「私たちはかわいそうな『被災者』じゃない」 福島の女子中学生が英語で発信したスピーチがすごい

    「私たちは自分たちの力で未来を作ることができます。私たちはもう被災者という言葉を使いたくありません。今の私たちは、もう一人で前を向ける人たちなのです」

    ベテランテレビ記者も驚いた名スピーチ

    2018年2月22日、取材で福島市内にある飯舘中学校を訪れた。本来は飯舘村にある飯舘中は、村が全村避難を決めたため、原発事故後に仮設校舎に移転している。

    今春、新たな節目を迎える。昨年3月に大部分が避難解除された飯舘村に戻ることが決まったのだ。「仮設」の役割を終えようとしている校舎に誇らしげにかかった垂れ幕があった。

    「第69回 全日本中学校英語弁論大会 福島県代表 三年 佐藤安美さん」。

    この時、取材で追いかけていた元テレビユー福島の記者で、飯舘村職員に転じた大森真さんが隣でしみじみと言う。

    「このスピーチ読んだことある?すっごいんだよ。本当に深い中身で、俺が言いたかったことを言葉にしてくれたなぁって思ったんだよね」

    「被災者と呼ばないで」

    学校関係者にお願いしたら、英語と日本語の両方を渡してくれた。タイトルは『Don't Call Us Victims』、日本語では「被災者と呼ばないで」となる。

    以下、本質をついたスピーチを日本語で紹介する。

    佐藤さんは「私には口にしたくない言葉があります」とはじめる。それは「被災者」という言葉だ。「私はもう被災者ではありません。そう呼ばれることにうんざりしています」。

    2011年3月11日の地震、津波、その後の原発事故で彼女の家族は飯舘村に母だけ残して、栃木県に避難する。

    震災、原発事故に関するデータを紹介した上で、聴衆に問いかける。

    「私たちについて何を知っていますか。そしてそれをどうやって知りましたか。ふつう人々はメディアから情報を得て、それを真実と信じるでしょう」、と。

    彼女自身もインタビューを受けたり、テレビの報道に接したりもした。そしてこう思う。

    記事には偏見が入っている

    「記事には偏見が入ってしまっていると私はいつも感じます。いつも記事の内容が大げさになってしまっているのです」

    「メディアは私たちを『被災者』にしたがるのです。彼らの望む通り、私たちは永遠に被災者であり続けなければいけないのでしょうか」

    震災後に見つけた夢

    佐藤さんは必ずしも自分たちは「かわいそう」な存在ではないと語る。

    それは各地から支援を受けたからだ。他ではできない経験をしたことで、彼女は英語が好きだということを自覚し、将来はアメリカに行って、英語を身につけ、教師になりたいという夢を見つけた。

    「今、ここにいる私は、震災に対して必死に抵抗した結果なのです」

    佐藤さんはさらに主張を深めていく。故郷について勉強したこと、そして、勉強を通して故郷は自分たちの心の中にあること。

    スピーチは印象的な言葉で、こう締められる。

    「私たちは自分たちの力で未来を作ることができます。私たちはもう被災者という言葉を使いたくありません。今の私たちは、もう一人で前を向ける人たちなのです」


    メディアは、社会は「かわいそうな被災者」という一面的な視点で捉えていないだろうか。彼女の問いかけは、7年目の3月11日にこそ読まれるべきものだと私は思う。