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突然の社長辞任、現役社員はどう受け止めた? 「仕事は変わらずにあります」

引責辞任を表明した電通・石井直社長。「120%の成果を求める、仕事を断らない矜持……そのすべてが過剰だった」

社内限定のメールに並んだ言葉

新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺問題で揺れた国内最大手の広告代理店・電通。12月28日、緊急の記者会見を開き、石井直社長が、一連の過労自殺など長時間労働問題の責任を取るとして、辞任する意向を示した。

現役社員は、この会見をどう受け止めたのか?

BuzzFeed Newsは、石井社長から社員にあてられたメール全文を入手した。そこにはこんな言葉が並ぶ。

当社が、過去に当局から複数回にわたる指導・勧告を受けていたにもかかわらず、当社における過重労働、長時間労働問題を根本的に解決できなかった責任は、改めて申し上げるまでもなく、経営にあります。そして、必要な変革を十分に達成できなかった全ての責任は、社の経営において最も重い責任を担っている私にあると考えています。

そのため、私は、その全ての責任を取り、2017 年1 月に開催される取締役会をもって、社長執行役員を辞任することを決意致しました。株主への説明責任を果たすため、社長執行役員辞任後も、取締役としては留まりますが、来年3 月に予定している定時株主総会の終了をもって、取締役も退任します。

現役社員は何を思うのか?

現役の男性社員がBuzzFeed Newsの取材に応じた。

この日は、例年と違う仕事納めの1日だった。報道が先行し、電通の対応やコメントはすべてニュースを通じて入ってきた。いつもなら、午後3時には仕事を切り上げ、残った社員でケータリングで食べ物や酒をいれて、社内で乾杯をする。

今年は前と同じように、とはいかなかった。辞任の一報はすぐに社内を駆け巡った。

「驚いている社員が多かったけど、自分はむしろ、どうでもいいと思いました。それは、仕事の内容が変わらないからです。電通はまったく変わっていません。仕事内容は変わらずに残ったままなのです」

「だから、私も、他の社員も会社にはいないけど、持ち帰って残業しています。仕事は変わらずにありますからね」

「時間を減らせ」と会社から指示があっても、現場に人は増えていない。記録には残らないだけで、むしろサービス残業は増えているのではないかという。

電通社内ではこんな囁きも聞こえてくる。法令違反をしていたら、国の仕事がとれなくなる。だから、なんとしても法律は守らないといけないのだ、と。

「結局、リリースをみても、会見を聞いても、経営は手を打っているのに、社員が方針を守ってくれなかったという風に聞こえます。社員のために法律を守れというなら、人を増やすべきです。仕事は変わらないけど、時間は減らせ、人は増やさないでは掛け声で終わります。本当に必要なのは、根本的な改革ですよ」

根本的な改革とはなにか?

「(会見で)『未熟な新入社員』という言葉を連呼していましたよね。でも、新入社員が未熟なのは、当たり前じゃないですか?どう教育するかが本質なのに……」

「適切な教育がなかったら、先輩の背中をみて学べというスタイルから、いつまでも脱却できない。新人教育については、いまでも社内では議論されていません。社員が財産というなら、そこを語ってほしいです」

そして、こう付け加える。

「私は、いまでも電通の提供する仕事には価値があると思っています。だからこそ社員自身も法令違反当たり前、時間際限なく使って当たり前、を改めながら改革したいと考えていますし、実際に動いている。少しでもよくしたいと思うのです」

「120%の成果を求める、仕事を断らない矜持……そのすべてが過剰だった」

電通はプレスリリースのなかで、長時間労働の原因をこう総括した。

原因としては、「過剰なクオリティ志向」「過剰な現場主義」「強すぎる上下関係」など、当社独自の企業風土が大きな影響を与えていると考えております。

石井社長は記者会見の中で、日本社会の働き方と企業風土をどうみているか問われ、こう答えた。

「日本人の勤勉さは高く評価しているし、大事なことだと思います。しかし、心身あわせた健康を考えることが大事だと思っています」

「(電通は)プロフェッショナリズムを社員が強く意識している。120%の成果を求めようという傾向がある。仕事を断らないという矜持があった。そのすべてが過剰だった。過ぎていたということ。そのことに対して根本的なところで歯止めをかけられなかった、経営の責任がある」

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