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「性暴力被害に遭った」と打ち明けた恋人に、僕はどんな言葉を返せば良かったのだろう。

「相手をこれ以上傷つけたくない。だから自分のつらさを否定して、誰にも話すことができずに抱え込む。それが余計つらいんです」

ある日突然、パートナーから性暴力被害に遭った経験を告白されたら、どんな言葉を返せばいいのだろうか。

男性会社員の山田さん(30代、仮名)は数年前、「高校生の時にレイプされた」と交際相手の女性から打ち明けられた。

付き合い始めておよそ1年。二人で食事に出かけたいつもの夜。打ち明けたとき、彼女の顔には苦い笑みが貼り付いていた。

「あるじゃないですか。何かを隠すための苦笑い。言われたこっちも動揺してるから、『そんなの大丈夫だよ』とか『全然気にしないよ』とか、意味もなく言ってみたりして」

その数ヶ月後、山田さんは性暴力被害者の支援をしているNPOに相談し、パートナーが被害にあった男性たちが悩みや経験を分かち合うための会「寅さんのなみだ」を始めた。

「全然気にしない」どころか、やり場のない怒りに押しつぶされそうになっていたからだ。

パートナーだからこそ言えない

「寅さんのなみだ」は2カ月に1度、新宿3丁目で開かれる。会に通っていることでパートナーにさらなる負担をかけないよう、参加者が仕事とも飲み会とも言い訳しやすい金曜の夜7時すぎから始まる。

「パートナーにバレないこと。最初からそれをコンセプトにしていました。会の名前は『男はつらいよ』からとっています。でも、実際に被害を受けて傷ついた本人を目の前にして、自分もつらいんだとは言いづらいじゃないですか」

BuzzFeed Newsの取材にそう話す山田さんも、会を始めて1年以上経つが、現在は一緒に暮らすパートナーに活動のことは話せていない。集まりがある夜は「仕事」だと言い、会の連絡は夜な夜な寝静まってからする。

助けを求めてくる人は様々だ。サラリーマン姿の人もいれば、私服の人もいる。年齢も20代から50代までと幅広い。

パートナーが受けた被害も、直近のものから子ども時代のもの、見知らぬ加害者によるものから親族の虐待など、多岐にわたる。

共通しているのは、それぞれの苦しみの中で、孤独だったということだ。

「相手をこれ以上傷つけたくない。だから自分のつらさを否定して、誰にも話すことができずに抱え込む。それが余計つらいんです」

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どんな言葉を返せばよかったのか

山田さんとパートナーの女性が、彼女が受けた被害について話したのは、後にも先にもその夜だけ。細かく聞き出すわけにもいかず、山田さんが知っていることは断片的だ。

帰り道にいきなり知らない人に車に押し込められ、無理やり性交された。被害に遭ったのは、受験を控えた高校3年生の冬。だから、肌寒い季節が来ると、思い出す。

逃げようと思えば逃げられたのかもしれない。少なくとも、警察ではそう言われた。

だが、名前や住所が書かれたものが入った鞄を取られていたため、家族や友人に危険が及んだり、後々までつけまわされたり、被害を言いふらされたりするのが怖かった。

家族には「あなたがそんな格好してたから…」と言われたという。

「でも、僕たちの世代なんて、高校生の頃はみんなミニスカにルーズソックスだったんですよ。アムロちゃんの時代で」。そう話す山田さんも苦笑いを浮かべる。

「最初はなぜこの話を自分にしたのか、その意味がわからなくて。嫌いにならないで欲しいということなのかなと思って、『気にしないよ』と言ったんです。こっちも焦ってるから、何度も同じことを繰り返したりして」

「でも彼女の表情を見ていたら、そういうことじゃなかったとすぐにわかりました。じゃあなんて言えばよかったのか。帰りの電車でずっと考えていました」

見えない加害者に対する怒り

それ以来、山田さんはドラマや映画で女性が乱暴されるシーンを見るのが嫌になった。薄着をした水商売の女性たちがいる繁華街を歩くのもつらくなった。

山田さんは精神保健福祉士で、日常的に性暴力や犯罪の被害者とも加害者とも接してきた。だが、いざ自分のパートナーも被害に遭っていたと知ると、今まで仕事だと割り切っていたものが耐えられなくなった。

男同士の飲み会で盛り上がる下ネタも気分が悪くなり、「ノリが悪いな」と言われながら、とにかく時間が過ぎるのを待つ。加害者と同じ「男」としてのアイデンティティが、突然受け入れがたいものになった。

見えない加害者に対して、グツグツと煮えたぎる怒りを覚えた。だが、その怒りを誰かに気取られるわけにはいかなかった。山田さんは言う。

「怒りをどうしたらいいかわからず、性暴力に対して何か行動したいとNPOに連絡したときが、初めて自分の葛藤について人に話したときでした」

「その時に初めて『あなたも性暴力の被害者です』と言われ、あ、そうだったのかとはっとしました」

「だから、会でも何かをすぐに解決しようとしたり、議論したりすることを目的としていません。まずは自分と同じ体験をした人たちがいて、自分も被害者だと知ることから始める。言いっぱなし、聞きっぱなしでいいんです」

性暴力自体に怒り

山田さんとともに「寅さんのなみだ」を運営する男子学生の中村さん(20代、仮名)も、高校生の頃に付き合っていた彼女が性暴力被害を経験していた。

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「突然、彼女に『言わないといけないことがある』と言われたんですけど、すぐには話してくれなくて。後でケンカしたときに『あれ何だったんだよ』と勢いで聞いたら、メールで送られてきたんです」

「中学生の頃にいじめられていて、自分じゃない裸の画像を自分だと言ってばらまかれた。レイプもされた。だから処女じゃない。嫌いになったでしょ?」

彼女は加害者が同級生だったか先輩だったかも言わなかった。だが中村さんはその見えない誰かに対する「殺意」に苛まれた。彼女と別れたあとも、その怒りからは解放されなかった。

「パートナーや身近な人に限らず、世の中にそうした暴力があること自体が嫌になって、怒りの感情がそっちにシフトして、膨れ上がったような感覚でした」

「被害者に声を上げさせる社会」とは

2017年秋以降、ハリウッドの大物映画プロデューサーによるセクハラを告発する声が相次ぎ、性暴力被害に遭った当事者が声を上げる「#MeToo」のムーブメントが世界中で巻き起こった。

「#MeToo」は、長年軽視されてきたセクハラに対する沈黙を破り、性暴力をなくそうという機運を高めるきっかけになった。

その一方で、当事者が声を張り上げなければ、ずっと変わることがなかった厳しい現状を浮き彫りにしたのでは、と2人は感じている。

「例えばこれが殺人だったら、遺族が前面に出なくても『殺人は許されるものではない』と社会が自然に考え、動いてくれますよね。声を上げなければならなかった、それ自体がマイノリティであることの証左だと思うんです」と山田さんは言う。

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さらに、声を上げた先に当事者を待っているのは、温かい声ばかりではない。

レイプ被害を実名で告発したジャーナリストの伊藤詩織さんは、被害とは直接関係ない批判や罵る声にさらされるたびに、どんどん体が冷え、呼吸が浅くなり、「もう消えてしまうのではないか」と思うほどだったとBuzzFeed Newsの取材に話している。

実際に過去にパートナーが被害を受け、自らも葛藤してきた中村さんも、ネット上でそうしたコメントを見ているだけで「結構、精神的にきています」と言う。

「すでに被害に遭ってつらい思いをしているのに、さらに追い討ちをかけるのはひどいなって単純に思います。正直、見たくないと言う気持ちがあります」

僕はまだ回復していない

そうして繰り広げられる議論を一部歓迎しつつ、山田さんはあえて「空中戦」という言葉で表現して距離をおく。

「寅さんのなみだ」は社会を変えるムーブメントではなく、静かに痛みを分け合い、回復へ歩み出す場にしたいと考えているからだ。

「前に会に参加した男性が『僕はまだ回復していない』って言ったんです。『やっと自分が傷ついていることを認められたばかりで、まだ世の中に何かを訴える気にはならない』って」

「当時は僕自身も、どう自分が回復してパートナーと向き合っていくべきか模索している最中で、まだそこまで到達していないと感じていたので、救われた気がしました」

声を上げられる人もいれば、上げられない人もいる。性暴力で傷ついたパートナーにかけるべき言葉をすぐに見つけられなかったとしても、時間をかけて、一緒に歩んでいくことはできる。

そのためには、隣で葛藤する自分自身の傷もないがしろにはできない。中村さんは言う。

「性暴力からの回復には、周囲の人の力が絶対に必要です。その役目をパートナーが担うことができれば、一番いいと思っているんです」

「だから性暴力被害に遭った当事者の隣で傷ついた人が一人でも多く回復し、パートナーとの向き合い方を見つけていくことができればいいなと思っています」

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BuzzFeed Japanはこれまでも、性暴力に関する国内外の記事を多く発信してきました。Twitterのハッシュタグで「#metoo(私も)」と名乗りをあげる当事者の動きに賛同します。性暴力に関する記事を「#metoo」のバッジをつけて発信し、必要な情報を提供し、ともに考え、つながりをサポートします。

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