「黒澤明の400年目の映画を私たちが作るんだーー」
映画「時をかける少女」や「転校生」を手がけた大林宣彦監督が11日、公式審査員として出席した国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2017」のアワードセレモニーで、故・黒澤明監督が未来の映画人へ託した「遺言」を後輩たちに贈った。

「本当はいまここにいないはずでしたが、まだ生きております。生きているならば、私がただ一人胸に温めておりました、黒澤明監督が未来の世界の映画人に遺した『遺言』をお伝えしようと、いま、命がけでここに立っております」
大林監督は昨年8月、監督の映画人生の集大成と位置付ける作品「花筐」の撮影開始前日に、肺がんの第4ステージ、余命3ヶ月の宣告を受けた。
その日から約10ヶ月。杖をつき、腰を少しかがめた姿で舞台に立った大林監督はゆっくりと語り始めた。
黒澤さんが遺言としておっしゃったのは、こういうことでした。
大林くん、人間というのは本当に愚かなものだ。未だに戦争をやめられない。
しかし(人間ほど)こんなに愚かなものはないけれども、人間はなぜか映画というものを作った。映画というのは不思議なもので、事実を超えた真実、人の心の「真」を描くことができる。映画には必ず世界を戦争から救う、世界を平和に導く美しさと力があるんだよ。
1943年に監督としてデビューした黒澤監督は、太平洋戦争中も厳しい情報統制のなか映画を作り続けた。
1998年に88歳で亡くなった黒澤監督が、晩年に大林監督に託した言葉はこう続く。
戦争はすぐに始められるけど、平和にたどり着くには少なくとも400年はかかる。俺があと400年生きて映画を作り続ければ、俺の映画できっと世界中を平和にしてみせるけれども、俺の人生が、もう足りない。
だが、俺が80年かけて学んだことを、君なら60年でできるだろう。そうすると20年は俺より先に行けるぞ。君が無理だったら君の子供、さらにそれがダメなら君の孫たちが少しずつ俺の先を行って、そしていつか俺の400年先の映画を作ってくれたら、その時にはきっと世界から戦争をなくす。それが映画の力だ。

「俺たちの続きを、やってよ」
最後に大林監督は「映画は風化せぬジャーナリズムだ」と語り、会場にいた若き映画人にエールを贈った。
みなさんは戦争の時代というと、時代劇を見ているような、はるか昔の自分とは関係ない時代のようにお思いでしょうけど、戦争というのはね、ここにあったんですよ。ここにあったんです。この日常の中に、戦争はあったんです。
どうか皆さん、この混迷の時代ですけども、この映画の力を信じて。未来に向けて「いつか黒澤明の400年目の映画を私たちが作るんだ」と。
黒沢さんが最後におっしゃった言葉は「お願いだから、俺たちの続きを、やってよ」。この言葉を若いみなさんに贈って終わりたいと思います。
大林監督の映画「花筐」は今年の年末に公開が予定されている。