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「正しい」医療情報発信のガイドラインとは メディアと検索エンジン提携の裏側

「誰を取材するか」を重視、信じ込まずに社内で再チェック。

6月4日に開始されたYahoo!検索と医療情報サイト『メディカルノート』の提携により、Yahoo!検索に「脳卒中」など病気の名前を入力すると、メディカルノートが提供する病気の概要や症状、原因などの情報が表示されるようになった。

近年、ネット上のウソや不正確な健康・医療情報が問題になる中、「ネットを通じた医療情報の収集に関する課題を解決し、ユーザーが正しい医療情報にアクセスし、適切な治療や対処につなげていくこと」が目標だという。

ヤフーは2018年1月に国立がん研究センターとの提携を発表したが、今回は民間企業との提携となる。特定の企業の情報を優先表示するというのは、検索エンジンとしては踏み込んだ対応だ。

では、今回の提携先であるメディカルノートでは、どのように「正しい」医療情報の信頼性を担保しているのか。情報に誤りがあった場合、メディカルノートおよびヤフーはどのように対応するのか。両社に話を聞いた。

「誰を取材するか」を重視

今回、Yahoo!検索との提携を実現した、メディカルノート共同創業者・取締役で医師の井上祥氏は、取材に対して「(提携により)社会的責任は増大した」と答える。

同社では、社内ガイドラインを遵守することで、医療情報の信頼性を担保しているという。

このガイドラインでは、企画段階から社内の監修医師が入る。また、取材をして記事を作成した後も、再び監修医師のチェックを受ける。取材をする対象は、同社が「キーオピニオンリーダー(KOL)」と呼ぶ医師たちだ。

KOLは、主に学会での活動が評価されている医師であり「必然的に教授・病院長クラスであることが多くなる」(井上氏)。それだけではなく、地域で活躍するかかりつけ医も含まれるという。

「臨床・教育・研究における第一線で活躍し、それぞれにおけるエキスパートとよばれる医師をKOLと定義しています」

取材する際には、複数のアドバイザー医師のチェックも必要だ。「誰を取材するか」を重視したガイドラインといえる。

信じ込まずに社内で再チェック

「不適格な医師を取材してしまうこと」を回避できても、「適格な医師がうっかりミスをする」ことはあり得る。そのため、社内でのエビデンス(科学的根拠)チェックも欠かさないという。

同社のメディアは、がん情報サービスや難病情報センターなどの公的なところと比べれば読みやすい。しかし、医師の説明に準ずる同メディアの記事には、やはり「難しい」といった声もある。

「病気になる前の人ではなく、病気になった人に向けた情報発信をする上では、できるだけ網羅的に解説されている方が、ユーザーの要望を満たせると考えています。ニュースやコラムではない、という位置づけです」

「噛み砕きすぎると不正確になる」という問題もある。一方で「口内炎」など比較的軽症の病気や、「頭が痛い」など症状ついては、より読みやすい記事にするなど、調整もしている。

その上で、30人ほどの専属チームを立ち上げ、Googleアナリティクスやヒートマップなどのツールで、記事が読者にどれくらい読まれているのか、読者がどこで離れてしまっているのかを分析。制作チームにフィードバックしているという。

「WELQアップデート」で流入激減も、回復

メディカルノートの記事数は2018年6月現在で現在約7000本。記事への流入は検索がメインだ。

訪問者数は月1000万人程度と、医療情報メディアとしては大規模といえる。2014年、数人で立ち上げた会社には、現在100人を超える社員がいる。

しかし、同メディアの歩みは決して順調ではなかった。医師監修を打ち出し、記事を配信し続けていたが、2017年末のGoogleのアルゴリズムの大規模アップデートにより、他サイトもろとも一気に検索順位が落ちてしまう。

「それによって大きくアクセス数が減少し、ユーザーにとって有益な情報を提供していると信じていながらも、情報を必要とするユーザーに届けられていないもどかしさを感じる時期もありました」

その後、Googleのアルゴリズム調整により、次第にアクセスは回復。通常の水準まで復帰したという。

ここまで4年、なぜ継続できたのか。背景には、メディカルノートのメディアが採算のみを追求しているわけではない、という事情もある。

同社は病院やクリニックの開業・経営コンサルや、在宅支援事業、医療機関ウェブサイトの制作、病院・学会・医局の広報およびマーケティング支援を収益の柱としている。

メディア部門はあくまで、同社のブランド価値を高めるためのもの。紆余曲折があってもメディア事業から撤退しなかったのは、創業時からの「信頼できる医療情報を提供する」ことへのこだわりがあったから、という。

6月17日には厚生労働省研究班とともに、希少がんの啓発活動を実施することも発表した。事業はますます社会性を増していく。

それでも、ミスは起きるかもしれない。ミスが起きたら、どうするのか。そう質問すると、井上氏はこう応じた。

「現時点で最善のチェック体制を敷いていますが、人間はミスをすることもあり、さらに医学は日進月歩で更新されています。常に“現時点でもっとも確からしいことは何か”と真摯な態度で向き合うしかありません」

検索連動型広告との整合性は

ヤフー側のメディカルノートの評価は。同社広報担当者は提携の理由を「医師の名前・顔を出している記事の比率が多いなど、実態を伴った医師監修の質の高いコンテンツを持っている企業だと判断」したためと説明する。

しかし、医師の名前があっても、顔を出していても、質が高いとは限らないことは、これまで他の医療情報メディアの問題でも明らかになったとおりだ。

もし、掲載情報に誤りがあった場合は「迅速に連携して掲載継続有無や内容の修正等を検討する体制を整えています」。その上で、「両社で連携しながらできる限り正確な情報をお届けできるよう努めております」とした。

ヤフー側で個別の医療情報の検証をすることはなく、メディカルノート側の体制チェックに留まる。掲載情報への問い合わせや意見があれば、「掲載継続の有無や内容の修正等を検討する」。

この取り組みにより、自然検索結果は改善されたといえるが、同社は検索結果への広告表示により収益を得ている。広告が多く入れば、ユーザーはなかなか自然検索結果にたどり着けない。

たとえば、以下は「免疫療法」というキーワードの検索結果だ。「免疫療法」は、エビデンスに乏しく高額であることに批判が集まる「免疫細胞療法」などを含む概念で、詳しい説明が必要だ。

1ページ目のほとんどは広告で埋まっている。「進行がんにも効く」「副作用が殆どない」などと謳う広告が表示され、2018年1月に提携が発表された国立がん研究センターの「免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ」は目に入りにくい。

どれだけ自然検索の信頼性を高めても、ウソや不正確な医療情報を含む広告が優先表示されては意味がないともいえる。ヤフーとしては、この状況をどう改善するのか、質問した。

「広告については事前審査や事後パトロールで各種法律上問題がないかの確認や、通報等を受けてチェックする体制を整えるなど、適切な広告の提供につとめています。今後も継続して、広告掲載の最適化に努めてまいります」