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「異性愛カップルなのに結婚できない」同性婚訴訟でトランスジェンダー男性のカップルが提訴へ

同性婚の実現を求めて、全国13組のカップルが国を提訴した「結婚の自由をすべての人に」訴訟。東京訴訟の原告に、新たにトランスジェンダー男性とパートナーの女性が加わった。

法律上の性別が同じ人同士の結婚を認めないのは憲法に反しているとして、全国13組26人のカップルが国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」訴訟。

2019年2月14日の一斉提訴から1年が経つのを前に、戸籍上は女性のトランスジェンダー男性とパートナーの女性が、東京地裁の訴訟に新たな原告として加わることが発表された。

原告にトランスジェンダーの人が加わるのは初めてで、これまでの訴訟では指摘されてこなかった現行の婚姻制度の矛盾が、新たに法廷で議論されることになる。

異性同士なのに法律上は「同性カップル」

原告に加わるのは、都内で暮らすトランスジェンダー男性の一橋穂さん(仮名、40代)と武田八重さん(仮名、40代)。

ふたりは5年以上にわたって、男女の「異性カップル」として関係を築いてきた。

だが、一橋さんの戸籍上の性別が「女性」のままのため、法律上は「同性カップル」とみなされてしまい、現行の制度では法的な婚姻関係を結ぶことができない。

戸籍変更のハードル

一橋さんが戸籍上の性別を変更していない背景には、日本における戸籍変更のハードルの高さがある。

日本で戸籍上の性別を変えるためには、複数の医師から「性同一性障害」であるとの診断を受けた上で、卵巣や子宮、睾丸を摘出する「性別適合手術」を受けることなどが要件とされている。

しかし、金銭的な負担や健康面でのリスクなどから手術を受けない、あるいは受けられない当事者も少なくない。

一橋さんは大学生の頃、手術をして男性に戸籍変更したいと願ったが、「健康な体にメスを入れるなんてとんでもない」と親からの理解を得ることができなかったという。

国際的には、手術を受けるか否かは、本人の意思が尊重されるべきだという考えが広がっている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戸籍変更の要件として性別適合手術を課すのは「日本が負う人権上の義務に違反するとともに、国際的な医学基準にも逆行する」と強く批判している。

「家族揃って社会に」

2月13日に都内で弁護団とともに会見を開いた一橋さんと武田さんの左手薬指には、それぞれ指輪が光っていた。

昨年の提訴から1年間、訴訟の行方を報道で見守っていたという武田さんは、原告になった理由をこう語った。

「本当にありがたいなと思う反面、自分は何もしないで原告の方たちに頼りきってていいのかなという気持ちがありました。なので、もし自分にできることがあるならやってみようと思い、決めました」

一橋さんは「将来に希望が持てず、死んでしまいたいと何度も思いましたが、なんとか生き延びることができ、今ここにいるパートナーと出会うことができました」と声を震わせた。

「病めるときも健やかなるときも一緒にいることを誓いました。他の異性カップルと同じように、私たちが夫婦であると認めてもらうことはそんなに特別なことなのでしょうか」

「日本社会が私を男性として、そして我々をカップルとして認めてくれたら、家族揃って社会の輪の中に入っていけるのです」

「国には、異性カップルなのに戸籍上は同性同士であるために、婚姻できない我々としっかり向き合ってほしいと思います」

すべての人が当事者

東京訴訟弁護団・共同代表の上杉崇子弁護士は「トランスジェンダーの当事者にとっても、法律上は同性同士のカップルの結婚を実現することは、とても切実な問題」と強調する。

一橋さんの場合は性的指向が「異性」だが、性的指向が「同性」のトランスジェンダーも当然いる。

そうした人は、戸籍変更をしなければ、相手が同性でも法律上は「異性カップル」になるため結婚ができる。しかし、戸籍変更をすれば、法律上は「同性カップル」になってしまうため、結婚は断念しなければいけなくなる。

上杉弁護士は「同性婚を認めないことは、同性愛者やトランスジェンダーの当事者だけでなく、そうした人を家族に、知人に、友人にもつ、異性愛者、シスジェンダーを含むすべての人にとっての課題です」と訴えた。

一橋さんと武田さんは今後、数カ月以内に東京地裁に提訴する予定だという。