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メディアが誰かを「不幸」にしないために。記者とLGBT当事者がガイドラインを作った

「LGBTなど性の多様性に関する報道が増えてきた一方で、社会にはまだ偏見や差別が残っています。その結果、報道によって、当事者がかえって苦しめられてしまうケースも度々目にしてきました」と、LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は語る。

LGBTなど性的マイノリティについてメディアが報道するとき、当事者の生活を守り、正確に情報を伝えるためには、どのようなことに注意する必要があるのか。

LGBTに関する政策提言や法整備に向けて活動をしている「LGBT法連合会」は3月7日、LGBTに関する基礎知識や用語集、取材をする記者と取材を受ける当事者が気をつけるべき点などをまとめた報道ガイドラインを発表した。

記者と当事者が半年間議論

ガイドラインは計12ページの本編と、取材する側・される側向けのチェックリストを掲載した簡易版の2種類。

本編ではチェックリストの他に、「取材・報道とは」「LGBTとは」「カミングアウトとは」などといった基礎知識の解説、「オネエ」「ホモ」など注意が必要な言葉、記者と当事者がそれぞれの経験談を語ったコラムが掲載されている。

内容は、LGBT法連合会や弁護士、新聞、テレビ、ウェブメディアで働く記者の有志が中心となり、約半年間話し合いを重ねた。

「LGBTなど性の多様性に関する報道が増えてきた一方で、社会にはまだ偏見や差別が残っています。その結果、報道によって、当事者がかえって苦しめられてしまうケースも度々目にしてきました」と、LGBT法連合会の神谷悠一事務局長はBuzzFeed Newsの取材に語る。

特に昨年7月に行われた自民党の杉田水脈議員の寄稿記事に対する抗議活動では、約5000人(主催者発表)が参加し、大きな注目を集めた。

その際、特に地方で暮らし、自分の性のあり方をオープンにしていない人や、これまで取材された経験がなかった人とメディアとの間で行き違いが重なり、地元での居場所を失ってしまった当事者もいた。

「運動が様々な立場、環境に置かれている人に広がり、社会的な注目もますます高まってきたからこそ、一度報道の際の注意点を整理する必要があると感じました」

お互いが持つ暗黙の了解

ガイドラインに何を盛り込むべきか記者と議論する中で、神谷さんは、取材する側の記者にも、取材を受ける側の当事者にも、それぞれのコミュニティ内の「暗黙の了解」があり、それが互いに共有できていないことに気づいたと話す。

「例えば新聞社の場合、取材して記事を書く人と、紙面の見出しや構成を考える人、それぞれ別の担当者がいることは、外からはあまり見えていません。でも記者さんからしたら、それは当たり前のことで、説明するまでもないと思うかもしれません」

「一方で当事者側も、さまざまな性に関する知識や、『クローゼット』で生活している人が置かれている状況などは、知っていて当たり前と思う部分があるかもしれません。でも記者にとっては、そうではない可能性もあります」

また記者も、当事者に配慮するために何を聞いて良くて、何は聞かないほうがいいのか、どのような言葉を選ぶべきなのか、悩むケースが多々あることもわかったという。

「取材を受ける側も、ここはしっかり聞いてほしい、ちゃんと書いてほしいと思っていることがあります。だからこそ、『言わなくてもわかるでしょ』とはならずに、お互いにきちんと伝えていく必要があると感じています」

アウティングを防ぐために

取材をする側と取材を受ける側のチェックリストには、このような項目が並べられている。

今回のガイドラインは、報道だけでなく、アウティングされた一橋大学法学院の学生が転落死した事件などを始め、日々の生活におけるアウティングについて考えるヒントにもなっている、と神谷さんは考えている。

「『アウティングをしてはいけない』『そのために注意しよう』と伝えるだけでは難しくて、実際にどのようなポイントを抑えればトラブルを回避できるのか、具体的に示していかないと次のステップには進めないと考えています」

「そうしないと今現場で起きていることは解決できないし、今回のガイドラインは、そのポイントを言語化する最初の一歩にもなっているかなと思っています」

「LGBTに関する報道が増えてきたことは、本当に喜ばしいことです。だからこそ、そこでトラブルが起きることはお互いにとって不幸だなと。より良い形で『取材』に関わり、現場の深刻な実態が伝えられるよう、このガイドラインが貢献できると嬉しいです」

LGBT報道ガイドラインは、ここからダウンロードできる。