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性欲はある。でも...。性行為をしたいと思ったことがない大学生 抱えた違和感

「『ないこと』を誰かに証明することはすこぶる難しい。だから理解してもらえない苦しさを日常的に感じていました」

セクシュアルマイノリティ(性的少数者)を表す「LGBTQ+」は、5つの言葉の頭文字を並べた言葉です。

L=女性の同性愛者「レズビアン」

G=男性の同性愛者「ゲイ」

B=恋愛対象が男女両性である「バイセクシュアル」

T=生まれた時に割り当てられた性別とは異なる性を自認する人を指す「トランスジェンダー」

Q=セクシャルマイノリティの総称である「クィア」や性的指向や性自認が定まっていない「クエスチョニング」など

では、最後にある「Q+」は何を示しているのでしょうか?

これは、上に挙げた5つの頭文字には含まない多様な性を表現しています。

そのうちの1つが、「ノンセクシュアル」。

恋愛感情は抱くけど、他人に性的欲求が向かないセクシュアリティです。

「フィクションなどでの性的な描写への抵抗(嫌悪感)はないし、性欲自体はあるんだけど、好きな人や恋人と性行為をしたいと思ったことはないです」

BuzzFeedの取材にこう話すのは、大学生のBさん(仮名)。

「“恋人らしい”ことをするのに抵抗感があった」

そんなBさんが、自身のセクシュアリティを自認するきっかけとなったのは、大学に入って男性とおつきあいを始めた時のこと。

「高校まで女子校で育った私は、大学生になり初めて同年代の男性と関わり、恋人となりました」

「最初は、ノリと勢いでお泊まりもしたんだけど(性行為を)最後までせずに終わりました。でも我にかえったら、好きだった相手が向けてくれた性欲が気持ち悪い 、性的に見られているのが嫌だと感じてしまって、どうしても受け付けなくなってしまったんです」

「相手は『わたしがしたくなるまで待つ』と言ってくれたけど、隠しきれない『早くしたい』という感じに嫌悪感を抱いてしまい、それが理由でお別れしました」

「それからもう1人とお付き合いをしたけど、友達・人として大好きなのに、恋人になってからは“恋人らしい”ことをするのにすごく抵抗感があって、とても苦しかったです」

「結局、関係が終わってしまった理由は、わたしが相手に“恋人として当たり前の感情”を向けられなかったからでした。そのせいで、相手を傷つけてしまったのだという罪悪感に悩まされました。ドラマに出ている俳優や友達が当たり前にしている“恋人らしいこと”ができない、したいと思えない自分は異常なんじゃないかって」

「どんな恋愛ドラマでも、キスやハグ、ベッドシーンが出てきて、まるで恋人なら身体的な親密性は必須だと言われているように感じていました」

LGBTQ+の1つ、他者に恋愛感情は抱くが性的欲求は抱かない、もしくはそのどちらも抱かない人を指す「アセクシュアル」の存在は、当時から知っていたというBさん。

しかし、性欲がないというわけではなかったため、自分は周りと違うのかもしれないと思いつつも、当てはまるとは思っていなかったそうです。

「だけど、友達が『アセクシュアルかもしれない』って話していた時に、『え、私もその感覚同じなんだけど』ってなって」

もしかしたら“異常だ”って思って押し込めていたわたしの感覚も、ちゃんとした1つのカテゴリーに入るのかもって思ったのが自認のきっかけかな。その時のほっとした感情は、今でも覚えています」

「性行為がなくても、二人の関係は完璧なんだよ」

しかし、自分のカテゴリーが見つかったからと言って、周囲からの理解が得られるわけではありません。

「付き合ってる人に性行為がしたくないって伝えるのが難しくて、そのたびにくじけそうになります。相手のことは大好きなのに『男性として見られないってことだよね』と深く傷つけてしまった経験があって。だから、性行為がなくても、『二人の関係は完璧なんだよ』って伝えたいんです」

さらに、家族や友人のふとした発言や、世の中で目にする言葉にも、それぞれモヤモヤした気持ちが残っていると話します。

「よく母から、『そういうこと(性行為)したいと感じる人といつか出会うよ』と言われます。悪気はないんだろうけど、誰かに性欲を感じて、性行為をして初めて一人前みたいな規範を感じます」

「もし私が誰とも性行為をしないなら、私は一生完成しないかのような感覚になってしまいました」

「友達からの『どこまで進んだ?』という言葉にもモヤモヤします。付き合うということは、“すごろく”じゃないのに。なにかコンプリートするものが存在して、それをクリアしていけば完璧な恋人になれるみたいな期待も感じます」

「それと直接は言われたことはないけど、『18すぎて童貞や処女はありえない』とか、性経験によって人を判断する人の話を聞いたことがあって、その時もなんだか落ち込んでしまいました」

「ないことの証明はできない」

そんなBさんを救ったのは、「ないことの証明はできない」という考え方だったといいます。

「性欲や恋愛感情が“ない”ことの証明は、とても難しいという意味です。数学の悪魔の証明になぞらえてアセクシュアルについて書かれたnoteを読んで、この考え方がすっと入ってきたんです」

「わたしが性行為に対して気が進まないことを人に話すと、『あなたにはまだ性経験がないからだよ』って勝手に決めつけられることがたびたびあり、その度に自分自身の感覚を否定されたような気持ちになります」

自分の感覚は、自分にしかわからないはずなのに。『ないこと』を誰かに証明することはすこぶる難しい。だから理解してもらえない苦しさを日常的に感じていました」

「でもこの言葉で、他にも、この恋愛と性行為が密接に結びついた社会のどこかで、闘っている仲間がいるんだなって気づいて、心強くて涙が出ました。ないものはないままでも、自分は完全なんだと信じていいんだって思えました

「LGBT運動は、相手がいることが前提だったり、パートナーとの権利を認めて欲しいというゲイやレズビアンの活動が多かったりしたように思います。もちろんその点に異論を唱えることはしませんが、それこそ恋愛や性行為をし「ない」、あるいは「したくない」人はいないことにされてしまっていたと感じることもあります」

「レインボーフラッグに、アセクシュアルの象徴と言われている黒がないことで、アセクシュアルが排除されているのではないか、という議論も聞いたことがあります。"Love is Love"と言うけれど、恋愛感情や性的欲求を持たない自由もあったらいいなとも思いますね」

「自分が心地よいと思える関係を、自分で選び取っていくんだよ」

今まで、様々な経験をしてきたBさん。

過去の悩んでいた自分に贈りたい言葉を聞いてみると、「いい質問ですね」と笑いこう続けます。

「あなたは誰かにジャッジされるだけの存在じゃない。自分が心地よいと思える関係を、自分で選び取っていくんだよ」

「もし関係性がうまくいかなかったとしても、それはただあなたが不完全だったからではなくて、相手とあなたが合わなかったというだけ。全ての物事が移り変わるように、変わらない環境はない。今抱える不安は、必ず別の形に姿を変えるから、安心して自分らしくいて大丈夫」

「ちっぽけに思えるかも....」

最後に、同じように悩んでいる、あるいは初めて「ノンセクシュアル」について知ったという読者へのメッセージも尋ねてみました。

「身の回りにあふれている情報、隠れた規範にさらされ続けて、評価軸が自分以外に移ってしまうことがたくさんありますよね。例えば、ドラマでのお決まりのシーン。付き合ったら必ず性行為するんかい!っていう」

「こうした情報の積み重ねでできた“当たり前“に押しつぶされて、それに当てはまらない私っておかしいのかなって思ってしまう。“当たり前“って、時に偏見の集まりにもなり得るし、場所や文化が変われば全く違う相対的なものなのに」

「そんな時は、わたしはテレビを消して、SNSも一度おやすみして、評価軸を自分に戻すことに集中します。そしたら、『周りがこう思うから』とか、『これが普通だから』と無意識に自分を縛って不完全だと思わせてきたことが、ちっぽけに思えるかもしれません」

「自分が心地よければ、他人や社会の目なんて結局そこまで重要ではないと思います。社会にそぐわない自分がおかしいんじゃなくて、ありのままの自分を否定したり、ないものにしたりしている社会がおかしいんじゃないかって考えたりするのもありだと思います」

(サムネイル:Getty Images)

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