父が自死、母ひとりの子育て…中2の原点 前原誠司がめざす「支えあう社会」

    民進党代表選、候補者単独インタビュー。前原誠司さんが目指す社会像、そして政治家としての思い。

    民進党代表選、BuzzFeed Newsの候補者単独インタビュー。今回は前原誠司さんのインタビューをお届けする。枝野幸男さんのインタビューはこちら

    昨年の代表選で敗れた前原誠司さん(55歳)が今年も立候補した。

    社会政策としての「All for All」を掲げて

    全面的に打ち出すスローガンは昨年と同様、社会政策としての「All for All」——すべての人が負担者であり、すべての人が受益者であるという考え方である。

    「安全保障に強い保守派」の前原さんが、なぜ社会保障を全面に押しだして語るのか?

    2017年8月22日、前日に立候補の記者会見を終えたばかりの前原誠司さんが議員会館にあらわれた。応接間には趣味で撮影しているSL写真がずらりと並んでいる。

    各メディアは国会議員票を固め、前原さん優勢であるとこぞって報じている。本人の表情は柔らかいが、なにより語りたいのは情勢、政局よりも自身の政策だった。

    再分配を強化したい

    まずは経済政策。自民党との違いをこう語った。

    《自民党モデルは、戦後復興期、高度経済成長のときはうまくいったと思うんですよ。ところが、バブル崩壊後、このモデルはうまくいかなくなった。

    いま、みんな苦しい生活をしていますよね。若い人は給料が下がっているから、消費にお金がまわらないんです。

    高齢者も、年金が減らされ続け、将来不安から過剰貯蓄に走って、こちらも消費にお金がまわらない。これでは経済も成長しません》

    具体的に何をするのか。

    《不安を解消させる再分配政策、例えば若い人向けに教育の無償化政策を実現することで、安心してもらう。そうすれば、消費にお金が回って、経済の好循環が生まれると思うんです。》

    最初に語り始めたのは、得意の安全保障問題でも、改憲でもなく再分配を強化したい、という宣言だった。なぜか。

    「増税という言い方はしたくない」

    《自民党モデルは上から下への社会政策ですが、私は生活を底上げするボトムアップ型の社会政策を目指したいんです。

    大事なのは機会の平等が大事です。どんな地域、どんな所得の家に生まれても、機会は平等に与えられるということを大事にしたい。》

    では、財源はどうするのか。前原さんは「よく書かれるような『増税』という言い方はしたくない」と語る。

    《考え方として打ち出したいのは「応分負担」です。提供する行政サービスに見合った分を納得していただきながら、ご負担していただくこと。私たちは、そのための説明からは逃げません。》

    子供の貧困、障害者福祉に力をいれる

    政策ブレーンは、財政学者の井手英策さん(慶応大教授)だ。前原さんとは『分断社会ニッポン』(朝日新書)で語り合っている。

    前原さんが「改革=削る」という考え方を転換したのは、井手さんとの出会いがきっかけだったと語る。「必要なところまで、無理に削ってしまい、それが社会問題を生み出してはいないか」(『分断社会ニッポン』)。

    前原さんらが今年まとめた「民進党尊厳ある生活保障総合調査会」の中間報告にも、井手さんがアドバイザーとして関わった。

    この中間報告には貧富の差による分断、世代間の分断をなくすという決意が記されている。

    《この間、児童養護施設や子ども食堂、障害者施設にも足を運びました。社会が劣化しているなかで、政治が再分配政策をやらないといけないと思ったんです。

    「子供の貧困」を解消し、手薄な障害者福祉にもスポットを当てたいと思っています。誰もがリスクを抱えて生きている以上、何かあっても支え合う社会にしたいんです。》

    父の自死、母子家庭、中学2年の原点ーー

    前原さんが社会政策を訴える、原体験はどこにあるのか。

    《中学2年の時から母親一人に育ててもらったということです。》

    前掲書でも触れられているが、前原さんは中学2年のとき父親を自死で亡くした自死遺族だ。京都大学に進学したが、奨学金だけでは足りずにいくつかアルバイトを掛け持ちしていた。

    《社会にお世話になりました。例えば奨学金ーもちろん、奨学金制度は見直しが必要です。私も30代半ばまで奨学金返済していましたからねーや授業料免除、こういったものがなければ、大学まではたぶん進学できなかったと思うんです。》

    《母子家庭だからという理由でいじめられたとか、嫌な思いをしたことはないんですよ。

    苦労しましたが、よかったと思います。だからこそ社会の支え合う仕組み、人の優しさがリアルにわかるんですよね。

    このときから「すべての人にチャンスを」というのが原点なんです。例えば(貧困世帯が多い)ひとり親世帯の置かれている状況は、なんとしても変えたい》

    改憲問題へのスタンス

    一方で、前原さんといえば「改憲」である。安倍首相は、憲法9条に自衛隊を明記すると打ち出した。これは以前から前原さんが主張してきたことに近いのだが……。違いはあるのだろうか?

    《安保法はできが悪い法律です。いまのまま自衛隊を憲法に明記すれば、違憲の法律(=安保法)が正当化されてしまう危惧があります。

    憲法の議論からは逃げません。しかし、安倍さんが打ち出した憲法改正のスケジュールは、拙速すぎる。》

    安倍政権が失速する中、民進党はなぜ信頼を得られないのか?

    前原さんは、国民に見透かされているからだ、と語る。

    《民進党の議員は日本を考えているのでなく、次の選挙が大事だと思われているのではないでしょうか。つまり、政治家ではなく、議席を考えている政治屋集団だと見られている。

    大事なのは国家像を打ち出すことです。それを打ち出すことで選挙ありき、野党共闘ありきではないことを明確にする。みんなが、一致してAll for Allを伝えていく。》

    ピンチの時こそまとまれない。選挙の「風」を頼みに人が出て行く。これが旧民主党時代から続く悪癖だ。

    では、離党した議員が戻りたいと言ったら?

    答えはこうだ。

    《理念・政策が一致するところでいきたい。そこが判断基準ですよ。党を離れた人たちが協力したいというなら、それは一考の余地がある。

    私は選挙協力について、みんなに同じこと言っているんです。政策・理念が一致するところと協力する。

    都民ファーストとは含みを残して、共産党とは否定的と書かれていますが、私の言っていることは変わりません。》

    9・6・3の大切さ

    前原さんの思考がよく現れていたのが、こんな発言だ。

    《よく9・6・3って言っているんです。これができれば小選挙区で勝てる、と。民進党の支持層を9割、無党派を6割、自公支持者を3割とる。

    特に大事なのは6なんですよ。(左に位置する)共産党と協力しすぎと見られると、ど真ん中にいる6を取り逃すんです。》

    1年前もこう言っていた。

    「ど真ん中が空いているのに、わざわざ左に打ち込む必要はないというのが、私の考え方。民進党は良識的な保守の受け皿にならないといけない。その方が、より有効な路線だと思っています」

    「ど真ん中」を取りに行くことを目指す。だが、強力な与党ブロックに対抗するためには、時にリアリズムも必要だ。

    《もちろん、すべての選挙区で候補者を立てようと思いますが、物理的に無理なこともある。そうなったときは、安倍自民党、自公政権に漁夫の利を取られないように考えます。

    ひとりでも多くの議員を当選させることを、どう実現するか考えますよ。それが代表の役割です。》

    政党としての強い理念を打ち出し、選挙でも存在感を発揮できる民進党に変貌することは可能なのか。

    9月1日は、民進党という政党のカラーを決める1日になりそうだ。


    枝野さんのインタビューはこちら

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