「自分たちもいじめにあう」福島の子どもの孤独と不安

いじめや偏見に苦しむのは、避難者だけではない。福島に住む子供たちも同じだ。

2016年の夏、福島市内のある中学校。女子中学生が校庭の片隅で、俯き気味に草を抜きながらつぶやいた。「どうせ、うちら将来、がんになるんでしょ」。

「放射能いじめが報じられるたびに、やがて自分たちにも起きるのでは、と不安に感じている生徒がいます」。心配そうに語るのは、福島県で中学教諭として子供たちと接している、武田秀司さん(49歳)だ。

武田さんが原発事故と福島の子供たちの問題に直面したのは、派遣された新潟県でのことだ。そこで、いま全国的な問題になっている、避難者へのいじめも目の当たりにした。

派遣は、こんな経緯で決まった。2011年3月11日から一変した生活。年度が変わってから、武田さんに校長から電話があった。

「どこの県に行くかはわからないけど、9月から県外に避難している小中学生の支援をしてほしい」という。

避難先で福島の子供をサポートする必要があり、福島の事情を知っている教員を派遣することになった、と説明を受けた。武田さんは迷いながらもこれをうける。

県外派遣は新潟県、柏崎刈羽原発がある刈羽村の刈羽中学校に決まった。

武田さんは、別の小学校から派遣された教員と2人でタッグを組んで、まずは避難した保護者や子供に聞き取りをする。支援のために必要なのは、信頼関係だ。

震災直後に刈羽中には最大で約20人が避難し、隣の小学校にも約50人が避難していたと聞いた。着任した9月で、その数は半分くらいになっていた。

避難を続けている子供たちは「帰りたいけど、それを言ってはいけない」と思っていた。強い孤独感もあった。

小学校低学年でも、アンケートをとると「学校はここがいいけど、うちのベッドで寝たい」とか「自分と同じ(経験をした)友達は、ここにはいない」と書いてくる。

当初、半年で自分の仕事は終わるだろう、と考えていたが、結果的に、福島に戻ったのは2013年4月。1年半かかり、引き継いだ。

「福島に戻りたい」が言えなかった

武田さんが当時を振り返る。


「同じ経験をしたことがない」って書いたのは、男の子です。なんで書いたのって聞いても、わかんないっていうんです。

普段は元気で明るい子で、周囲と仲良くやっているように見えるのに……。心の中はわからないなぁと思いました。

中学の男子生徒との面談ではこんなやり取りがありました。

学校の許可をとって、面談をすることにしたんです。彼の悩みも戻りたいかどうかです。

「福島に戻りたいと思う?」

「戻りたいっていうと、親に失礼だし、よくしてくれる新潟の人にも失礼だと思う」

「でも、戻りたいんでしょ」

「うん……」

「それを誰かに言ってるのかな?」

「うーん」

小学生からも「本当はおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らしたい」という声を聞きました。

3世代一緒に住んでいたのに、祖父母は福島の仮設住宅に住んで孫とは暮らせないと思う、両親は子供を思って避難する。でも、子供は帰りたいと願っている。

家族の思いがみんなずれているんです。

これが珍しくないんです。子供たちは戻りたいと思っているのに、それを誰にもいえない。友達もわかってくれないと思っている。

周囲はもう避難に納得していると思う。表面的には慣れてきているようにもみえる。


周囲は慣れている、と思っているのに、避難した子供からみると、それは周囲に気を遣ってあわせているだけであり、本心から打ち解けているわけではない。

だから、学校でのコミュニケーションもずれてくる。これがいじめの遠因になっている。

武田さんの証言は続く。


私が新潟にいた間にもいじめはありました。

これは、私の経験則ですが、いじめを考えるうえで、重要なのは「慣れ」です。

多くは福島から来た子供たちに、避難先の子供たちが慣れてきたから起こるケースなんですね。

周囲の子供たちは、慣れてきたから、本音で付き合えるようになって、ケンカもするようになる。

でも、福島から来た子供たちは彼らにわからない傷を抱えている。だから、余計に根深いんです。

こんな事例がありました。

福島から避難してきた中学生が、避難先の子供とケンカになった。

詳細は避けますが、口げんかがエスカレートして、福島の子供が原発事故で異常な出産が増えるという、まったく根拠のないことを言われてしまったんです。

言ってしまった新潟の子供も悪い子じゃないんです。

実際に、「なんでこんなひどいことを言ったんだろう」とショックとともに反省していました。

でも、言われたほうからすると「やっぱり福島から避難してきた自分が、どれだけ傷ついているかわかってもらえないんだ」というショックは抜けきらないですよ。

「いじめにあたるはケースはもっと多い」

ここまでショッキングな言葉じゃなくても、避難をからかわれたり、傷つくようなことを言われたり、暴力の対象になったりした子供はたくさんいるでしょう。

いじめも、必ずしも悪意だけではない「からかい」というのもあったかもしれないし、いじめた子供たちも話せばわかってくれると思うんです。

問題は、いじめられた側がそれを言葉にできるだろうか、という点にあります。

ただでさえ「誰もわかってくれない」と強い孤独感を抱えている。

表面的には普通に暮らしているように見えても、実際は貝のように心を閉ざしてしまう子供も少なくないんです。不登校になった子供もかなりの数いました。

いま報道されているような、中学校で福島の避難者いじめが起きているとするなら、その対象になっているのは小学校低学年で避難せざるをえなかった、親が避難を選択した子供たちです。

こんな孤独感は6年間では解消されません。だから潜在的に、いじめに該当するケースはもっともっと多いと思います。


1年半後、福島に戻ることが決まった武田さんは、やがて、心を閉ざしていく生徒、そして不安を抱えた生徒は避難先だけでなく、福島にいることにも気づく。

武田さんはいう。

「普段は原発事故の話題になっても「自分たちの将来に不安なんてないよ」って子がほとんどなんです。でも、なんかの拍子にこぼれてくる声を聞いていると、ほんとうにそうなのかなぁと思うんです」

「どうせ、がんになる」と話す女子生徒の話になる。


「どうせ、がんになるんでしょ」ってなんで言うんだろうって考えました。

彼らは甲状腺検査も受けています。子供心に、これは異常なことが起きている、と思っているんですね。不安は簡単には消えませんよ。

不安は自分の健康だけじゃない。

報道に傷つく

授業で新聞記事をあげて、それになぜ関心があるか、みんなに発表してもらうというのをやっているんです。

ある生徒が、避難者いじめを取り上げて、「どうして避難したのに、いじめられるのか理解できない」っていうんです。

あぁやっぱり考えているんだなぁと思うんです。

彼らは(福島について)悪いことが報じられるニュースを読んで、やっぱり傷ついている。避難者に起きていることは、自分たちにも起きると思っているんです。



そして、武田さんは「彼らの直感は正しい」と考えている。

「現実として、福島のことを外の人たちは知らないし、そこで不必要な差別をされたり、偏見をもたれたりするハンディを子供たちは背負わされています」

この現実を前に何が必要なのか。武田さんは、知識を教えるだけではない道があると考えている。


わかっていることを伝える。つまり広島、長崎の経験に学ぶことや放射線教育のような知識も大事です。でも、知識で不安を押さえつけたらダメですよね

押さえつけるんじゃなくて、もっと生徒たちが抱えている「でも、本当はがんになる」とか「差別されるのが怖い」っていう不安を受けとめないといけないんじゃないかなって思うんです

不安を語っていいんだよ、怖がっていいんだよ。そこから始まることってあるんじゃないかなって。




バズフィード・ジャパン ニュース記者

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