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愛する人と日本で暮らしたい。22年間、不法滞在を続けた男性が国を訴えるまで

「僕が悪いことをしたのは確かなので」。そうつぶやく彼がたたかう理由

国を訴えた台湾人男性のGさん
Saori Ibuki / BuzzFeed

国を訴えた台湾人男性のGさん

2016年6月16日、台湾人男性のGさんは新宿にいた。

Gさんはゲイだ。この日は20年以上連れ添った日本人男性のパートナーXさんと暮らす家に帰る前に、家電を見ようと寄り道をした。

信号待ちをしていたら、若い警官に肩を叩かれた。「身分証明書はありますか?」と聞かれたとき、「あ、もう終わりだ」と思った。

職務質問の後に逮捕された。容疑は入管難民法違反(不法残留)。実に22年2カ月もの間、在留資格の期限が切れたまま、日本で息を潜めて暮らしていた。

審査の末、国外退去強制処分命令が下された。だが、逮捕からまもなく2年が経ついま、Gさんは国を相手に、前例のない裁判をたたかっている。

Aluxum / Getty Images

「同性愛者への差別」国を提訴

Gさんは2017年3月、国を提訴した。裁判で求めているのは、自分に下された国外退去強制処分命令の取り消しだ。

問題にしたのは、日本人と安定した婚姻関係にある男女カップルであれば付与される可能性が高い「在留特別許可」が、同性カップルの彼には与えられなかったこと。

これは同性愛者に対する差別であり、性別や人種を問わず「法の下の平等」を約束している憲法14条や、幸福追求の権利を保障する13条などに反していると主張している。

「同性愛が治ったら家に帰ろう」

Gさんとパートナーの日本人男性Xさん
弁護団提供

Gさんとパートナーの日本人男性Xさん

Gさんは1960年代の台北に生まれた。

幼いころから自分が男性に惹かれることに気づいていたが、「当時は誰にも理解されない、LGBTという言葉すらない時代。誰にも打ち明けられませんでした」とBuzzFeed Newsの取材に話す。

10代のころ、自分のセクシュアリティを人に知られた恐怖で、自殺未遂をしたことがある。

病院で目を覚ましたとき、朦朧とする意識の向こう側で姉が言った。

「あなたは病気だから。同性愛を治したら、家に帰ろうね」。両親は姉の隣で黙って立っていた。

一度は家族の元へ帰ったものの、ほどなくして家を出た。それ以来、30年以上家族とはほとんど会っていない。

弁護団提供

初めて日本に来たのは、1991年9月。同性愛者であることを理由に、台湾の軍から除隊を命じられた2年後だ。

パートナーとなる日本人男性のXさんと出会ったのは、1993年12月のこと。誰にも理解されない孤独の中で、これからの進路を悩んでいたときだった。

新宿2丁目の飲み屋で知り合い、時間をともに過ごすにつれて、「この人と一緒に生きていきたい」と思うようになった。

翌1月、Gさんは在留期間90日の「短期滞在」という在留資格を得て、4度目の来日を果たした。そして、Xさんと2人で暮らし始めた。

在留資格の期限が切れた後も、彼のいる日本を離れる決断ができなかった。

「彼と一緒に暮らしたい」

それから22年2カ月、警官に声をかけられたあの夜まで、2人はひっそりとした暮らしを続けた。

2人でなんとか生計を立て、Gさんが1995年にHIV陽性と診断され、パートナーがうつ病を患ったときも互いに支え合った。

弁護団提供

もちろん、一度出国して再び在留資格を申請することは、処分を受ける以前に何度も考えたが、過去に不法就労を疑われて却下された経験から、次は二度と帰ってこられなくなるのではないかという不安が勝った。

「でもずっと、自分は日本で暮らす権利がない立場なんだということが頭にあって、毎日不安でした。職場などでもイントネーションから身分がバレないように、極力人と話さずに生活していました」

「パートナーと一緒に住んでいるだけで、近所の人から『どういう関係ですか?』と不審がられたり、似てもいないのに『兄弟ですか?』と言われたり。今思えば、そうしたストレスで、精神的に限界に近い状態になっていたように思います」

だから、Gさんは逮捕されたとき、長年の緊張がほぐれて少しほっとしたのだと言う。留置所でぼーっと座っていたときに頭に浮かんだこと。それは「日本で彼と一緒に暮らしたい」という願いだけだった。

同性婚できない日本で

Alija / Getty Images

Gさんが不法残留になってしまった原因の一つ、「在留特別許可」をもらえなかった背景、そして国との裁判の焦点には、日本で同性婚が合法化されていないことがある。

まず、Gさんのように日本国籍を持たない人が日本に滞在するためには、国から「在留資格」をもらう必要がある。

滞在の目的や理由によって種類が定められていて、日本にいられる期間や、滞在中にできることが決まっている。例えば日本人の結婚相手であれば、「日本人の配偶者等」という資格を得て、6カ月~5年間の滞在が許される。

次に「在留特別許可」とは、不法滞在になってしまった外国人に対して、法務大臣が在留資格のいずれかを特別に与える制度のことだ。

在留を希望する理由や家族の状況、日本での生活歴、人道的な配慮の必要性など、特別な事情を鑑みて判断が下される、救済措置的なものだ。

時事通信

実際に法務大臣が特別許可を出した事例を見ると、23年7カ月もの間不法滞在を続けていた人でも、日本人と結婚して10カ月経っていることを考慮して、滞在を認めた例がある。

また、Gさんの弁護団の一人の横山佳枝弁護士によると、男女カップルであれば、結婚し安定した関係を築いていれば在留特別許可が得られる可能性が高く、処分時に「内縁関係」であっても、その後に婚姻届を提出して訴訟で争うことによって、処分を取り消されたケースが多くあるという。

だが、Gさんの場合は日本で同性婚が許されていないため、法的な配偶者となって在留資格を得る選択肢がなかった。

さらに20年以上ともに生計を立て、「夫婦のように」支え合ってきたことも、在留特別許可を与える理由として考慮されなかった。

国側「考慮すべき事情に当たらない」

国の判断は同性愛者に対する差別にあたるのではないか、というGさん側の主張に対して、国側は答弁書の中で次のように反論している。

まず、「日本人の同性パートナーに対して付与する在留資格が存在しないことから、Gさんとパートナーの関係は(在留特別許可を出す際に)考慮すべき事情に当たらない」と主張している。

つまり、日本で同性婚が認められていない以上、日本人の同性パートナーにはそもそも在留資格が与えられない。そのため、Gさんとパートナーの関係も在留特別許可を出す際に「考慮すべき事情」ではないという主張だ。

また、不法残留という違法状態の上に築かれた関係は、法的保護に値しないと主張。たとえ日本人と婚姻関係があったとしても、それは考慮される事情の一つにすぎないとも述べている。

さらに、Gさんが不法残留していた期間が長期に及ぶことや、不法残留中に働いていたこと、台湾に帰国しても生活に困るとは言えないことなどを理由に、国外退去強制処分は適法だと述べている。

Gさんの弁護団の一人の横山佳枝弁護士
Saori Ibuki / BuzzFeed

Gさんの弁護団の一人の横山佳枝弁護士

一方、横山弁護士は「そもそも日本で結婚する術がなかったから不法在留になった経緯があるのに、20年以上連れ添ってきた2人の関係は考慮する事情に当たらないと言うのは、性的指向に基づく差別と言えるのではないでしょうか」と反論する。

2017年5月に台湾で同性婚を認める司法判断が下されたことを受けて、Gさんも帰国すればいいのではないかという指摘には、家族と絶縁状態で身寄りがないことや、パートナーが台湾に行き就労することが現実的でないことなどを指摘する。

世界で同性婚を認める国の数が20を超え、G7で合法化していない国が日本とイタリアだけになった現状からも、「国際的には同性婚を権利として認める方向に進んでいる中で、今回の裁判が日本で持つ意味は大きい」と話す。

「私が悪いことをしたのは確か」

Saori Ibuki / BuzzFeed

裁判を起こすにあたり、Gさんの中で葛藤がなかったわけではない。「僕が悪いことをしたのは確かなので」とつぶやく。

それでも裁判をたたかうのは、パートナーと一緒に暮らし続けたいという願い、そして同性婚の合法化に向けた契機になればという希望がある。

「ずっと自分のことを知られては危険だ、僕のような立場の人間のことはわかってもらえないと思って、隠れて生活してきました」

「でも今は、僕も少しずつ、世の中の人に話しかけてみたいと思うようになりました」

「この国にも同性カップルがいることを認めて欲しい。同じ人間なのに愛する人と結婚できて、一緒に暮らせるのは異性カップルだけなのは、おかしいのではないでしょうか」

裁判の次回期日は5月11日午前11時半から、東京地裁で開かれる。

明治大学法学部鈴木賢教授が中心となり結成された「外国人同性パートナー在留資格訴訟を支援する会」は、 7月14日まで、裁判費用などの支援を求めるクラウドファンディングを実施している。


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドのメディアパートナーとして、2018年4月28日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「LGBTウィーク」をはじめます。

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BuzzFeed JapanNews

【UPDATE】一部表現を修正しました。


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