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上司は「一人くらい、いいでしょ」と笑った。職場でゲイだと暴露された男性が声を上げ続けた理由

アウティング行為の重大性については、東京高裁が「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであって許されない行為」と認める判決を下している。

職場で上司に同性愛者だと暴露(アウティング)された20代男性が、勤務していた東京都豊島区の生命保険代理店に謝罪や賠償を求めていた問題で、会社側が再発防止に取り組むことなどを条件に、和解が成立していたことがわかった。

男性と支援団体が4月6日、会見で発表した。

豊島区では2019年にアウティングを禁止する条例が施行されており、男性は区にも被害に関する申し立てをしていた。

男性の団体交渉を支援してきた遠藤まめたさんは、「和解内容の中でも『条例の基本理念に基づいて再発防止策を実施する』との言葉があり、自治体がこうした条例や相談窓口を設けることは非常に重要。他の地域でも整備を進めてほしい」と語る。

笑いながら「一人くらいいいでしょ」

男性は2019年5月、豊島区の生命保険代理店に営業職で入社。

面談で緊急連絡先の申請を求められた際に、書類に同性パートナーの名前を書き、区のパートナーシップ制度を利用していることを社長と上司に打ち明けた。

このとき男性は「他の社員には業務上知る必要がある場合のみ、自分から自分のタイミングで話したい」との希望も伝えていた。

しかし約1カ月後に、上司から飲みに誘われた際に「同性愛者のパートナーがいることをパートの女性に言った。一人くらいいいでしょ」と笑いながら言われたという。

その後、男性はパート女性から何度も無視されたりするなど、自分に対する態度が急変したことを感じ、上司との関係も悪化。

動機や悪寒、不眠の症状などで電車に乗ることもできなくなり、2019年11月に精神疾患と診断された。

「泣き寝入りはしたくない」

男性はその後、「同じ被害をなくしたい。泣き寝入りはしたくない」という思いから、アウティング被害に関する相談などを受けているNPO法人POSSEに連絡。総合サポートユニオンに加入し、2020年3月から団体交渉を始めた。

会社側は当初、アウティングの事実は認めたものの、「周りにいずれ知られてしまうから先に言っておいた方がいいと思って、善意でやったことだ」などと強い姿勢で反論していたという。

男性側は区に対する申し立てや抗議活動を続け、2020年10月末に会社側との和解に至った。

会社側は今後、再発防止に向けた社員教育などを実施し、男性の労災保険適用申請の手続きに協力する。

豊島区も、男性の申し立てを受けた対応を3月22日までに発表

アウティングが条例で禁止されていることや、職場における性的指向や性自認に関するハラスメントの防止は法律で措置義務の対象となっていることを、改めて周知していくとの方針を示した。

当事者の4人に1人「氷山の一角」

アウティングの重大性については、東京高裁が2020年11月、被害を受けた一橋大学法科大学院の学生(当時25)が死亡した「一橋大学アウティング事件」の控訴審で、「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであって許されない行為」と認める判決を下している

今年3月には、三重県が都道府県として初めて、アウティング禁止などを明記した条例を制定。4月1日に施行された。

同様の条例を持つ自治体は、今回の豊島区や一橋大学がある国立市のほか、三重県いなべ市や東京都港区と、少しずつ広がりを見せている。

しかし、一方では、三重県の自民党県議が、公開質問状を送ってきた同性カップルの自宅住所を自分のブログに無断で公開するという問題が起き、批判が相次いだ。

宝塚大学の日高庸晴教授(社会疫学)がLGBT当事者1万人を対象に実施した調査では、当事者の4人に1人がアウティングを経験したことがあると答えている。トランスジェンダーの場合は、被害があると答えた人は2人に1人近くにのぼる。

「アウティングは学校や職場など様々な場で日々起きています」と、トランスジェンダー当事者でもある遠藤さんは語る。

「被害を受けた人が誰かに相談するためには、新たに誰かにカミングアウトが必要となるため、ほとんどの人が被害を相談することができません」

「今回の事件はハードな交渉を続けて、和解することができました。でもこれはあくまでも、氷山の一角です」