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「疑惑の本命は朴大統領その人だ」 韓国政治専門家が読み解くシナリオ

問われているのは朴大統領のリーダーシップ。トカゲの頭は誰なのか?

さっぱりわからない。

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領を巡る機密流出スキャンダルのことだ。渦中の主役は、朴大統領、そして大統領と苦楽をともにした新興宗教家の娘、崔順実(チェ・スンシル)氏だ。情勢は日々、刻々と変わっている。

謎の多い新興宗教家の娘が、朴大統領を取り込み、国家機密や国政に深く関与できる「陰の支配者」になっていた……。

映画顔負けのストーリーに目がいってしまうのだが、本当の問題はどこにあるのか。韓国政治の専門家、新潟県立大大学院の浅羽祐樹教授はこう断言する。

「疑惑の本命は朴大統領その人です」

「崔氏や側近は言ってみればトカゲの尻尾。トカゲの全体をみることが重要で、頭や図体は朴大統領や大統領府・政府です。政策決定の正常なラインから外れたところにいた『陰の支配者』のいうことを聞いてきた大統領でいいのか。それこそが問題の根幹です」

「今回の疑惑の特徴は従来、大統領に近かった保守系メディアも、足並みをそろえて批判を展開していて、朴大統領が四面楚歌の状態にあるということです」

浅羽さんの解説や、韓国メディアなどの報道によると、今回の大きな疑惑は2つに整理することができる。簡単にまとめておこう。

最初に報じられたのが、崔氏が設立を主導し、事実上、私物化しているとされる「Kスポーツ財団」と「ミル財団」という2つの財団にまつわる疑惑だ。

これらの財団には韓国大手企業(財閥)が集まる経済団体から800億ウォン(約73億円)もの資金が出ているのだが、まず、その経緯が不透明。

韓国は2018年に平昌冬季オリンピックを控えており、文化政策、スポーツ政策は朴政権も力を入れると宣言していた。

財団の資金集めに大統領府の首席秘書官が関与した、という疑いが持たれており、金が崔氏にも流れたのではないか。そして、政府の省庁が関連事業をつくり、財団に関与させたのではないか。

高官とはいえ、一スタッフが動くだけで、果たして財界が巨額の資金を出すのか。背後には朴大統領本人の何らかの関与、つまり指示もしくは黙認があったのではないかと疑われている。

これが疑惑その1だ。

疑惑その2は、朴大統領側から崔氏に対して国家機密の流出があったというもの。

崔氏に大統領の演説草稿がわたり、北朝鮮政策など国家機密にあたる情報も流出した可能性が指摘されている。さらに政権人事や政府組織改編にまで崔氏が関わっていたのではないか、という疑惑も浮上している。

韓国メディアの中には「国政介入」という表現を用いるところもある。

朴大統領、崔氏とも大統領の演説については、2013年2月の政権発足当初、大統領府の補佐システムが整うまでの間、助言があったことまでは認めている。

しかし、誰がどういう経緯で草稿を流出させたのか。朴大統領は謝罪の記者会見をしたが、その点はさっぱりわからないままである。

崔氏のものだったとされるタブレット端末を入手した韓国メディアもでてきた。その中には、単なる演説アドバイザーというレベルにとどまらない国政そのものへの関与が疑われる「証拠」もあるという。

そして韓国検察当局は、大統領府・青瓦台を大統領記録物管理法違反の疑いで捜査を始め、崔氏も取り調べを受けることに。10月31日、ついに崔氏を検察当局が緊急逮捕する事態にまで発展した。

浅羽さんはこう指摘する。

「いずれの疑惑も問題の核心は朴大統領が関与したかどうかです。単に私的人脈でアドバイスを受けていた、というレベルではありません」

「(崔氏が)対北朝鮮政策や、国政に関する人事にも関わっていたという疑惑が強まっています。大統領府の『奥の院』を牛耳ってきたとされる朴大統領の3人の側近は、そもそも崔氏の推薦があって、朴氏に仕えるようになったといいます」

「役職は次官補級なのに、その上にあたる長官級の秘書室長や、さらには首相よりも実権を有していたという指摘もあります。これでは本来の行政組織がうまく回らないでしょう」

では、これだけ力を持っていたとされる崔氏とはどんな人なのだろう。

「正常な政策決定ライン、民主的な委任と責任のメカニズムが働かないポジションにいる人でしょう。韓国では『秘線実勢』と形容されています」

「秘線実勢」。読んで字の如し、秘密の実勢力といったところだろうか。

「国民に選ばれた大統領は、長官や官僚に個別の政策の立案や執行を委任する代わりに、その成果に対して責任を負わせています。最終的には主権者である国民に責任を負っているわけです」

「今回、この代議制民主主義の仕組みが正しく機能していないということへの怒りが韓国民の間に広くあります」

40年来、常に側にいた崔氏

朴大統領の父は、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領であり、1974年、ファーストレディーとして国民の人気が高かった母・陸英修(ユン・ヨンス)氏を暗殺された過去がある。

失意の朴正煕、そして朴槿恵氏に近づいたのが、崔氏の父親である新興宗教団体の創設者である崔太敏(チェ・テミン)とその娘・順実だった。そのときから、秘密のベールに包まれた父娘が、朴大統領を支えてきたとされる。

朴槿恵氏が大統領を目指し、再び政治の表舞台に出てくるのは90年代後半だが、その間の隠遁生活も彼らは常に側にいたという。

崔氏は「占い師」のようなもの、あるいは40年来の友人とも表現されるが……。

「うーん、単なる『友人』というのも違和感がありますし、『占い師』というより、公職だけでなくまともな職歴がない、よくわからない人が国政に深く関与して『陰の支配者』になっている、というのがしっくりきます」

しかし、と浅羽さんは続ける。

「彼女自身は謎めいていて、それ自体がスキャンダラスな存在だとは思いますが、問題の本質はそこにはない」

「いくら失意の時期を支えてくれたといっても、公的な立場にない人が単なる演説の赤ペン先生以上のことをしていた、まして国政全般、利権にも関与していたのではないかという疑惑こそ、本質です」

「いまは疑惑段階ですが、朴大統領はまともに民主的な政策決定ができない人、代議制民主主義の根幹をないがしろにするリーダーだ、と考える国民がどんどん増えている。それが支持率急落の背景にあります」

今後はどうなっていくのか。浅羽さんは大前提として、現在、捜査にあたっている韓国検察には期待できない、と考えている世論が圧倒的であることを踏まえるべきだという。

「崔氏や側近を捜査したところで、それはトカゲの尻尾にすぎないという感覚があります。権力に弱い韓国検察は、大統領を捜査できないだろうと思われている」

その上で、浅羽さんは今後、想定されるシナリオは3つあるとする。

「日本で言えば、すでに官房長官クラスが辞任していますが、それだけではさすがに国民は納得しないでしょうね。問題は朴大統領のリーダーシップのあり方、さらには朴大統領というリーダーそのものにあるとされているからです」

第2のシナリオ:韓国政界で声があがる「挙国一致内閣」構想

「韓国の国会は野党多数です。だから与党と有力野党で組んで、残り1年4か月の任期をなんとか乗り切ろうというものです。いってみれば『大連立』を組み、大統領の権限を大幅に縮小する反面、首相を中心に国政にあたるという案です」

「ただ、挙国一致の問題点は本当にまとまるのか、まとまったとして朴大統領がそれを飲むのかという点にあります。飲むとするなら、2018年2月までの任期の間、朴大統領は本当の『死に体』になります」

韓国メディアはここにきて、首相交代も含めた人事刷新案が示される見通しを伝え始めた。

「1番目のシナリオである人事の刷新は、要は朴大統領ではなく、周りのスタッフが問題だというものです。2番目のシナリオは、リーダーシップのまずさを認めて、事実上、国政運営を野党も交えた内閣に委ねようというもの。たしかに、これだとリーダーシップのありようは大きく変わります」

「3番目のシナリオは弾劾や辞任で、さらなる政治的混乱が生じるというものです。これは憲政上の危機といえます。まだどこに落ち着くのか、予断は許しません」

「韓国では現行憲法下で辞任したり、弾劾が決まったりした大統領はいませんし、与野党とも北朝鮮問題を抱える中で、これ以上の政治的混乱、そして空白を生むシナリオは避けたいというのが本心でしょう」

大事な点は、問題の根幹は朴大統領自身にあるということだ。浅羽さんはこう強調する。

「崔氏の謎めいた人物像に注目が集まっていますが、大事なのは、これは朴大統領が招いた事態だ、ということです」

「韓国の国民がデモに繰り出すのは、自分たちが選んだ大統領なのに、自分たちがコントロールできなかったという『主権者』意識がベースにある。それは間違いない」

「繰り返しになりますが、問題はトカゲの頭である朴槿恵その人です。韓国における代議制民主主義が抱える問題が集約されているといえるでしょう」

バズフィード・ジャパン ニュース記者

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