2022年にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:3月17日)
ロシアによる軍事侵攻が続く中、戦地と化したウクライナでの「日常」をTikTokで発信している女性がいる。フォトグラファーのヴァレリア・シャシェノクさん、20歳だ。
ウクライナ北部のチェルニヒウ。ロシア軍による激しい攻撃で住宅地や学校、病院などが次々と破壊されたこの街で、ヴァレリアさんは両親やペットの犬と一緒に、地下シェルターで避難生活を送っていた。
地上に出るのは1日のうち1、2時間だけ。安全が確認できた時に、スーパーへ買い出しに行ったり、自宅に必要なものを取りに行く以外は地下で過ごす。
「防空壕で暮らす私の典型的な1日」
そんな言葉で始まる動画には、ドライヤーの代わりに電動工具のヒートガンで髪を乾かしたり、シェルターに持ち込んだ簡易的な道具で調理をしたり、地上に出て「プーチンが私の街にしたこと」を見て回ったりする様子が映し出されている。
「防空壕で私が持っているもの」の動画では、大きなバケツを「イケてる女の子のためのジャグジー」、母親を「専属のミシュランレストラン」と面白おかしく紹介する。
彼女が「プーチンがリノベーションした」と皮肉る病院の動画では、爆撃によって崩れ落ちた病院の跡が克明に記録されている。
どの動画もTikTokで流行している音楽や動画形式を使い、ユーモアを交えつつウクライナの「現実」を伝えている。
しかし、そこに映し出されているのは、あまりにも非日常的な風景ばかりだ。
「これが私の世界への語りかけ方」
「動画を撮り始めたのは、本当に思いつき。面白半分で始めただけだったので、こんなに拡散されるとは思っていませんでした」
3月10日、地下シェルターの上層階からBuzzFeed Newsの取材に答えたヴァレリアさんのアカウントは、すでにフォロワーが85万人を超え、いいねの数も計2600万回に達した(3月17日現在)。
約30分の取材の間でも一度、部屋の電気が消え、遠くの方で2、3回爆音らしき音が響いた。それでもヴァレリアさんは笑顔を浮かべて、穏やかに話す。
「どうしてこんな状況なのに、ユーモアを絶やさないの、と驚かれることも多いですが、これが私の世界に対する『語りかけ方』なんです」
「ウクライナではたくさんの人が泣いていますが、私は違う意見を持っています」
「私の動画は、今ウクライナで起きている問題を伝える一番簡単な方法。私が動画で泣かなくても、賢い人であればウクライナがひどい状況にあることは、十分わかっていると思います」
攻撃が始まった2月24日、ヴァレリアさんはいつもと変わらない1日を過ごすはずだった。
しかし朝、部屋へ起こしに来た母親から「キエフが爆撃された」と聞かされた。友達とのチャットでも「空港が機能していない」「何が起きているかわからない」と混乱した様子のメッセージが交わされた。
外に出てみると、通りは空っぽ。その代わり、スーパーには物資を求めてやってきた人々で長蛇の列ができていた。
「自分の身に起きていることが信じられませんでした。ただただショックで、その時、自分が何を感じていたかは、もはやわかりません」
1本数十秒しかない動画から、私たちが垣間見ることのできるヴァレリアさんの「日常」は、ほんのわずかだ。「動画を撮る気力が湧かない時も、もちろんあります」と彼女は語る。
「たとえば昨日は少し体調が悪くて、熱っぽい感じがするのに、シャワーを浴びたくてもお湯が出なくて…。とにかく全てが最悪でした」
「そうしたら母が『ちょっと外に出て、家まで必要なものを取りにいこう』と言ってくれました。なので、爆撃を受けた病院の様子を見に行きたいと言って、撮影を始めたら、私の中で全てが変わり始めるのを感じました」
「私が今、直面している『戦争』と呼ばれるものに考えが行って、嫌な気分も忘れて、全てを記録することに集中している自分がいました」
「ウクライナは止まってしまった」
いま、「ウクライナは止まってしまった」とヴァレリアさんは語る。
「ウクライナでは、人々の生活は止まってしまいました。仕事もできず、何もできず、全てが止まってしまいました」
「爆音を聞くたびに、私は自分の国がおかしくなってしまったと感じます。私はウクライナが恋しいです。今、私はウクライナにいるはずなのに、それでも私の国が恋しくてたまりません」
3月15日に投稿された動画には、彼女が一人、何十時間もかけて電車を乗り継ぎ、隣国のポーランドへ避難する様子が記録されている。
ウクライナ政府が出した総動員令によって、18〜60歳の男性の出国が禁じられる中、ヴァレリアさんの母は父とシェルターに残ることを決めたのだ。
世界に何を伝えたいか。その質問に、ヴァレリアさんはこう答える。
「戦争はおとぎ話ではありません。私の身に起こったことが、いつあなたに起こるかもわからない。だから、ありふれた日常を楽しんで。そして、あなたの大切な人をハグしてください」