「言葉を失いました」貧困家庭を支援する団体が、萩生田大臣に知ってほしいこと

    2020年度から始まる「大学入学共通テスト」で導入される英語の民間試験について、萩生田光一・文科相が「身の丈に合わせて頑張って」と発言。のちに撤回したものの、野党や教育関係者から批判が高まっている。

    時事通信

    2020年度から始まる「大学入学共通テスト」で、英語の民間試験が導入される問題をめぐって、政界や教育関係者の間で議論が過熱している。

    特に、地方や経済的に恵まれない家庭で暮らす生徒への影響が懸念されるなか、萩生田光一文部科学相が「身の丈に合わせて勝負して頑張ってもらえれば」と発言。

    その後、発言を撤回したものの、大臣の辞任や制度の見直しを求めて、野党側が追及を続けている。

    実際に、経済的困難を抱える高校生などを支援してきた団体は、萩生田文科相の発言をどのように受け取ったのだろうか。

    問題の経緯を振り返る

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    2020年度から始まる「大学入学共通テスト」の英語では、大学入試センターの試験に加えて、英検やTOEFL、IELTSなど文科省から認定された7種類の民間試験から選んで受験することになる。

    「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測ることが狙いで、高校3年生の4~12月に受験した2回分までの成績を提出する。だが、それ以前に、練習として何回受験するかは特に制限がない。

    中には、受験料が2万5000円を超えるものや、会場が都市部の10地区に限られているものもあり、経済的に困難を抱える生徒や、地方で暮らす生徒にとって、さらなる負担になるのではないかと懸念されていた。

    それを受け、文科省では、各業者に対して、試験会場の拡大や低所得世帯への配慮を依頼。離島の受験生の交通費や宿泊費を補助するための費用を、来年度予算の要求に盛り込むなどの対策を講じるとしていた。

    「身の丈に合わせて」「『予備校はずるい』と同じ」

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    一方で、問題となった発言は、10月24日に放送されたBSフジの「ニュースプライム」で、こうした英語の民間試験によって生じる不公平について、司会者が萩生田文科相に質問した際に出た。

    司会者:英検とかTOEFLとか民間の資格試験を使うということは、お金や場所、地理的な条件などで恵まれている人が(試験を)受ける回数が増えるのか。それによる不公平、公平性ってのはどうなんだってのは、そこの部分はいかがですか?

    萩生田文科相:そういう議論もね、正直あります。ありますけれど、じゃあそれを言ったら『アイツ、予備校通っててずるいよな』というのと同じだと思うんですよね。

    だから裕福な家庭の子が回数を受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけど、そこは自分は、私は身の丈に合わせて(成績を提出する試験)2回をきちんと選んで、勝負してがんばってもらえれば。

    できるだけ、近くに会場を作れるように今業者や団体の人の皆さんにお願いをしています。あまり遠くまでね…。

    だけど人生のうち、自分の志で1回や2回は故郷から出てね、試験を受けるっていうそういう緊張感も大事かなと思うんで。その辺、できるだけ負担がないように知恵を出していきたいと思っています。

    この萩生田文科相の発言に対して、Twitterなどでは「経済格差による教育格差を容認するのか」と批判の声が上がった。

    野党からも非難が相次ぎ、萩生田文科相は28日、報道陣の取材に対し、発言を謝罪。

    29日の会見で「国民、特に受験生の皆さんに対して不安や不快感を与えることになってしまったと考えており、改めておわびを申し上げる。こういった発言をしたことは私の不徳の致すところだと反省をしている。今後、信頼回復に向けてしっかりと結果を出していきたい」と述べた。

    ところが、野党からは「発言の撤回では済まない。制度を中止したほうがいい」との声も上がっており、今後も追及を強めていく姿勢を見せている。

    「言葉を失った」

    Saori Ibuki / BuzzFeed

    CFC代表理事の今井さん(中央)

    「地域や家庭の経済力などによる教育格差を解消することは、国家、特に文部科学省の最も重要な役割です。文科大臣の口から、その重要な役割を放棄するかのような発言が出たことに、言葉を失いました」

    経済的困難を抱えた高校生などを支援をしている公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン(CFC)」代表理事の今井悠介さんは、BuzzFeed Newsの取材にそう語る。

    CFCでは、東日本大震災の被災地などを中心に、低所得家庭で暮らす子どもが塾代などに使うことのできる「スタディクーポン」を支給する取り組みを続けている。

    その背景には「塾をはじめとする学校外教育は、親の年収が低い家庭の子ほどお金をかけられない現状がある。受験という将来を決める重要な場面で、その格差を埋めることで、教育格差をなくしていきたい」という思いがある。

    「教育格差の解消に取り組む意思がない」

    Saori Ibuki / BuzzFeed

    「身の丈に合わせて」という発言が大きく注目を集めるなか、「『アイツ、予備校通っててずるいよな』というのと同じ」という発言も、「国として、放課後の教育格差の解消に向けて取り組む意思がないと言っているも同然」だと今井さんは指摘する。

    文部科学省が発表している「平成28年度子供の学習費調査」の結果を見ると、「放課後の教育格差」の現状は明らかだ。

    世帯年収が1200万円以上の家庭では、公立高校生の補助学習費(学習塾代、模試費用等)に年間平均35.4万円を支出しているのに対して、年収が400万円未満の家庭では、年間平均6.9万円にとどまる(大学進学をしない家庭も含む)。

    月額で比べると、1200万円以上の家庭では、毎月約3万円払っているのに対して、400万未満の家庭は約5700円。5倍以上の差があることがわかる。

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    「もちろん、解決のためのアプローチは、塾代の支援以外にも、公教育の充実や放課後の学習支援の拡充、さらに本質的には所得の再分配まで、様々な方法がありますし、最適な方法が何かは議論の余地があります」

    「しかし、手法の選択以前に、政治家には『何としても教育格差をなくさなければならない』という強い意志を持って、取り組んでもらわなければ、この問題は解決しないと感じます」

    「大臣の発言からはその意思を感じませんでした」と今井さんは語る。

    進路を諦めてしまう生徒も

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    これまでCFCが支援してきた生徒の中には、塾代や模試代、受験料などを含めた入試にかかる費用を十分に捻出できずに、本来の志望校とは違う学校を受験したという子どもや、経済負担に耐えきれずに進学を諦める選択をした子もいた。

    一方では、子どもの受験費用を捻出するために、保護者がほとんど休みなく働き、体調を崩してしまう人も少なくない。

    このように、現行の制度においても、入試による経済負担で追い詰められてしまう家庭があるなか、進路や将来の目標を諦める子どもがさらに増えてしまうのではないかと危惧している。

    「28日に発言について謝罪された際、萩生田文科相は『どのような環境下にいる受験生も、自分の力を最大限発揮できるよう、試験を全力で頑張ってもらいたいという思いで発言した』というコメントをしていました」

    「でもこの言葉も『個人の努力』に焦点を当てた発言のように感じ、国として教育格差をなくすための最大限の努力を行うという意思は感じませんでした」

    「私たちが聞きたいのは、格差を解消するために、国は何をやるのか、本当に解消する気はあるのか、です」

    「こんな自分でも」と言わせない

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    CFCが始めたスタディクーポンの取り組みは、渋谷区、千葉市、佐賀県上峰町などで事業化され、少しずつ各地に普及している。

    2020年度に始まる「給付型奨学金」などの制度は、大学に入学する「入り口」を広げるための政策である一方、そこに至るまでの「努力をする環境」に存在する大きな格差に目を向ける必要があると、今井さんは言う。

    「昨年、スタディクーポンを利用したお子さんが、クーポンをもらって『こんな自分でも、勉強していいんだ』と言っていました。子どもに、こんな言葉を言わせてはいけないと思います」

    「本人の努力だけではどうすることもできない格差によって、学ぶことを諦めている子どもたちが多くいます。特に、子どもの放課後(学校外教育)や入学試験等、公的な支援が行き届いていない領域に関しては、家庭の経済格差による教育格差が生まれやすい状況です」

    「これらの問題に光をあて、子どもたちの間で不平等が生まれない社会制度を国として、作っていただきたいです」