「女子高生の私が学生結婚した話」
目を引くタイトルの投稿に、心動かされる人が続出しています。
主婦のエムコさんがTwitterに学生時代の思い出を文章にまとめて投稿したところ、5万8千を超えるリツイートと16万以上の「いいね」が集まりました。
若くして結婚した経験をまとめたのかと思いきや、その感動の実体験に「大変面白く、ちょっとほろ苦かったです」「幸せな時間をありがとう」「不覚にも涙をこぼしてしまいました」と、大きな反響が寄せられています。
その内容は、家庭科の授業でクラスの友人と擬似結婚をする場面から始まります。
家庭科室に集められた私たちに先生は言った。
「今からみなさんには結婚をしてもらいます」(中略)
「クラスでこの人となら添い遂げられる、という人を見つけパートナーになって下さい。パートナーが見つかったら私の所に来てください」
相手はすんなりと決まり、同じ部活のマミさん(仮)と結婚することになったそうです。
パートナーになった私達は先生の所に行くと、一枚の紙を貰った。婚姻届だ。
その後、友人から証人の一筆をもらったエムコさんたちは、先生の元に提出しに行きました。
婚姻届を隅々まで見渡した先生は我々の結婚を承認してくれた。
「おめでとう、そしてこれは貴女たちの子よ」
次に先生に差し出されたのは油性ペンで顔の描かれた正真正銘の生卵だった。
「げんきな男の子です」
いいえ先生これは生卵です、と言い掛けたが真剣な彼女の表情に口をつぐんだ。
「今度はこの子に名前をつけて、貴女たち夫婦の子として面倒を見るのです。これから1週間、2人で分担しながらその子を傷つけずに毎日家に持ち帰り、登校してきたら家庭科室の前に置いてください」
その後、受け取った卵を“大介”と名付け、マミさんと3人の幸せな家族生活がスタートします。日に日に大介を愛おしく感じるようになりました。
だが幸せな生活は突然終わりを迎えることとなる。私は手を滑らせ、(大介を)地面に落としてしまった。
(中略)
取り乱したマミの大介の安否を尋ねる声が聞こえる。
私は「見ない方がいい」と言い残し、大介だったものを手に取り泣いた。
1週間が経ち、私たちは再び家庭科室に集められた。クラスの中の20組近い夫婦の中で、我が子を守り抜いたカップルは半数を切っていた。
先生は言う。
「子育てというものは想像を絶するほど大変です。どんなに気をつけても事故や怪我が起きる。みんなのご家族もそうやって神経をすり減らしながらあなたたちを育てて来たんですよ」
そして、我が子を1週間守り抜いた友人が先生にこう尋ねます。
「先生」
(中略)
「これからこの子達はどうなるんですか」
「ホットケーキにして食べましょう」
笑顔で返す先生にクラスの全員が言葉を失った。
(中略)
もうこの世にいない大介を偲びながら食べたホットケーキは、ちょっとだけ涙の味がした。
甘酸っぱい青春の思い出である。
(※実際の調理実習は、全ての卵を新鮮なものに交換して行われたそうです。エムコさんのnoteより一部抜粋し、一部省略)
BuzzFeedは、投稿者であるエムコさん(@m_emko)にお話を聞きました。
ユーモアを愛すエムコさんは、高校時代に受けた授業の思い出をエッセイにし、Twitterだけでなく、noteにも投稿しました。
タイトルを「女子高生の私が学生結婚した話」としたのは、含みを持たせて興味を引きたかったからだそうです。
初めてのエッセイだった
この投稿を書き始めたのは、投稿の5日ほどだったと振り返ります。
「集中力がないので、昔から本が全くと言っていいほど読めず、文章を書くのにも苦手意識とコンプレックスがありました。避けて通っていたら人生で困ることがモリモリ出てきたので、自分の気持ちを伝える文章を書けるようになりたいと思い、練習として実際に体験した出来事をエッセイにしてみました」
「自分が書いた文章を人がどう感じるのかが知りたくて、Twitterにも載せてみたところ予想もしていなかったくらい多くの方々に見ていただけて、とても驚いています。今でも信じられません」
「感動したエピソードを書いたつもりはありませんでした。『何てくだらないんだ!』と一笑してもらえたら嬉しいな、と単純娯楽エッセイを書いていたつもりでした。だから、皆さまからいただいたコメントを見て大変驚きました」
大反響の裏では反省も.....
大きな反響があったものの、人に過去のエピソードを伝える難しさを改めて実感したそうです。
というのも、我が子を守り抜いた生徒たちは、その卵を使って調理したと書いていましたが、実際には全員が新しい新鮮な卵を受け取っていた、とクラスメイトから連絡があり、この点は勘違いだったと気づいたからです。
「自分の手から離れた言葉は、受け取る人の感性に委ねるしかないんだと感じました。だからこそ、なるべく思いが伝わるような文書を紡げたらいいんですが、それが本当に難しいです」
愛しの大介の写真
文章からは、落としてしまった瞬間の悲痛な叫びが聞こえてきそうなほど、その悲しみが伝わってきます。
大介君を落としてしまった時、どのように感じたのでしょうか。
「自分が大雑把で粗暴な故に大介を傷つけてしまい、大介にも妻にも申し訳なかったです。 優雅で慎ましい人間になりたいです」
「心臓が凍る瞬間が何度もありました」
文章の中で先生は「子育てというものは想像を絶するほど大変です。どんなに気をつけても事故や怪我が起きる。みんなのご家族もそうやって神経をすり減らしながらあなたたちを育てて来たんですよ」と説明しています。
現在のエムコさんは、どのようにこの言葉を受け止めているのか聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「私は高校卒業後、幼児教育の道に進んだので、先生の言葉はクラスメイトよりも早く痛感することになりました。子どもは年齢が幼ければ幼いほど、危険を認知できないためいつも死と隣合わせです。5年ほど幼児教育の仕事に就きましたが、心臓が凍る瞬間が何度もありました」
「私は当時、『変わった授業だな〜』と面白がっていただけなので偉そうなことは言えません。ですが、家庭科の先生は、たとえ私たちが結婚や子育てを選択しない人生を歩んだとしても、幼い命に対する理解とそれを取り巻く人への敬意を持った振る舞いができる大人になってほしいと思っていたのかもしれません」
「私たちは高校生でまだまだ未熟な子どもでしたが、授業で学ぶ事をそのまま受け取るのではなく、そこから何を感じて何を選択するかを自分で判断できる人になれるように導いていただいたと思います」
「先生ありがとうございました。先生の授業を受けることができて良かったです」
今回、投稿に様々な反響が寄せられたのを受け、先生に連絡をとったといいます。
時間をかけて当時の思い出を文章にしたためたこと、大きな反響があり嬉しく思ったことなどを伝えたそう。
先生との会話をエムコさんはまとめています。
「あの授業はね、ずっとやりたいって思ってたんだけど機会に恵まれなくて。エムコさんが居たこのクラスの子たちなら出来る、そう思ってやってみたの。後にも先にも、あの授業をしたのはあの時一回だけなのよ。」
(中略)
先生は続ける。
「エムコさんのクラスはほとんどが女の子だったでしょう。異性と結婚した子もいたけどほとんどが同姓で結婚した。覚えてないかもしれないけど、あの時シングルを選択した子も居るのよ」
「どんな形を選択しても、卵を育てる上で色んな感想があった。もし落としたのが卵じゃなくて本当の子どもだったら一生障害が残るような怪我をさせてたかも知れない。もし卵じゃなくて本当の子どもだったら泣いたりグズったりしてもっと大変だったかも知れない。みんなの感想を見て、私はやって良かったなって思ったよ」私は先生の話を聞いて、あぁ先生と私は同じ思いだったと安心した。
どんな形を選んだとしても、命を守り育む大変さというものは変わらない。経験したからこそ気づける何かが、あの授業にはあったのだと思う。
(エムコさんのnoteより抜粋)
先生の熱い想いは、しっかりと生徒に届いていたようです。
様々な家族の形がある中で、命のありがたさを再認識する素敵なお話ですね。