「受験生は物じゃない」「娘の頑張りは」 東京医大を受けた当事者、家族が声を上げる。

    「入試会場に集まる受験生には背景があります。ここまで来るのに、どれほどの努力や苦労、我慢、葛藤があったのか」

    東京医科大学が医学部医学科の一般入試で、女子や浪人を重ねた男子受験者に不利になる点数操作をしていたことが明らかになった。

    この問題に声を上げた大学教授や医師、弁護士、国会議員らが8月10日、参議院会館で緊急院内集会を開いた。

    報道直後から抗議を呼びかけてきた作家の北原みのりさんは、東京医大を受験した女子学生やその家族のメッセージを読み上げた。一部を紹介する。

    当事者「受験生は物じゃない」

    東京医大を受験した当事者の学生は「医学部の入試はフェアで点数勝負、実力が物を言う世界と信じておりました」と訴える。

    「受験生は物じゃありません。東京医大の入試会場に集まる受験生には背景があります。ここまで来るのに、どれほどの努力や苦労、我慢、葛藤があったのか」

    「また、女性の入学者の人数の調整は暗黙の了解だったという医療関係者はいますが、受験生はそんなことを思って受験していません」

    「合格比率を見て、『女性は数学が苦手だから』という迷信を無理やり納得し、『物理や化学が簡単で生物が難しかったからしょうがないよね』という根拠のない話を掻き集め、だから女性がこの大学に少ないのだと思って、受験するしかありませんでした」

    「まさかその裏で、このような操作が長期にわたって行われていたとは、思ってもいませんでした」

    「傷つけられたのは受験者だけではありません。社会の信頼、人々の気持ちを踏みにじりました。事実を明らかにし、まずは不正が行われた年度の点数をすべての開示することを求めます」

    受験生の母「娘の頑張りは切り捨てられるのか」

    別の元受験生も「性別や年齢といった、属性による差別的な入学者選抜の噂は当初から耳にしていた」という。「しかし、この現代にここまであからさまな差別が横行していたことには怒りを覚えます」

    「大学側は十分な労働力の確保を(不正操作の)名目としていますが、なぜ女性医師を有効に活用するという工夫をせず、安易な方法に出たのでしょうか。この問題の根底には、やはり医師の過剰労働という点があるのは明らかです」

    「今回の問題は、これまで人々が目をそらし続けてきた医療の歪みが形になったものだと思います。だからこそ、私も声をあげることにしました」

    受験生を見守る家族からも怒りの声が上がっている。

    娘が受験した母は「考えられないことが起きた。何もしていないのに何十点も差をつけられるなんて、彼女(娘)の頑張りは切り捨てられるのか」と訴える。

    「娘は自分で人生を切り開いていくんだと医学部受験を選んだ。彼女がドクターになろうとした時に、女性だからと切り捨てられる職場であるのはあまりにも気の毒だ」

    「とにかく明らかにして欲しい。家庭の背景はそれぞれだと思うが、様々な立場の人の声を聞いてほしい」

    医師「恐ろしい差別」

    産婦人科医の早乙女智子さんは、東京医大に対して多くの怒りの声が上がった際に「『何怒ってるの?』と思うぐらい、私にとっては昔からそうだった」という。

    「(試験の得点が)20%減らされるということは、男性が100点でいいところを、女性は125点取らないといけないんですよ。これは大変ですよ。1点、2点を争って勉強しているのに、私は100点とっても落ちるわけですよね。恐ろしい差別だなと思いました」

    「私は本当に今日この日のために、医師免許をもらってから32年間、男と同じように働いてきました。あちこち飛び回って、これでもかこれでもかと働いてきました。それでも女だと言われます。女だから何がいけないんですか?」

    問題の背景には、医療現場の人手不足と、育児と仕事の両立を極めて困難にする過酷な労働環境がある。早乙女医師も日勤と夜間の当直勤務を連続してこなす日々だという。

    「私は意地だけで体が持ったのですが、多くの女医は体が持たなくて、当直はもう無理とやめました。いつか戻ってきてねと言いました。誰も戻ってきません。誰も戻ってこれません、こんなひどい勤務」

    「いつまでやるんですかこれを。日本の働き方が長時間労働であること、これは自慢じゃないんですよ。やめましょうよ」

    文科相に要望書を提出

    また、北原さんは8月9日、「東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会」を発足。集会に出席した文部科学省の担当者に要望書を提出した。

    今後、東京医科大に対してどのような指導を行なっていくのか、文科省として被害を被った学生への救済措置を検討するか、教育行政における差別を防ぐための対策はあるか、などを質問している。