爆発的人気を集める10代のインフルエンサー 彼らは知られざる代償を払っていた…

    SNSで爆発的人気を誇る10代のインフルエンサーと、そのファンの世界を潜入取材。見えてきたのはごく普通なティーンとしての素顔だった。

    思春期というのは、ひどい年頃だ。ただ、ティーンエイジャーの最大の特典は、自分が熱中していることに関して、恥ずかしさをいっさい感じないことかもしれない。

    SNSなどで絶大な影響力を誇るインフルエンサーには、数百万人もの未成年のファンがついている。こうしたファン層の厚さと広さに、18歳を過ぎた大人は首をかしげるばかりかもしれない。けれども、全身全霊で何かに夢中になるティーンエイジャーにとっては、ちっとも不思議なことはない。

    リル・ザン(Lil Xan)が何者なのか、私にはさっぱりわからないが、激辛スナックを食べすぎて血を吐き、緊急搬送された彼の消化器官はとても心配だ。リル・ザンがどんな人物で、ティーンの女の子たちがなぜ彼の顔面タトゥーをそれほどまでに好きなのかを、10代の誰かが説明してくれないだろうかと思っている。


    ティーンエイジャーの好奇心をそそる人物に、14歳のダニエル・コーン(Danielle Cohn)がいる。彼女はネットで絶大な人気を集めているのだが、選挙権を持つ年齢に達した人のほとんどにはあまり知られていない(そういえば読者は、話題の有権者登録はもう済ませただろうか)。

    コーンは弱冠14歳にして、Instagramのフォロワーは260万人、動画共有アプリTikTokのフォロワーは1120万と、驚異的な人気だ(TikTokより、Musical.lyという名前のほうが知られているかもしれない。Musical.lyは15秒間の楽曲にあわせて口パクで歌う動画を投稿するアプリだが、2018年8月にTikTokと統合された)。

    コーンの動画に、何百万人ものフォロワーが耳を傾けるような価値があるというわけではない。何しろその中身は、メイクとヘアをばっちり整えたコーンが、強烈な明るさのリングライト付きスマホカメラに向かって、口パクで歌い、にっこりと笑みを浮かべて腰を振り、踊るだけのものなのだから。

    コーンは、ネットで大きな存在感があるが、実際に会ってみると、とても小柄だ。彼女のInstagramを見ると、たいがいの若い女性と同じで、パッと見た感じは、実際より大人びて見えるようにつくり込まれている。しかし実物は、エクステを大量につけたごく普通のティーンにすぎない。

    私は今年、初めてコーンに会った。そのときの彼女は、ロサンゼルス郊外のスタジオ・シティに、母親と兄、そして、シルバーポムという名前のグレーの子犬と一緒に暮らしていた。シルバーポムは眼感染症を患っていた。

    コーン一家はもともとフロリダに住んでいたが、コーンがインフルエンサーとして大成功をおさめ、いずれハリウッドに進出できるようにと、ロサンゼルスに越してきたのだ。多くのインターネットセレブたちも同じようにしている。

    コーンは、2つの重責を背負っている。貪欲で手厳しいファンたちを満足させなくてはならないし、家族の生活が彼女の肩にかかっているのだ。つまり、ネットでの人気を維持するのに加え、ライブイベントを開催し、スポンサー投稿をして得たお金で、新しい洋服を買い、エージェントにお金を払い、家族の生活費を賄うわけだ。

    さらにコーンは、これまでの短い人生のなかで、インターネットセレブであるがゆえに何かと論争に巻き込まれてきた。彼女のファッション外見写真の編集疑惑が取りざたされ、元カレで、(コーンほど有名ではないが)同じくインフルエンサーのセバスチャン・トペーテとの関係について、幾度となく批判にもさらされた

    コーンが弱冠13歳で17歳のトペーテとつきあい始めると、予想にたがわず、2人は大バッシングを受けた(関係はすでに終わっており、コーンはいま、モップのような髪の毛をしたこちらの男性とつきあっている)。

    コーンは、ネットフリックスのオリジナル番組「世界の"バズる"情報局」パート2の第2回に登場している。撮影したのは私だ。カメラが回っていないとき、私たちクルーは、ひたすらコーンと母親を待って過ごした。2人が、撮影のために何を着るべきかでなかなか折り合いがつかなかったからだ。

    娘のほうは、背中が大きく開いた服や、へそ出しファッション、ノースリーブと、かわいいスエットパンツ、白のスニーカーをあれこれ組み合わせる。ところが母親はそれに異を唱え、普通の長さのTシャツを着るか、せめて露出した肩を隠すためにジャケットを羽織るようにと言う、といった感じだ。

    ティーンエイジャーの娘とその母親にありがちなやりとりだ。言い争う2人を見ていた私は、自分と母親が繰り広げてきた口げんかを思い出した。コーン家では母と娘が毎朝、そうやって言い争いをしているのだという。

    もちろん、私と違ってコーンは、何百万ものフォロワーを引き合いに出し、自分の魅力、とくにお尻のラインが人気を集めるのに効果的だと言うことができる。

    「みんなは、カリフォルニアといえばいつも天気がいい場所だと思っている。だから私も、そう思えるような感じにしたいの」とコーンは母親に言う。

    「というか、私の1000万人のフォロワーはそういうのが見たいのよ」

    そう説明しても母親が頑として譲らないので、コーンは、丈の短いリネンのチューブトップ姿(みんな、90年代のファッションがカムバックしたよ!)で腰に両手を当て、私のほうを向いて大声でこう言った。

    「『あなたは』この服装が不適切だと思う?」

    母と娘は、期待を込めて私の答えを待った。しかし、私には何と答えたらいいのかわからなかったし、いまでもさっぱりわからない。

    14歳のコーンが発した「この服装は不適切だと思う?」という問いかけは、フェミニストを自認し、女性はみな年齢を問わず、自分と自分の体について自主的に決める権利を持つと信じているすべての人の心に、複雑な葛藤を引き起こす。

    好きな服を着たいと願うコーンの姿勢は、大人の女性がそう思うのと同じく、フェミニストとして勇敢な行為なのか? それとも、世の中の仕組みがまだよくわかっていないティーンエイジャーには理解しがたいかもしれない、危険な行為なのか? 

    私は個人的にはセクシスト的なドレスコードが嫌いだが、その好みは彼女にも適用されるのだろうか? 彼女には好きな洋服を着る権利がある、と私は思うのだ。一方で、コーンが服の好みについてバッシングされている点を見過ごすことはできないし、私はそうした声から彼女を守ってあげたい。しかしその際に、できれば、コーンや彼女の同世代向けにマーケティングされた当の服を着たいと思うことについて、恥ずかしいと思ってほしくない。

    10代の女性が公衆の面前で自らのセクシュアリティを発見していくさまを見て、人はつねに不快感を抱いてきた。人目にさらされる男の子についても同じく居心地の悪さはあるが、体や肌の露出度についての心配は、はるかに少ない。そしてもちろん、そうした考えそのものが、「なぜそうなのか?」という疑問を投げかけている。

    男の子は、(異性愛者としての)セクシュアリティについて早いうちに学び、そのとおりに行動するよう条件づけられる。対する女の子は、性的な対象として見られたことなど一度もないというそぶりを見せなくてはならない一方で、男性が注視するなかで、性的対象となっていく姿をさらさなくてはならない。

    コーンのネット上でのパフォーマンスには基本的に、目に見えて性的なところなどまったくない。それは、彼女が動画を撮影する様子をじかに見せてくれたときも同じだった。

    彼女はもっぱら、カメラに向かっておどけてみせたり、髪の毛をかきあげたり、腰を突き出したり振ったり、生意気な仕草をしたりするだけだ。性的対象になっているコーンのような女性を見て不安を覚えるのは、私たち大人が子どもを性的対象として見ているからだ。自分のパフォーマンスは性的なものではない、という彼女の言葉に嘘はないと思う。

    撮影中、私たちは近くの公園に行き、Instagramで動画をライブ配信することにした。3万2000人ものユーザーが視聴するなか、ひとりがコーンに対し、どんなマスカラを使っているのかと質問した。コーンはマスカラのブランド名をぱっと口にしかけた。

    そして、その名前「Better Than Sex(セックスよりいい)」の3つめの単語で口ごもると、決まり悪そうな顔で私を見てくすくすと笑った。その様子はいたって健全で、目の前の少女と、人前やネット上で演じているおしゃれな女性が同一人物であるとは信じがたい。

    私は、彼女のやっていることがすべて危険だとは言うことにためらいを覚える。というより、大半の女の子たちがやっていることのように見える。ただしコーンの場合は、自分自身とセクシュアリティを発見していく姿を人前にさらさなくてはならないという、痛ましいおまけはつくが。

    最後には母親の言い分が通り、コーンはクロップトップの上に渋々ジャケットを羽織った。母親は、女の子なら誰しも母とのあいだで経験したことがあるであろう手口を使った。娘を引っ張っていき、耳元で何か厳しい言葉をささやいたのだ。コーンは呆れたような表情で空を見上げると、言われた通り、チューブトップの上にジャケットを羽織った。

    けれども、インタビューする段階になって母親がその場を離れ、2人だけになってコーンのベッドに腰かけると、彼女は肩を振ってジャケットをするりと脱ぎ、二の腕をあらわにした。そして私ににっこりと微笑みかけた。私たちにはわかっていたのだ。彼女が勝ったことも、それが母親の小言をやり過ごす方法であったことも。それに何だかんだ言っても、彼女の何百万というフォロワーもまた、そんな彼女が見たいと思っている。


    もっと知りたい人はNetflixで配信中の『世界のバズる情報局』をチェック。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan