「僕たち結婚します!」
Netflixの人気番組「クィア・アイ in Japan!」に出演したことで知られ、性的マイノリティの当事者として発信を続けているカンさんが、パートナーのトムさんと9月に結婚することを発表した。
愛し合うふたりの門出。喜びと祝福に満ちあふれるはずの報告だが、現実はほろ苦い。
日本では同性同士の結婚が認められていないため、カンさんは結婚するために、イギリス移住を選ぶほかなかったからだ。
ふたりの将来について考える上で、日本で暮らし、結婚するという選択肢を持つことができなかったことが「悔しくて、悲しい」と語るカンさん。渡英を前に現在の心境を聞いた。
コロナで1年半以上会えず
ーーご結婚、本当におめでとうございます!トムさんとは、カンさんが2016年にイギリス留学されていた時に出会ったんですよね。
今年で付き合って5年になります。僕が大学院留学を終えて、日本で就職してからは3年間、遠距離恋愛をしていました。
おととしまでは3カ月に1度、どちらかが会いにいく形でイギリスと日本を行き来していましたが、新型コロナウイルスの影響でそれも難しくなってしまいました。
最後にトムに会えたのは、1年半以上前になります。
本当は去年の3月にトムが日本へ来るはずだったのですが、出国前日に渡航禁止令が出てしまい…。6月なら何とか会えるかもと期待していたのですが、日本の状況がさらに悪化していたので、会うことができなかったんです。
コロナが広がる前から、3カ月ごとに会えることを人生の幸せポイントに置いて、毎日頑張っていたような形だったので、今度は会えるかもしれないという期待が裏切られることが本当に悲しく、ものすごく傷ついていました。
当時はふたりで泣きながらビデオ通話したりもしましたが、会えないことが悲しすぎて、ビデオ通話で話すのもつらくて。
今後もどうなるかわからないということで、もう結婚して一緒に暮らす方法を探していくしかないという結論に至りました。
「主体的な選択」ができなかった
ーークィア・アイに出演された時は、「トムちゃんと一緒に暮らして幸せになりたいけど、それはどこなんだろう」「イギリスにいたいわけでも、日本を出たいわけでもないけど、日本には居場所がない」と話していました。
今回結婚を決めたのは、何よりも会いたいという気持ちが一番で、お互いが好きだからですが、ふたりが一緒にいるためには配偶者ビザが必要だから結婚するという意味合いも大きいです。
イギリスでは2014年に同性婚が法制化されました。今回僕はまず、6カ月以内に結婚することを条件とした婚約者ビザを取得してイギリスに移住し、9月に挙式して、その後配偶者ビザに切り替えていく予定です。婚約者ビザの間は、就学や就労は認められていません。
移住するということは、大好きな家族や友達、慣れ親しんだ環境や仕事からも離れなければならず、とても大きな決断でした。
将来的には、トムが日本に駐在して一緒に暮らす可能性もあったかもしれませんが、現状、日本では同性婚が認められていないから、結婚するためには僕がイギリスに行くしかありません。
ふたりのこれからについて相談する中で、日本で結婚して生活をするという選択肢を持てなかったこと、真に主体的な選択ができなかったことが悔しく、悲しいです。
どうしてもイギリスに行きたいわけではない
ーー外国籍のパートナーと国際恋愛をしている日本の当事者の多くが、ビザの問題を抱えています。日本で配偶者ビザが取得できず、不安定な状態が続くことから、同性婚が認められているパートナーの国に移住する人も少なくありません。
結婚するしないは個人の自由ですが、結婚したいと思っている人ができない、法的保障を必要としている人が得られないということが問題だと思います。
僕の場合も、どうしてもイギリスに行きたくて行くというよりも、現状ではこの選択しかないから行くという気持ちです。
海外で暮らした経験があることや、パートナーの出身国で同性婚が認められていること、経済的にも移住の選択ができたことなど、僕自身が多くの「特権」を持っていると感じています。
だからこそ、自分が結婚できるからそれでいいとか、困っている人は海外移住すればいいじゃんと、希望を奪うようなメッセージを発信することはとても不本意です。
「僕は日本を離れちゃうからじゃあね」じゃなくて、これからも投票するし、声もあげるし、日本での同性婚の実現に向けて一緒に闘いたいと思っています。
「慎重に検討する必要」という言葉の暴力性
ーー日本では性的マイノリティに対する「差別は許されない」という文言を含んだ「LGBT理解増進法案」が、国会提出目前まで迫っていましたが、自民党の保守派議員から強い反発で頓挫し、議員による差別発言も問題になりました。
どうして「差別は許されない」という内容の法律が作れないのか、理由がわかりません。
蓋を開けてみれば、法律を通すかどうか決める人たちの中から差別発言があり、また前に進むことができないのかと感じました。
「LGBT理解増進法案」は性的マイノリティに対する「理解を広げる」ことを掲げていましたが、その言葉自体が特権性を帯びていると思います。
僕たち当事者は結婚できない状況や差別を、嫌でも毎日経験せざるを得ません。
その中で「まだ理解が進んでいない」とか「慎重に議論を進めないといけない」という言葉自体が、暴力的だと感じます。
「#日本で結婚したい」
ーー他方、同性婚の実現を求める裁判では、札幌地裁が今年3月、同性カップルのみ結婚による法的効果を得ることができないのは、不当な差別だと認めた判決を下しました。今後、日本の政治がどのような方向に進んでいくことを期待しますか?
判決が出た時は、それまで自分が性的マイノリティだと気付いた時から、日本社会で存在しなかったことにされることや、差別を受けることがあまりに多かったので、期待しすぎるとつらい思いをすると、どこか防御線を張っていました。
でも性的マイノリティの存在を好意的に捉えて、これは差別ですと言ってくれる判決が出たので、ものすごく嬉しかったです。声を上げている人は今もこれまでもたくさんいて、その声がようやく届き始めたのかなと思っています。
その一方で、地裁の判決があったからといって国がすぐに動くわけではなく、そこに大きな隔たりを感じています。
トムも日本で暮らしてみたいとよく言っていて、早く日本で婚姻の平等が実現してほしいねと話しています。
今はひたすら前に進んでいくしかないので、すごく駆り立てられるような気持ちです。将来的にはトムと日本で暮らす選択肢が持てることを願って、声をあげ続けていきたいと思っています。