
賛否両論の作品、憎悪は個人へ

トランさんは、カリフォルニア州サンディエゴ出身のベトナム系アメリカ人。
「最後のジェダイ」では、暗黒面と対峙するレジスタンスのエンジニアで、大切な人を守るために奔走する女性、ローズ・ティコ役を演じた。
作品は世界興行収入1420億円を超える大ヒットとなったが、評価は賛否両論。
一部の熱狂的なファンが、「最後のジェダイ」をシリーズの「正史」から外すよう署名運動を始めるなど、物議を醸していた。
そんな中、作品への憎悪は、外見や性別、人種を理由に誹謗中傷するコメントとなって、トランさん個人にも向けられた。
スター・ウォーズ作品に関わった俳優に、強い批判が向けられることは初めてではない。
第7作の「フォースの覚醒」から主演女優を務めるデイジー・リドリーさんも、誹謗中傷が殺到したため、インスタグラムを削除。
ジャー・ジャー・ビンクス役のアーメド・ベストさんも、猛烈な嫌悪感をぶつけられたのちに、自殺を考えたとツイートしている。
個性やルーツに「恥」を感じた

ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、トランさんは次のように切り出した。
「私がアジア系の女性として、大人になる過程で学んだのは、私の居場所はすみっこの隙間にしかなく、物語の小さな役しか与えられないということ」
「彼らのコメントは、その事実を再び証明しているようでした」
トランさんに向けられた差別的なコメントは、彼女が乗り越えたと思っていた数々の記憶を呼び起こした。
両親がアメリカ社会に馴染むために、自分たちの生まれ持った名前を捨てる必要があったこと。
9歳の頃、周りの子どもたちにからかわれることに疲れ、母語のベトナム語を話すのをやめたこと。
17歳の頃、白人の彼氏やその家族と夕食に出かけた時、店員が「交換留学生を受け入れているなんて、素敵ね!」と言ったこと。
「彼らの言葉は、私が生まれてからずっと感じてきた、私が『よそ者』であることを思い出させた」
「『もっと痩せていれば』『髪を伸ばせば』『アジア人でなければ』と考えるようになりました。何カ月もの間、自己嫌悪の螺旋に沈み、自分を傷つけていました」
「自分自身よりも、彼らの言葉を大切にしていたのです」
自分の育った世界とは違う世界を

計測ツールBuzzSumoによると、トランさんの寄稿は、TwitterとFacebook上で11万回以上シェアされ、大きな波紋を呼んだ。
今後もスター・ウォーズ三部作の続編をはじめ、複数の映画への出演も決まっているトランさん。
スター・ウォーズ作品で歴史的な役を担った女優として、いま彼女が感じるのは、自分が育った世界とは違う世界を作ることへの責任だ。トランさんはこう結んだ。
「私のような子供たちが『白人になりたい』と願って子供時代を過ごすことのない世界、女性たちが見た目や行動、またはその性別だけを理由に批判されることのない世界で、私は生きたい」
「いま私は台本を手にするたびに、そう強く感じます」
「なぜなら、これまで一つの決まった物語しか味わってこなかった世界において、私は違う物語を語ることができるから。その重要性を私は知っています。だから、私は諦めません」