「仕事ほしいんでしょ」「何もしないからホテル行こう」 女性声優が語るセクハラの実態

    「業界内には『パワハラもセクハラも、文句を言うやつがおかしい』という空気があります。被害の数も、女性声優でセクハラされたことがない人なんていないんじゃないかってくらい」

    パワハラ、セクハラ防止などを目指す法制度からも抜け落ち、なかなか明るみに出てこない「フリーランス」に対するハラスメント。

    特に、多くの俳優や声優が個人事業主として事務所に所属する形で活動している芸能界は「ハラスメントの温床になりつつある」と、指摘されている

    日本俳優連合やフリーランス協会などが7~8月にかけて、国内で働くフリーランスや芸能関係者を対象に実施した調査では、回答者約1200人のうち約6割がパワーハラスメントを、3割以上がセクシュアルハラスメントを受けたことがあると答えた。

    実際にどのような被害が起きているのか。BuzzFeed Newsは芸能の世界で働く、声優の女性に話を聞いた。

    「文句を言うやつがおかしい」

    「昔に比べたらマシになってきた部分もありますが、やっぱり業界内には『パワハラもセクハラも、文句を言うやつがおかしい』という空気があります。被害の数も、女性声優でセクハラされたことがない人なんていないんじゃないかってくらい」

    そう語るのは、声優のKさん(30代)。十数年前に業界に入り、テレビアニメや吹き替えなど様々な媒体の仕事を請け負ってきた。

    働き始める以前から、業界の悪習については何となく知っていた。でも、自分がセクハラの対象になるとは、思っていなかった。

    「セクハラって、自分よりもっとかわいい子が狙われるものだと思ってたんです」

    「でも業界に入ってみたら、やる側にとっては『若い』ってことさえあればよかったり、男社会の中で『自分はこれだけ女を抱えているぞ』と、トロフィーにするためのものだったりすることがわかって。あまり関係ないんだなと実感しました」

    本番中は「声が出せない」から

    特に記憶に残っているのは、働き始めて1年ほど経った頃のこと。マネージャーに呼ばれて行った飲みの席で、自分の倍以上の年齢の男性プロデューサーと2人きりにされた。

    「マネージャーが帰った後から、相手がちょっと様子がおかしくなって。かわしていたんですけど、腕を掴まれて『ホテルに行こう』って言われて。最後は『無理って言ってるじゃないですか!』って叫んで、必死に振りほどいた覚えがあります」

    「普通にそういうことを言ってくるクライアントさんはたくさんいます。『仕事欲しいんでしょ、夢なんでしょ』とか『何もしないからホテルに行こう』とか」

    「ちょっと前までは、収録している真っ最中に触ってくる人もいました。録っている間は、声が出せないので」

    「パワハラ防止法」も対象外

    今年5月、通称「パワハラ防止法」と呼ばれる「労働施策総合推進法」が成立した。

    企業に対して、労働者へのパワハラを防ぐために必要な対策を講じるよう義務付けたものだが、「労働者」の中には、企業と雇用関係にないフリーランスや個人事業主は含まれていない。

    同じように、企業にセクハラ対策を義務付ける「男女雇用機会均等法」や、労働基準法も「労働者」を対象にしている。

    声優の多くは、個人事業主として事務所に所属している。仕事を受けるときは、マネージャーが営業回りをしたり、オーディションを受けたり、事務所から制作側に「候補出し」をする際に推薦してもらったりする。

    先輩が入っている現場にちょっとした役から入れてもらったり、飲み会で知り合った人から話をもらったりするケースも多い。

    人脈頼みな部分が大きいからこそ、ハラスメントに対しては声が上げづらい。

    「そういう誘いや行為を断ったり、『その気がないな』って判断されたりしたら、仕事に呼ばれなくなったり、別の理由をつけて悪評を立てられたりします」

    「力を持ってるディレクターだったら、その人の作品だけじゃなくて、他の仕事から干されたりすることもあります。たとえ事務所に相談しても、セクハラに対してNOと言うのが生意気なんだとか、お前がもっとうまくかわさないのがいけないんだろとか言われて」

    「だから仕事をもらい続けるためには、クライアント、ディレクター、プロデューサー、事務所、マネージャー、あとは先輩の機嫌も取り続けないといけないような状況です」

    実際はキャスティング権を持っていなくても、そう見せかけて、セクハラをする人や接待を求める人も少なくない。

    「特に若い子は人を信じがちで、権限を持っていない人と、よくわからないまま何年も仲良くし続けているような子もいます」

    外部からメスが入るしか

    Kさんはこれまで何人も、こうしたハラスメントに耐えかねて業界を後にした人を見てきた。

    被害を表立って口にできず、心を病んでしまう人。言い寄ってくる人物から逃れるために、仕事自体をやめてしまう人。あまりの数のハラスメントが蔓延している業界を見限る人。

    この業界を変えるためには、外部からメスが入るしかないとKさんは考えている。

    「もしこれが企業内で対象が社員だったら、加害者に懲戒処分を与えたりできるかもしれませんが、会社員でない声優に対しては、法律上明確な規定がないので、そうもいきません」

    「今のままでは、被害を受けても声を上げると自分が干されて損をするだけなので、誰も声をあげられない状態がずっと続いてしまいます」

    「だからこそ、法律でセクハラに対して罰則を設けたり、匿名で特定されずに相談できるような仕組みが整ったらと思っています」