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「公平じゃない受験は、受験じゃない」高校生が大学入学共通テストに声を上げる理由

2020年度の大学入試から実施が予定されている「大学入学共通テスト」。その最初の受験生となる高校生たちが、中止を求めて署名活動を続けている。

2020年度の大学入試から実施が予定されている「大学入学共通テスト」。

英語民間試験をめぐって「身の丈に合わせて頑張って」と述べた萩生田光一・文部科学大臣の発言や、出題形式、採点における公平性など、様々な問題が指摘されるなか、当事者の高校生たちが声を上げている。

「50万人の人生を弄んでいる」

2020年度から予定されている「大学入学共通テスト」。その最初の受験生となる高校生が、中止を求めて声を上げています。 署名を始めた男子生徒は「大学受験は、受験生の能力を公平に問う必要がある。公平じゃない受験は、受験ではない」と訴えています。https://t.co/Izhlc92Jxl #Protest_Kyotsutest

「入試の結果次第で、人生が大きく変わる人もいる。それほど重要なものなのに、散々受験生を混乱に陥れた上に、欠陥のある制度のまま実行しようとしているのは、受験生50万人の人生を弄ぶことだと思っています」

BuzzFeed Newsの取材にそう語るのは、都内の高校に通う男子高校生の斎藤さん(仮名、2年)。

斎藤さんは萩生田大臣の「身の丈発言」が放送された翌日、同級生の西村さん(仮名、2年)と有志の団体「大学入学共通テストから学生を守る会」を立ち上げ、共通テストの中止を求める署名活動を始めた。

署名活動を立ち上げました。 学生などの当事者はもちろん、そうでない人にも是非興味を持って頂きたいです。 萩生田文部科学大臣に届いてほしい。 ご協力お願いします。 #protest_kyotsutest #共通テスト #大学入学共通テスト #大学入試 https://t.co/DvyEjZDIhE

署名は1週間余りで4万2千筆を超え、11月4日に文科省に提出した。

すでに英語民間試験の導入は延期されたが、他にも深刻な問題が残されているとして、共通テスト自体の中止を求めて、署名活動を続けている。11月19日には「緊急声明」を発表する予定だ。

なぜ彼らは声をあげたのか。団体を立ち上げたふたりに話を聞いた。

1週間あまりで4万2千筆の署名

ーーどうして署名活動を始めたのでしょうか?

斎藤:10月25日の夜に、友人たちとTwitterで共通テストの話をしていた中で、11月1日に試験に必要な「共通ID」の申し込みが始まってしまう前に、何かした方がいいんじゃないかという話になったのがきっかけです。

仲間内でただ話していても何も起きないので、僕たちの声を届ける方法はないかと考え、署名活動を始めました。

西村:会には現在、中高生のメンバーが40人ほど参加しています。

11月4日までに集まった4万2千筆分の署名は、すでに文科省へ提出しましたが、共通テスト自体の中止を求めて、10万筆を目標に署名活動を続けていく予定です。

大学入学共通テストの問題点

ーー大学入学共通テストには、どのような問題点があると考えていますか?

斎藤:入試制度が変わること自体は、小学生の頃からニュースで見て、なんとなく知っていました。

でも実際に色んな問題点に気付いて、周りの友達や先生たちと「このままいくとやばいな」と話すようになったのは、この1年くらいです。

社会的には、英語民間試験の問題が一番注目を浴びていると思いますが、国語や数学の記述式問題も、採点の質を担保できない点など、深刻な欠陥を抱えています。

まず、記述式の場合、マークシート式とは当然異なり、回答のパターンは無限に出てくることになります。

報道では、(採点業務を受託したベネッセホールディングス子会社の「学力評価研究機構」が設ける)1万人の採点者が回答をチェックすると言われていますが、1万人が同じ思考回路、同じ基準を共有して、50万人分の自由記述を正確に採点することは、果たして可能なのでしょうか?

そもそもこの1万人は、どんな1万人なのかも定かではありません(*学力評価研究機構は、教員や大学院生のアルバイトなども含むと発表)。素性がわからないので、受験生としては、そこもすごく不安です。

採点ミス0.3%、自己採点の不一致も3割

西村:今年4月に結果が公表された「大学入学共通テスト試行調査」の国語の記述式では、全体の0.3%に採点ミスがあり、成績を修正する必要があったことが、国会でも話題になっていました。

50万人の0.3%は1500人です。マークシート式であれば、機械に通して採点するだけなのに、50万人が受ける試験でこれだけのミスが出てしまうのは、あるまじきことだと思います。

斎藤:さらに、自己採点と実際の採点がマッチしない割合が高いのも、大きな問題です。

これまでに行われた共通テストの試行調査では、国語の記述式で自己採点と大学入試センターによる採点が一致しなかった受験生が、3割前後いたと言われています。

受験生は、自己採点の結果をもとに、最終的な志望校の判断をします。

自己採点の正確性に自信が持てない中で、実力よりも上の大学を受けて失敗したり、「怖いから下のレベルの大学にしよう」と、受ける前から諦めたりしてしまう可能性も出てくると思います。

斎藤:そもそも、記述式問題は思考力や表現力を問うという名目で導入されました。

でも、こうした問題が出てくる中で、採点しやすくするために、回答の書き出しや構成をガチガチに固めた出題形式になってしまっていて、結局、思考力も表現力も測れない、ただ採点するのが難しいだけの問題になっています。

記述問題という出題形式が、50万人が受ける試験にフィットしていないのに、色んな問題を無理やり直そうとするから、別のところから亀裂が入ってしまっている状況だと感じています。

萩生田大臣の「身の丈発言」

ーー萩生田大臣の「身の丈発言」はどのように受け止めましたか?

斎藤:萩生田大臣の「身の丈発言」は本当に問題発言だったと思いますが、大臣があんな発言をしてしまうほど、この制度に問題があると思っています。

実際に、地方の学生や経済的に恵まれていない学生が受験しようと思ったら、「身の丈に合わせざるを得ない」という意味で、萩生田大臣の発言は制度の本質をついていたのではないでしょうか。

西村:たまたま地方に住んでいたとか、たまたま貧乏な家に生まれたという、自分ではどうしようもないことで、教育の機会が奪われ、能力を適正に評価してもらえないのはおかしな話です。

例えば、地方出身ですごく優秀な人がいても、英語民間試験の影響で試験がうまくいかず、学ぶ機会を失ってしまったとしたら、それは国にとっても大きな損失です。

元から生まれ持った能力や、それぞれの努力に差はあったとしても、試験を受ける「機会」の段階で、国が自ら公平性を奪うのはあってはいけないことだと思います。

「自分たちが良ければいい」ではない

ーー斎藤さんと西村さんは東京都内の高校に通っており、英語民間試験の導入で被る不利益は少ない立場だったと言えます。それでも、声をあげたのはなぜですか?

斎藤:英語民間試験の問題では、地方の受験生が一番不利益を被るのに、地方に暮らしているほど声が上げづらい構造があると思います。

僕たちが今やっているみたいに、国会に行って議員さんたちの前で話したり、文科省に署名を提出したりすることも、地方に暮らしていたら簡単にできることではありません。

西村:その中で、自分たちはこの制度の問題に気付いていて、かつ声を上げやすい場所にいる以上、声を上げる使命があると感じました。自分たちが良ければいいって話ではないので。

斎藤:中には、「今までこんなに英語民間試験の対策をしてきたのに、今さら延期かよ…」と思っている受験生もいるかもしれません。

ですが、そもそも、受験生の努力や実力を正確かつ公平に評価できない制度設計であることが問題なので、自分の力をきちんと見てもらいたいと思うなら、延期は喜ばしいことのはずです。

それに、民間試験に向けてたくさん勉強してきたのであれば、英検やTOEFLではなくても、絶対に成果は発揮されます。なので、そこは自信を持ってやってもらっていいと思います。

まずは立ち止まって議論を

ーー今後は署名活動を通じて、どのようなことを訴えていく予定ですか?

斎藤:大学受験は人生の中でも1、2を争うくらい大きなイベントです。入試の結果次第で、人生が大きく変わってしまう人もたくさんいると思います。

英語民間試験が2024年度に延期されたことで、世の中的には「延期されたじゃん」「まだその話してるの?」みたいな雰囲気があるかと思いますが、僕たちは記述式の問題も、民間試験以上にやばいんじゃないかと思っています。

なので、まだまだ問題が山積していることを、当事者だけでなく色んな人に気づいてほしいと思っています。

このアカウントは高校2年生が運営しています。僕たちはいわゆる「共通テスト元年」世代です。 僕たちの思いを少しでも知ってほしいのでツイートします。 #Protest_Kyotsutest #大学入学共通テスト #大学入試共通テスト中止 #拡散希望️

西村:今回の共通テストの問題は、当事者の声をそんなに聞いてこなかったから起こってしまった問題だと思っています。有識者会議の議事録なども公開されていなかったり、全体的に不透明な部分が大きすぎます。

今後は、もっと大学や教育の専門家の意見を広く聞いて、議論をオープンにしてほしい。僕たちの署名も、当事者はこんなことを思ってるんだよということで、活用してほしいです。

斎藤:大学受験は、受験生の能力を正確に、公平に問う必要があります。公平じゃない受験っていうのは、それは受験ではないと思います。

まずは立ち止まって、しっかりと議論をしてほしいと思います。

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