることができる。
これが、今回の「シースルー デジタル透明文字盤」の開発につながった。
まず、吉藤氏はALS患者の「文字が入力したい」という要望に応える形で、『OriHime eye』という視線入力システムを開発。「目しか動かせなくなった寝たきりの患者が、会社に出社して給料をもらう形を実現した」という。
透明文字盤のデジタル化には成功したが、次の目標はALSの患者が「外に出る」こと。この「デジタル透明文字盤」には、利用者から「車イスに装着すると前が見えない」「重さで車イスが歪む」という意見があった。
そこで生まれたのが、軽量化・シースルー化に成功したこちらのプロトタイプだ。
シースルー透明文字盤を作ってみた。ALSなどの難病患者さんにお使いいただいてるデジタル透明文字盤はモニタのせいで視界が見えないという課題があったので、こうすると周りも見えるし発話も可能。
使われているのは、実は身近なモノばかり。画面はアクリル板で、そこに小型のプロジェクターから映像を投影している。画期的なアイディアだが、吉藤氏は「作ってみたらできたという感じ」と感想を話す。
しかし、「これはまだ完成ではない」と吉藤氏。
「もともと、ALSの友人たちがいたことが、開発の理由でもあります。仲間である彼らが病床にあっても社会参画を続けられる助けになるように、実際に使ってもらって、改良を重ねていきたいです」