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「仕事も育児も…」の人生プランは崩れ去った。ある母親が選挙に立候補することを決めた理由

政治におけるジェンダーギャップが問題視されるなか、様々な壁を乗り越えて、自ら選挙に出て議員を目指す道を選ぶ女性たちがいます。

障害者や子育て世代の声を、議会に届けるためには何が必要なのかーー。

政治におけるジェンダーギャップが問題視されるなか、様々な壁を乗り越えて、自ら選挙に出て議員を目指す道を選ぶ女性たちがいる。

国会議員を目指す早稲田大学2年生の齋藤凛花さん(20)も、その一人だ。

ロールモデルを目指して

齋藤さんは「感音性難聴」という障害を持ち、生まれた時から両耳とも聞こえなかった。

1歳の時に人工内耳を付ける手術を受け、訓練を経た結果、今では聞いたり話したりすることができるようになった。それでも「聞こえる・話せる」ことが前提とされた社会で、「障害者」に向けられる視線に、幾度も葛藤してきた。

「中学の時には、クラスメイトの多数決で学級委員に推薦されても、先生たちから『障害者には任せられない』と言われたことがありました」

「高校で海外留学した時も、大学で上京を決めた時も、『障害があるのに大丈夫か』と心配されました。私のことを思って言ってくれているのだと思いますが、前例がないことを理由に、選択が妨げられてきた経験が多くあります」

政治を強く意識したのは、1996年の旧優生保護法改正まで、聴覚障害を持つ人が強制不妊手術を受けさせられていたことを知ったときだ。

「自分が生まれるたった6年前まで、同じ障害を持った人が『政治』によって人生の選択肢を妨げられていたのか」と衝撃を受けた。

「やっぱり社会の基盤には政治が存在していて、そこには当事者の声が必要。聞こえる世界も、聞こえない世界も、どちらも生きてきた私だからこそできることがある、ロールモデルになれるのではないかと考えるようになりました」

医ケア児を育てながら出馬へ

齋藤さんは、政治家を志す10〜30代の女性を後押しする「パブリックリーダー塾」に参加している。政治におけるジェンダーギャップを解消することを目標に、NPOなどを支援する「村上財団」が昨年8月に立ち上げたプログラムだ。

齋藤さん同様、塾生として参加している篠原里佳さん(32)が議員を目指したきっかけは、2021年5月に誕生した長男が、指定難病の「先天性ミオパチー」を持って生まれたことだ。

筋力低下などを引き起こす病気で、痰の吸引や人工呼吸器の管理など、24時間「医療的ケア」が欠かせない。

早々に育休から復帰して、仕事も子育てもバリバリ続けていくという人生プランは、一から考え直さざるを得なかった。

「医療的ケア児を預かってくれる保育施設はまだまだ少なく、うちの子も預け先を見つけることができませんでした」

「私はまだ育休を延長することができていますが、周りの医ケア児を持つお母さんたちに話を聞くと、何か手はないかとギリギリまで探したけれど、結局離職せざるを得なかったという経験を多く耳にしました」

「だからこそ挑戦したい」

そうした状況を何とかしたいと、社会福祉士の勉強を始めたところ、様々な境遇の人に出会った。

パワハラを受けて鬱病を患った人、急に遠方で暮らす親の介護が必要になった人ーー。

「突然、自分が思っていた社会生活を送れなくなることは決して珍しいことではなく、意外と多くの人が経験していることだと気付いたんです」

生きていく上で様々な壁にぶつかっても、安心して生活を営んでいける環境整備のためには、実際に困った経験を持つ人の声が、政治の世界に反映される必要がある。篠原さんはそう考えている。

「女性が入っていくのは、すごく難しい世界かもしれないし、実際に政治家になれるかどうかもわかりません。でも政策を動かしていくためには、誰か1人でも当事者が議会に入っていた方がいい」

「だからこそ、挑戦してみたいと思っています」

「ふつうの女性」が選挙へ

各国の議員らでつくる列国議会同盟(IPU)が2022年3月8日の「国際女性デー」を前にまとめた、世界の議会下院や一院制の議会の女性議員の割合(同年1月1日現在)をみると、各国の議会で女性が占める割合は、過去最高の26.1%となった。

しかし、日本はわずか9.9%で世界165位に沈み、下から数えた方が早い状況となっている。

プログラムを立ち上げた村上財団・代表理事の村上フレンツェル玲さんは「いまだに日本の国会・議会における女性比率は、世界でも最低レベルです。子育てや介護に奮闘する人、シングルマザーの人など、『ふつうの女性』が選挙に参加するハードルを少しでも下げられれば」と語った。