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もしも、女子サッカー選手が「革命」を起こしたら。

なでしこリーグ2部の「スフィーダ世田谷」で活躍する下山田志帆選手が、女性スポーツ界から社会問題の解決を目指す会社を立ち上げた。

《女子サッカーは、かっこ悪い》

《女子は、男子よりも走れない》

《女子サッカー選手は、稼げない》

そんな言葉を耳にすることも、いつしか「当たり前」になっていた。

与えられたものを、ただこなす。「しょうがない」と、自分たちで自分たちを下げていた。

そのことに、今年7月からなでしこリーグ2部の「スフィーダ世田谷」に加入した下山田志帆選手(24)が気付いたのは、大学卒業後に日本を飛び出し、ドイツでプロとしてプレーし始めたときだ。

Saori Ibuki / BuzzFeed

下山田志帆選手

日本の女子サッカー界に染み付いた「当たり前」を壊さないといけない。そうでもしないと変わらない。

そんな思いから下山田選手は、元サッカー選手の内山穂南さんと共同で、アスリートと共に、女性スポーツ界から社会問題の解決を目指す会社「Rebolt 」を10月25日に立ち上げた。

第一弾のプロジェクトでは、2週間で消えるタトゥーを販売する「inkbox」とコラボし、誰もがカジュアルに自分を肯定する言葉や、“決意”を発信できるオリジナルタトゥーを販売する。

「世の中の『当たり前』やタブーを変えていきたいんです」と語る下山田選手。プロジェクトに込めた思いを聞いた。

タトゥーひとつで思いを

Rebolt

ーーオリジナルタトゥーには、どのような思いが込められているのでしょうか?

アスリートの中には、日々感じているもやもやを、どう社会に発信すればいいのかわからないという選手が多くいます。

今回のプロジェクトは、そうした選手たちを中心に、誰もがタトゥーひとつでカジュアルに自分の思いを見せることができる、そのために使ってほしい、という思いから始めたものです。

デザインは2種類あって、一つは「Because I am a XXX.」、もう一つは「, so I」という文字の後に四角い空欄が描かれています。

Rebolt

こっちから何か決めつけた言葉を身につけてもらうのではなく、本人の言葉を使ってほしいので、「私はXXXだから」「だから私は□□する」と、それぞれ好きな言葉を当てはめることができるデザインにしました。

ここに入る言葉は、もしかしたら弱さやネガティブさを持った言葉かもしれません。

それでも「~だからこそできる」「~だからこれをやるんだ」という発信に変えていく。

「アスリートがタトゥーなんてけしからん」と言われるような、タブーを破る形でやることに意味があると考えています。

“何となく”の未来が怖かった

Saori Ibuki / BuzzFeed

ーー下山田選手は2015年、「学生のオリンピック」とも呼ばれるユニバーシアード大会の日本女子代表候補にも選ばれています。なぜ、そのまま日本女子サッカーのトップリーグである「なでしこリーグ」に進まず、ドイツへ渡ったのでしょうか?

そもそも「なでしこリーグ」はアマチュアリーグのため、男子のようにスカウトマンが大勢いるわけではありません。

監督から声をかけてもらったり、元々チームメイトだった先輩に紹介してもらったり、自分から練習に参加したりして加入することがほとんどです。

入ってからは、平日はスポンサー企業で9時5時で働いて、週3、4回ほど夜9時ごろまで練習します。シーズン中は週末のどちらかに試合が入って、どちらかは練習かオフという感じです。

時事通信

最近では、チームと個別にプロ契約を結んでいる選手も一部いますが、それは本当に一握りです(*朝日新聞によると、1部リーグのうちプロ契約がある選手は約1割)。

ほとんどの選手がスポンサー企業で働いているので、「週3日だけ働けばいいよ」とか「勤務時間は午前中だけです」とか「うちはこれだけしか働かなくて済むよ!」みたいなことを誘い文句にしているチームも少なくありません。

そんな中で、自分がドイツ行きを決めたのは、大学3年生の時。卒業後もサッカーをやるかやらないか迷っていた時でした。

下山田さん提供

当時からなでしこリーグの選手と接する機会が多くあって、「仕事だりーな」と言いながら何となく働いて、何となく与えられた環境の中でプレーして、いざ引退してから生活に困ってしまう選手も、たくさん目にしていました。

このまま、何となくなでしこに入ったら、自分もそういう選手になってしまうんじゃないかとすごく怖かったし、何よりもったいないなと。

そのまま流れに乗るのではなく、一度海外に出た方がいいのかもしれないと考え始めた時に、たまたま知人の縁でドイツのエージェントを紹介してもらうことができたんです。

「当たり前」ではないもの

Joachim Sielski / Getty Images

ーー海外に飛び出して、どのような気づきがあったのでしょうか?

それまで自分が「当たり前」だと思っていたことが、全く「当たり前」ではなかったことに気付かされました。まず、自分自身で考えないといけないことが多すぎたんですよね。

プロ選手として扱ってもらって、日中会社で働かなくてもいい分、じゃあ練習以外の22時間をどう過ごそうかと、そこから考えないといけませんでした。

どうやってチームメイトと意思疎通を取ろうかとか、監督とはどう関係づくりをするかとか、ピッチの上ではどんなプレーを見せればいいかとか。それまで何も考えずに無意識でやっていたこと全てに対して、自分で意味付けしないといけなくなりました。

vs @FCBfrauen Ⅱ 2-1 勝利🔥🔥🔥 1部昇格に向けて一試合も落とせないってことで最強に気持ちの入った試合だった… 一度燃えたらひたすら燃え上がるドイツ人スピリットの中で一緒に闘える喜び噛み締めたわ…ドイツでサッカーする醍醐味はこれだよなあ…

日本では、どこか部活動の延長のようなところがあり、上から与えられたスケジュールをこなしていればやり過ごせてしまう部分が、少なからずあったと思います。

日本サッカー協会も、働きながらサッカーを続けるなでしこリーグの選手に密着して、「日中は仕事して、夜は練習をしながら頑張っています!」と、働く女子サッカー選手を推し出す動画を作ったりしています。

でも、そもそもなぜサッカー選手を働かせているのか。なぜ女子サッカーは、プレーでお金をもらうことができない選手がほとんどなのか。

これが当たり前でいいの?と問う必要があると感じるようになりました。

Skynesher / Getty Images

こうした待遇の問題に限らず、スポンサーやメディア、ファンとの関係の中で「女性らしさ」を求められることも、仕方がないこととして受け入れている選手がほとんどです。

男女で代表ユニフォームの色が違ったり、写真を撮るときはこういうポーズをしてくださいと可愛らしい仕草を指定されたり。

選手一人ひとりの個性を尊重するよりも、スポンサーやメディアの要望に応えられる選手が生き残るし、応えないという選択肢がないのが、日本の女子サッカー界の現状だと感じています。

「当たり前をぶち壊す」

ーー今回立ち上げられた会社では、そうした「当たり前」をぶち壊すことをコンセプトに、アスリートと企業の社会課題に関する発信をサポートする活動を主な事業とされています。なぜより多くのアスリートが、社会に向けて発信すべきだと考えているのでしょうか?

そもそもサッカーを始めとする女子スポーツ界で起きている問題は、社会に根付く男女格差が、そのまま反映されて引き起こされているものです。

社会の問題を解決しないと、スポーツ界の問題も解決されません。

Rebolt

アスリートは、一人ひとりがとても強い力を持っています。一つのスポーツに長い時間を費やして、「この試合に勝ちたい」「もっと上手くなりたい」と努力してきた背景には、多くの人が自分と重ね合わせることのできる様々なストーリーがあるはずです。

誰かのロールモデルになれるような経験をしている選手が多くいるのに、その体験が言語化できていない。

あるいは、現状に対するもやもやを抱えていても、自分がやる必要はないと感じたり、「出る杭は打たれる」リスクが大きいと感じて、踏み出せない。

こうした社会的な「文脈」を持っているにもかかわらず、発信することができずにいるアスリートと、いい商品があるにもかかわらず「文脈」を持っていない企業を繋いでいくことで、社会の「当たり前」も変えていくことができればと考えています。

同性のパートナーがいることを公表

「女子サッカー選手やってます。そして、彼女がいます。」 やっと、自分の10割をさらけ出して自己紹介できる嬉しさ。 家族の前でも、友達の前でも、どこでだって等身大でいたかったから。カミングアウト、手伝ってもらいました。 https://t.co/xE65a53iSt

ーー下山田選手は今年2月、同性のパートナーと交際していることをカミングアウトしました。日本の現役アスリートで、性的マイノリティの当事者であることをオープンにして、多様性について発信している選手は他にいないと言われています。

最初はこんなオープンにしようとは思ってなくて、自分がただ楽になりたかったのが一番でした。大学生の頃から、嘘をついて生きているのがつらくて、いつかは言いたい言いたいとずっと思っていたんです。

それからドイツへ行って、自分自身がセクシュアルマイノリティであることに対して、自然でいていいんだなと思えるようになりました。もうすぐ東京五輪というタイミングだったのもあり、「もういま言うしかない」と。

スポーツ界でカミングアウトする人がいないのは、社会がそういう風潮だからです。

アスリートは特に、スポンサーから何か言われるかもしれないとか、チームの中で「ポン」と飛び出たものがいることで全体に何かが起きるかも、と怯えてしまう。そういう側面もあると思います。

発信をすることで

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com

ーー下山田選手はカミングアウトしてから、オープンにしたことによる悪い影響はありましたか?

全然ないですね。ありがたいことに。

むしろ自分自身すごく視野が広がった感じがして、当事者でありながら、これまでは女子サッカー界内の「メンズ」(女性のことが好きな女性選手)しか知らなかったことを、痛感しました。

あと、サッカーをしている自分と、普段の自分が重なり合ってきたような感じがしています。

たとえば、どういう風に自分がプレーしたら、見てくれる人の力になれるのか。そんなことをより考えられるようになったし、サッカーを通じて社会にできることが少しずつ見えてきたようにも感じます。

一方で、正直プレーで100点満点かと言われたら、そこは焦っているところでもあります。チームに貢献できていない部分もあるので、葛藤しながらやっていかないといけないのかなと思っています。

Saori Ibuki / BuzzzFeed

オリジナルタトゥーは10月28日から、inkboxの特設ページ(https://inkbox.jp/collections/athlete-voice-project)で購入が可能。

第2弾のプロジェクトとして、アスリートの生理にまつわる問題をテーマに、生理用品を販売する会社とコラボキャペーンを展開していく予定だ。

また、10月27日午後5時から、渋谷区神宮前の「プライドハウス」で、女性スポーツ界で活躍してきたアスリートたちが、スポーツ界の"リアル"と"これから"を語るイベントを開催する。

Contact Saori Ibuki at saori.ibuki@buzzfeed.com.

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