「風」を失った民進党 枝野幸男が描く復活への「リアルな」道筋

    民進党代表選、BuzzFeed News単独インタビュー。枝野さんのキーワードは「リアリズム」。政権を経験し、変化があったと語るーー。

    民進党代表選が始まった。BuzzFeed Newsは立候補を表明した枝野幸男さん(53歳)、前原誠司さん(55歳)に単独インタビューを申し込んだ。今回は枝野さんのインタビューをお届けする。

    前原誠司さんのインタビューはこちら

    「ナンバー2」はトップを目指す

    応接間に通されるとハガキはテーブルに積み上がり、お茶や缶コーヒーも箱で用意されていた。人通りも少ないお盆休み明けの永田町である。そのなかにあって、枝野幸男さんの部屋はまさに「選挙事務所」となっていた。

    2011年3月11日、東日本大震災と福島第一原発事故を官房長官として経験し、スポークスマンとして記者会見に立ち続けた姿を記憶している人も多いだろう。

    官房長官や幹事長としてリーダーを支えてきた「ナンバー2」が、自らリーダーになるべく名乗りを上げた。支持率が伸び悩む民進党の活路を、どこに見いだすのか。安倍政権との違いを、どう打ち出していくのか。

    《安倍政権は上から下へのトップダウン型です。上が強くすれば、全体に行き渡るという政治です。我々は暮らしの現場から政治を動かして、政治を立て直していく。ボトムアップ型という違いがある。》

    安倍首相が唐突に打ち出した自衛隊を明記するという改憲案——

    《いまの安保法をもとに改憲すれば、立憲主義を破壊した集団的自衛権を追認することになる。これは党として賛成する余地、協力する余地はない。(民進党)綱領には専守防衛が前提だと書いてあります。(反対するのは)安倍さんだからではなく、綱領に書いてあることだからです》

    震災、原発事故こそ原点。リアリズムある脱原発

    枝野さんは官房長官だけでなく経産大臣も務め、誰よりも原発問題には精通していると自負している。だからこそ、と語気を強めるのだ。

    《私の政治家人生は、あそこで変わりました。最優先事項は、原発事故の被害者、東日本大震災の被災者にどう寄り添えるのか。これが最大のテーマになったんです。

    (震災と原発事故で)支え合いとか、絆が壊されたんですよ。家族や地域、コミュニティーが政治の結果として壊れた。それを補うものを政治がつくらないといけないんです。》

    安倍政権、自民党との違いを聞いたとき、もっとも力を込めたのが原発問題だった。彼は2011年3月11日を政治家人生の原点、と捉えている。あのとき、政権内部にいた政治家として何を教訓と捉えているのか?

    《原発についていえば、絶対の安全はありえない、ということだけが絶対なんです。これが教訓なんです。一度、事故が起きてしまったときにこれを止めることがいかに難しいか。

    できるだけ早く、原発をやめます。私だから、リアリズムを持って、原発をやめることができるんです》

    《やめるには、やらないといけないことがあるんです。工程表も明確に示しますし、原発立地地域をどうしていくかも政治が示します。

    使用済み核燃料をどうするのか、廃炉技術者をどう養成するのか。政権を取ってから決めるんじゃない。取ったらすぐ着手するために示すんです》

    「原発をやめるってそんなに左派的なんですか?」

    脱原発という言葉は「リベラル派」、もう少し踏み込むと「左派」の言葉として使われている。

    観念的で、理想主義的——そんな揶揄も込められている。枝野さん自身もよく「リベラル派」だと言われるが、彼は理想主義よりも、むしろリアリズムに基づく脱原発論者なのだと自認している。

    《経産大臣のとき、2012年に大飯原発の再稼働を決めました。2012年の状況ではやらざるを得なかったんです。

    もし電気が止まって、関西圏で死者がでたらどうなるか。逆に原発をやめようという動きは止まります。私はこれを恐れました。リアリズムに徹しているからこそ、再稼働も決めたのです。》

    だいたい、と問いかける。

    《原発をやめるってそんなに左派的なんですか? 絆や家族が壊されたんですよ。大事な国土を汚染して、人が住めない状況を作ってしまった。(家族や国土を大切にする)保守派こそ脱原発に賛成すべきではないですか?》

    枝野さんの脱・緊縮財政宣言

    「リアリズム」は経済政策でも貫く、と明言した。

    《私は緊縮財政論者だと批判されています。しかし、ここで明言します。現状の私は緊縮財政論者ではないし、いまの日本の状況で緊縮はありえません。

    いまの安倍政権が取り組んでいる金融緩和を、政権交代で打ち切ることは不可能です。私が首相になっても継続します。金融政策は時々の状況で判断するもの。「べき論」だけでは進められない。》

    脱緊縮派宣言である。無駄は削りつつ、しっかり財政出動をする。ただ、自民党とは、お金の使い道が違うのだと強調する。

    《看護師、介護職員、保育士など、低賃金で潜在需要がある、公的な仕事があります。その賃金底上げのために、財政出動をします。

    これは景気対策なんです。正しい理念だからということもありますが、景気対策だからやるんです。》

    失われた「風」を求めてーーでいいのか?

    枝野さん自身の政策が明確なのはわかった。

    大きな問題では、原発政策を進める自民党に対し、脱原発を訴える。安倍政権の改憲に対し、立憲主義に基づく憲法論議を求め、アベノミクスの金融緩和路線を継続した上で、財政出動の投資先で違いを作っていく。

    しかし、これで民進党はまとまるのだろうか。

    失われた風を求めてーー。かつての「仲間」の中には、「風」を期待してすでに民進党を飛び出した人もいる。

    ピンチのたびにまとまれない印象はぬぐいきれない。どうやって信頼を回復し、政権交代の選択肢として見てもらうのか。

    《私は3年3カ月の経験は貴重な財産だと思っています。信頼回復は地道にやるしかない。地域の活動、普段の発信、党のガバナンス含めて地道にやるしかない。民進党は党員、サポーター、地方議員が全国にいる。

    こうした方々が民進党なんです。国会議員だけではない。地域で活動している皆さんが自信を持って活動する政党にしたい。》

    民進党は「本格政党」

    風まかせより、地道な政党でありたい、と枝野さんはいう。

    《私自身、日本新党ブーム、「風」で初当選をしました。しかし、地域に根を張っていない政党は、本格政党たり得ないのです。民進党は本格政党です。

    いっときの風はもろい。風に乗り続けるためには、ポピュリズムを徹底するしかなくなるんですね。

    これは日本の政治にとってマイナスです。地域に根を張っている皆さんの声を聞きながら、ガバナンスを進める。選挙に得だから損だからと国会議員が右往左往することで、党全体が右往左往してはいけないんです》

    《(野党共闘については)「不満があっても仕方ない」でまとまる範囲内でやります。党内に対する説得と、他党との交渉を重ねる。言われるがままにやりましょうという話ではない。これは政治の技術論ですよ》

    本格政党をつくるには時間が作る

    自民党議員からは「政局があったとしても、自民党政権は続く」と言われ、党内からは「解党的出直し」論まで聞こえてくる。トップに立ったとしても、腕力が問われる局面は続く。

    自民党に対抗できる、全国各地に根を張った政党を作るには、10年単位で時間がかかる、と枝野さんは何度も強調した。

    それは、何かあるたびに「風狙い」で浮き足立ち、積み上げたものを壊そうという声が公然とあがる。そんな状況に抗おうとする、決意表明に聞こえた。

    自民党内の擬似政権交代でも、風まかせでもない野党——目指すべき民進党をつくることはできるのか。

    すべては9月1日の代表選で明らかになる。


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