麻疹(はしか)流行、ワクチン不徹底世代が絶対に注意すべきこと 26〜39歳は特に危険

    あなたは、はしか予防接種を2回受けていますか(2016年9月公開)

    (2018年の沖縄での麻疹流行に関する記事はこちら

    はしか流行を軽視できない、これだけの理由

    「はしか(麻疹)」が、再び流行の兆しを見せている。予防接種で防げる病気なのに、なぜ日本で流行するのか?

    「潜在的に流行の危険性が常にあります。特に26歳〜39歳、国際標準にあたる2度の予防接種を受ける機会がなかった世代が残っています。いつ流行してもおかしくないのです」

    ため息混じりにこう話すのは、国立国際医療研究センターで、感染症対策に取り組む看護師の堀成美さんだ。堀さんの専門は感染症看護。一般向けの啓発活動にも積極的に取り組んできた。

    「今回のはしか流行は、大学生の間に流行した2007年や過去の流行に比べると、数は多くはありません。しかし、1週間で30人超が感染しています。今後、さらに感染が拡大すること恐れはある」

    そもそもの経緯は……

    今回の流行の発端はこうだ。2016年7月下旬に関西国際空港を利用した人のなかに、はしかの感染者がいた。その一人、兵庫県在住の19歳の男性は、8月14日に幕張メッセであった人気歌手、ジャスティン・ビーバーのライブに参加した。このライブの観客にも、はしかの感染者がでた。

    さらに深刻なのは関西空港だ。従業員30人超に感染者が拡大、搬送した医師や救急隊員にも感染者が出ている。感染者が移動した場所にいた人も、注意が必要だ。

    そもそも、はしかが危険な理由

    専門家がはしかを危険視するのは、その感染力が他の感染症と比べ、圧倒的に強く、発症後の免疫力が低下するためだ。肺炎や脳炎といった合併症につながることもあり、命に直結する。

    麻疹に伴ってさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。麻疹の合併症には以下のものがあります。(国立感染症研究所

    「ウイルスに感染した際の発症率は95%と言われています。潜伏期間は、10日から最大で2週間前後。マスクや手洗いでも予防できません。インフルエンザと比べても、感染力は段違いです。重症化するケースも低いとは言えない。軽視するような病気ではありません」

    医師ですら感染 学ばれなかった過去の教訓

    堀さんが、今回のケースを問題視するのは数以上に、前々から対策をとるべきとされていた人たちの間で、感染が拡大したという事実だ。過去の教訓から学べていないことに問題がある、とみる。

    「問題は数だけではなく、不特定多数が利用する空港で感染が拡大したこと。そもそも医師にまで感染者が出ているという事実です。これがどれだけ危ないか、という話があまり伝わっていない」

    「そもそも、今回発症した病院の医師、空港といった場所に勤める人は、かねてから要注意であると言われていました。こうした職業は、流行の発信源になりやすく、過去の流行時に、対策を強化しようという声がありました。それにもかかわらず、実は対策が取れていないことが露呈した。非常に深刻なのです」

    26歳〜39歳が気をつけないといけない理由

    はしかは2回の予防接種を受けることで、ほぼ完全に防げる病気。なのに、なぜ日本では流行が起きるのか。ワクチン接種が行き届いない世代があるためだ。

    「いまの26歳〜39歳は当時の国の方針で、1度しかワクチンを受ける機会がなかった。しかも、やっかいなことに1度の接種ですら、受け漏らしている人がいる」

    「接種0回は大問題。1度のワクチンで、抗体がつく人がほとんどなのですが、中には、十分につかない人もいるし、接種を忘れる人もいます。それが誰にあたるのかが、わからない。しかも、年齢を重ねるごとに抗体が弱ってきます。個人差はありますが、2度目の接種を受けることが望ましいのは間違いないのです」

    2度の予防接種を本当に受けている?

    自分が2度の接種を受けたかどうか、確認する方法はあるのか。

    「まず自分の母子手帳を確認する。流行期でないときは、各自治体や病院でやっている抗体検査で確認ができます。流行期は抗体検査の結果を待っている間に感染する可能性もあるので、すぐにワクチンを打つことも一つの手段です。これは26歳〜39歳に限った話ではありません。その上の世代、下の世代でも確認すべきことです」

    堀さんは続ける。「ただし、自分で進んで行く人ばかりではありません」

    そして、いざ、予防接種を受けようと思っても課題は多い。

    「ワクチンのストック数も十分とはいえない。過去にも、流行期にはワクチンの在庫が切れたときもある。だからこそ、流行前もしくは、流行の初期段階で対処する必要があるのです」

    それ以外の世代にもいる、2度接種をしていない人たち

    26歳以下の世代は、ワクチン接種の方針が代わり2度の接種を受けることが推奨された。もちろん、無料で受けることができる。しかし、接種はあくまで推奨。親によっては、子供にワクチンを受けさせていないという考えの人、うっかり受けさせるのを忘れていたという人も残っている。

    「いまの子供世代でも、2度の接種を受けているのは90%前後です。テストで90点ならいいのですが、100万人いたら10万人は受けていない。10万人が10年たまったら、100万人。接種率がさらに低い世代が混ざっていたら……。流行の危険性は常に隣り合わせです」

    堀さんはこう強調する。

    「いまの目標は接種率95%です。ワクチンをどうしても受けたくないという人を0にすることはできませんから。日本でも2度の接種が推奨され、WHOに2015年に『はしかは排除状態』と認定されました。ワクチン接種を奨励することは、有効な対策なのです」

    はしかが防げない日本で、水際対策?

    感染症対策で本当に問われていることは何か。堀さんはこんな事例をあげながら、説明してくれた。

    「日本では、新型インフルエンザや、エボラ出血熱やSARSといった感染症が騒がれるたびに水際対策が叫ばれ、社会的に不安が増しますね。これらはワクチンすらない病気です。はしかはワクチンで防げる」

    「アメリカでは保育所や小学校、大学に入る際には接種証明書が必要です。(ワクチン接種は)個人だけでなく集団や社会を守るためでもあります」

    「ワクチンで完全に防げるはしかを予防できない国で、ワクチンすらない感染症が本当に防げるのか。これこそ、問われるべき課題です」