Posted on 2017年5月2日

    社会が「右傾化」しているから、選挙で自民党が勝ったは本当か? 見落とされた意外な要因

    きょうは憲法記念日。一強状態で安倍政権の支持率も安定し、選挙も勝利続き。これは社会が「右傾化」しているからなのか?

    自民党の「右傾化」

    Toru Hanai / Reuters

    自民党が右傾化した、という声を聞く。悲願の憲法改正も視野に入り、一強状態である、と。改憲草案を見ても、右派的な理念は強く打ち出されている。これは国民が支持したことなのか?

    最近の政治学の研究から見えてくるのは、まったく別の理由だ。右傾化の正体はどこに?

    国民も「右傾化」路線を支持?

    野党時代、2012年に発表した自民党憲法改正草案では天皇の元首化、国防軍の保持や、家族条項の改正といった、右派的な理念が強く打ち出された案が並ぶ。

    草案を発表して以降、自民党は選挙戦で連続して勝利を収め、憲法改正の発議が可能になる国会議員数を政権与党で確保しているーー。

    この事実だけ見ると、国民が選挙戦で「右傾化」路線を支持しているようにみえるが、どうだろうか?

    参院選真っ只中だった、2016年夏のことである。ある自民党の国会議員とこんな会話をした。

    「メディアの人たちは一強っていうが、本当なのだろうか。どこ回っても全然手応えがないんですけどね」

    去年の参院選では改憲のために必要な議席数を確保できるかが争点だった。

    私は「憲法はどうなんですか?」と聞いた。

    「いや、憲法の話をしても票には……。やっぱり経済を打ち出さないと。野党に救われてるところもありますよ」

    閣僚経験もある別の自民党議員に言わせるとこうなる。

    「小泉政権に比べると、積極的な支持を感じない」

    選挙の勝利は、自民党の強さや右派的な理念というより、野党の弱さに救われているのではないか、というのが彼らの考えである。

    「自民党がナショナリズムを強調するという意味で右寄りに変化した、つまり右傾化したことは確か」

    Toru Hanai / Reuters

    自民党の右傾化について、ある研究が注目されている。

    政治学者の中北浩爾・一橋大教授(現代日本政治論)が検証したものだ。

    著書『自民党 一強の実像』(中公新書)や論文「自民党の右傾化ーその原因を分析するー」(『徹底検証 日本の右傾化』収録、筑摩書房)で、中北さんはこんな見方を示す。

    自民党の憲法改正をめぐる方針や、国会議員を対象にした研究などを検討した結果、2000年代以降の「自民党がナショナリズムを強調するという意味で右寄りに変化した、つまり右傾化したことは確か」(中北論文より)である。

    しかし、原因は世論全体が右傾化し、票を獲得するために自民党も右傾化したということではない。

    憲法改正をめぐる世論調査では……

    根拠の一つは、世論調査だ。

    中北さんが論文の中で取り上げている読売新聞の世論調査によると、憲法改正の賛否は2017年調査で49%対49%と拮抗している。

    2004年には改正賛成派が65%だったが、この10数年で賛成派が数を減らしていることがわかる。

    朝日新聞の世論調査では、2014年から「憲法を変える必要がない」が「変える必要がある」を上回っている。

    今年は「変える必要がない」が50%、「必要がある」が41%となっている。

    理由については細かい検証が必要だが、国民の間で憲法改正派が多数になっていないどころか、本来なら改憲を目指したい安倍政権下で反対派が増えている。

    安倍首相は、持論であるはずの改憲を封じ込めて、経済政策と野党批判を繰り返して選挙戦を戦った。これは、ある意味で合理的な戦略だった。

    「右傾化」本当の原因はどこに?

    Toru Hanai / Reuters

    世論の変化ではないとすると、なにが原因で右傾化したのか。

    自民党の右傾化は、世論の動向や日本会議の影響力が高まったなどとする支持基盤の変化ではなく、自民党より左に位置する旧民主党の台頭に原因がある、というのが中北さんの結論だ。

    小選挙区制が導入され、政権を担う二大政党の一角として民主党が台頭し、2009年には自民党から政権を奪う。

    2000年代に入って、劣勢を強いられる場面が増えるなかで、自民党は民主党との違いを強調しないといけなくなった。

    民主党との違いを打ち出す必要があった自民党

    現行憲法に対して、肯定的な考えをもっている議員が一定数いてリベラル色が強い民主党との違いは何か。

    派閥機能も衰退していくなかで、自民党は党内の結束を固めるために2000年代に入り右傾化路線を強化していった。

    綱領の文言がその性格をよく現している。

    小泉政権下の2005年、安倍氏が中心となり制定した綱領では、憲法改正について、こう書いている。

    私たちは近い将来、自立した国民意識のもとで新しい憲法が制定されるよう、国民合意の形成に努めます。そのため、党内外の実質的論議が進展するよう努めます

    「近い将来」を目標に国民の合意形成という言葉が入っている。

    野党に転落した2010年綱領ではこうなる。

    日本らしい日本の姿を示し、世界に貢献できる新憲法の制定を目指す

    民主党に対抗・差別化を図るために、より右派的な理念を強めた文言が登場している。そして、2012年の改憲草案が打ち出される。

    根が浅い右傾化?

    Toru Hanai / Reuters

    中北さんは論文で、「自民党の右傾化は根が浅いともいえる」と指摘する。なぜなら「世論や支持基盤といった社会レベルの変化に起因していないから」だ。

    政党間の競争のなかで、独自色を出そうとしてポジションを決めたことに大きな原因がある。

    ならば、この後、右傾化した自民党はどうなるのか。中北論文はこう締めくくられる。

    小選挙区制のなかで、自民党より左に位置する民進党がいる。もし、台頭することがあれば、自民党は右寄りの姿勢を強める可能性がある。

    自民党の右傾化は、根が浅いとはいえ、長期にわたって持続していく可能性が高い。それが世論から乖離して進んでいるとすれば、日本政治にとって不幸なことといわざるを得ない。

    バズフィード・ジャパン ニュース記者

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