「女子が完全に自立していたら…」ブルゾンちえみはなぜヒットした?卒業した本人が振り返る

    男たちを従え、余裕に満ちた表情で人生を説くキャリアウーマンのネタでブレイクした「ブルゾンちえみ」。今年3月でその芸名を卒業し、本名で活動を始めた藤原史織さんが、ネタ誕生の背景を振り返りました。

    タイトなミニスカートに、強気のアイライン。体格のいい男たちを従えて、振り向きざまに余裕たっぷりの表情でこう叫ぶ。

    「ああ~~~!女に生まれてよかった!」

    2017年にデビューし、男2人を従えたキャリアウーマンのキャラクターでお茶の間を沸かせたお笑いユニット「ブルゾンちえみwith B」の定番ネタは、そんな振りから始まる。

    決め台詞の「35億」はこの年の新語・流行語大賞トップテンにもランクインした。

    デビューから3年。ユニットは解散し、芸人・ブルゾンちえみだった女性は、本名の「藤原史織」で個人としての活動を始めた。「ブルゾンちえみ」はなぜあれだけのブームを呼んだのか、これから「藤原史織」はどこへ行くのかを聞いた。

    ネタの発端は「かっこよすぎると…」

    ーー「ブルゾンちえみ」のキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?

    元々あのキャリアウーマンのネタができる前から、上から目線の人?というか、自信満々に名言を言う人って、やっぱりなんかちょっと面白いなというか、かっこよすぎるとちょっと笑っちゃう自分がいて。

    桃井かおりさんが「~~~なのよねっ」って言ったり、矢沢永吉さんが何か言ったりするだけで、かっこよくて、潔くて、気持ち良すぎて、なんか笑っちゃうんですよね。

    なんでこれ笑うんだろうと思って、この面白さをみんなにもわかってもらえないかと、ネタの中で名言を言うようにしていたんです。

    キャリアウーマンの他にも、天才外科医とか天才女板前など色々な仕事のキャラクターで名言を言うネタをやっていました。

    その中でもキャリアウーマンが音楽に合わせて名言を言うというあのネタが「ブルゾンちえみ」のイメージとして定着していった形です。

    過渡期だったから評価された

    ーーブルゾンちえみがあれだけのブームを巻き起こした背景として、女性の社会進出が進み、ジェンダー観の変化があったと分析する見方もありましたが、ご自身としてはどう考えていますか?

    私は正直、ジェンダー的な視点で見られることは全然想定していなくて、そうした感想が来るとは思っていませんでした。

    ただ自分がかっこいい、気持ちいいと思うものをやっただけだったんですけど、結果的には時代の流れも相まって、受け入れられたのかなと思います。

    今の時代になって、自立したキャリアウーマンとか、女性がバリバリ働くこととか、女性が自分を卑下せず、女性も男性も同等だという時代になってきたからこそウケたのであって、男の人に女性が三歩下がってついていく…みたいな一昔前の日本だったら、評価してもらえなかったかもしれません。

    …とは言いつつ、普段何かしら圧迫されている鬱憤が発散されたみたいな面もあったかもしれないですよね。

    女性たちが完全に自立できていたら、評価されなかったと思うし、女子が社会に進出していく過渡期で、頑張ろうみたいな気持ちがあったからこそ、肉体的にもパワー的にも強い男たちを従えている図が、ストレス発散になったのかもなと思います。

    私が男子2人をつけるようになったのも、海外のミュージックビデオが好きで、女性がセンターにいて、男子のダンサーたちを従えているのが好きだったからなんです。

    私自身、意識していなかっただけで、そうしたジェンダー観のものに惹かれていたのかもしれないと、最近思いましたね。

    「男の人に女性が三歩下がってついていく…みたいな一昔前の日本だったら、評価してもらえなかったのかも」 男たちを従え、余裕たっぷりの表情で人生を説くネタでブレイクした「ブルゾンちえみ」。 今年3月でその芸名を卒業し、本名で活動を始めた藤原史織さんが、ネタ誕生の背景を振り返りました。

    ブルゾンちえみと藤原史織は真逆?

    ーー過去のインタビューでは「本能で生きている」ブルゾンちえみのキャラクターとご自身の性格は、真逆だと話していました。

    真逆なんですけど、それぞれの円が重なる部分はもちろんあって、全く別物ではないと思っています。

    ただ「ブルゾンちえみ」をやっていた時は、ブルゾンのあの「上から目線」な私の本心じゃない部分ばかり使って、「藤原史織」の部分が少なっていく感覚がありました。

    「ブルゾンちえみ」の割合ばかり大きくなっていったのが、苦しかったんですよね。

    でも今は、「藤原史織」としてのありのままの私をSNSで伝えることができ、その割合がちょうど良くなってきました。

    これまでは本来自分の中にない「ブルゾンちえみ」の仮面をずっとつけていなかったけど、今は好きな時に取り出せるようになり、「今日はちょっとちえみの要素をお借りしますね」という感じで、取り外し可能になったんです。

    そのおかげで肩の荷が下りているというか、凝り固まったものが緩んでいっているのを感じます。「藤原史織」のバランスは、程よいなと思います。

    ーー今後「藤原史織」はどこに向かっていくのでしょうか?

    昔からいつか海外に住んでみたいと思っていたので、本当は4月からイタリアに留学するつもりで、SNSを使ってイタリアでの暮らしとか海外の文化を発信していきたいなと思っていました。

    新型コロナウイルスの影響で予定がずれてしまったんですが、それもきっと海外に目を向ける前に、日本のことを知る時間なんだろうなと。

    政治の問題だったり、日本人として知るべきことってまだまだたくさんあるなと、今は改めて思っています。

    今は自由の身なので、誰かが編集して作った文字ではなく、自分のありのままを伝えられるInstagramなどのツールがある時代でよかったなと本当に思います。それをうまく利用して、自分のペースで、発信していけたらと考えています。

    藤原史織(ふじわら・しおり)1990年生まれ、岡山県出身。2017年にお笑いユニット「ブルゾンちえみwith B」としてブレイクし、「35億」というフレーズで同年の新語・流行語大賞トップテンにランクイン。2020年3月で芸人を卒業し、本名で活動を始めた。SNSを活用し、環境問題やSDGsに関する情報発信などを続けている。