黒澤明以来の快挙
映画監督・北野武さんが10月25日、フランスで最高勲章にあたる「レジオン・ドヌール勲章」を授与された。日本人映画監督としては、あの黒澤明さん以来の快挙となる。
黒澤さんといえば「羅生門」で世界的な評価を確立し、代表作「七人の侍」は世界トップクラスの名画として名高い。「隠し砦の三悪人」など娯楽色の強い作品で、エンターテインメント映画にも強い影響を国内外に与え、スターウォーズの設定にも活かされている。
駆け出し監督だった北野武を黒澤明は絶賛した
その黒澤さんが1990年代初め、自身の別荘に北野さんを招いて、テレビ番組で収録した対談がある。その中で、まだ駆け出しの映画監督だった北野さんを、黒澤さんはこんな言葉で絶賛している。
僕はビートさんの作品、全部好きでね、面白いですよ。とても。余計な説明がなくていいよね。日本の映画は説明が多すぎるよ。
当時「映画の素人」を自認していた北野さんの応答はこうだ。
本当のことをいうと、ほとんど映画をみたことないんですよ。冗談で撮るって言ったら、撮らせてもらえて。全然わかんなかったですね。
(撮影してみても)画が気に入らないんですよ。だから気に入らない画を外してしまえば、あとはしょうがないっていうか。自分でわかってない画を撮っても、にっちもさっちもいかないですね。わからないまま助監督とかに指示して撮影しても。全然、ダメ。
「常識に従わなくていい、自由にやっていいんですよ」
映画に精通したスタッフに囲まれていると、つい映画界の「常識」に適合した画を撮ろうとしてしまう。それで撮れる画は気に入らない。だから、外す。
黒澤さんはそんな姿勢を「それでいいんだよね」と全面的に肯定する。
「映画だからこうしないといけない、ということはないと思うんだよ。周囲から『映画は映画の時間がある』と言われたことがあるけど、『俺は現実の時間をそのまま撮っている』って言ったよ。最初は随分、そういうのがあったよ」
「(周囲のスタッフは)ある映画の常識があって、それに従って撮らないといけないと考えているかもしれないけど、そうじゃないんだよね。自由にやっていいんですよ」
北野武に笑顔で語りかけた意味
対談の中で、晩年の黒澤さんは、何かを託すように北野さんに笑顔で語りかけていた。その姿は、一切の妥協を許さず「黒澤天皇」と畏怖された現場の姿とは、まったく別の何かだった。