「崇高な目標を掲げるものでも…」ICAN事務局長の呼びかけに外務省が反論

    「条約が核廃絶という崇高な目標を掲げるものであっても、その条約に参加すれば、核抑止力の正当性を損なうことにもつながります」

    2017年のノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)事務局長で、初来日中のベアトリス・フィンさんが1月16日、衆院第1議員会館で、国会議員との討論集会に参加した。

    ICANは昨年7月、戦後72年目にして初めて核兵器の使用などを法的に禁じ、国連で122カ国の賛成多数で採択された「核兵器禁止条約」の実現に貢献した。

    16日の討論集会で「核の抑止力は神話にすぎない。日本は核兵器廃絶に向けたリーダーになれる」と条約への署名を呼びかけたフィン事務局長に対し、外務省を代表して出席した佐藤正久副大臣が反論。

    「日本を取り巻く安全保障環境は戦後最も厳しいと言っても過言ではない。条約は現実の安全保証の観点を踏まえていないため、署名することはできない」と改めて日本政府の立場を表明した。

    「二度と広島と長崎を生まないために」

    討論集会にはフィン事務局長、佐藤外務省副大臣のほか、自民党、公明党、立憲民主党など10の政党からそれぞれ代表者が出席。会の様子は報道陣と一般傍聴者に公開され、被爆者7人も対話の行方を見守った。

    冒頭、フィン事務局長は正面に座った被爆者と、13〜15日にかけて訪問した広島と長崎について触れた。

    「今日の集会に被爆者の方々が参加してくれたことを、とても光栄に思います。彼らの物語、核兵器廃絶に向けた活動は、ICANの根幹にあります。ノーベル平和賞はあなたたちのものでもあるのです」

    「広島と長崎で私たちは、人類が成し得る最大の悪を経験した一方で、その悪を経験した人たちの情熱と覚悟を見ました。日本人は広島と長崎を『絶望の街』から『希望の街』へと変えた努力を、誇るべきだと思います」

    「だからこそ今日私は、どうすれば被爆者の思いを尊重し、二度と広島や長崎と同じ運命を辿る街を生まずに済むか、そしてどうすれば日本が核兵器廃絶に向けたリーダーになれるかをお話ししたいと思います」

    「核抑止は神話にすぎない」

    フィン事務局長は、北朝鮮が核開発やミサイル発射実験を続けていることに対して、強い危機感を示した上で、「北朝鮮の脅威があるからこそ、核兵器を禁止するために急ぐべきだ」と指摘した。

    「北朝鮮の核開発を止めるために、アメリカや今世界にある1万5000もの核兵器は何の役にも立ちませんでした。むしろ核開発を煽ってきました」

    「『核の抑止力』が神話にすぎないことは明らかです。北朝鮮の核開発を止める力はなく、むしろ推し進めてきました」

    「北朝鮮が核兵器を持つことに不安を感じるのは、核兵器が平和と安定をもたらさないことをみなさんがすでに知っているからです。私たちは核兵器を禁止することで、この危機を乗り越えられるのです」 

    日本はアメリカとの関係を保ったまま、核兵器禁止条約に参加することはできる。そう述べ、国会議員たちに対して強い口調で問いかけた。

    「自国の防衛のために核兵器の力に頼ることは恥ずべき行為だと、国際社会が考える中で、日本は最後まで核にしがみついていた国になりたいですか?」

    「それとも日本は正しい道を選んだリーダーとして、同じく『核の傘』の下にある国々のお手本になりたいですか」

    「現実の安全保障を踏まえていない」

    フィン事務局長の指摘に対して、外務省の佐藤副大臣は「条約の目指す核廃絶というゴールは共有している」とした上で、核兵器禁止条約に対する日本政府の立場を説明した。

    まず、北朝鮮が過去2年間に相次いで核ミサイル実験を行い、昨年9月には「核で日本を沈めるべき」と声明を出したことに触れ、「わが国を含む国際世界の平和と安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威と認識しています」と主張。

    「核軍縮に取り組む上では、人道と安全保障の二つの観点の考慮が重要と考えます。この条約は現実の安全保障観点を踏まえることなく作成された側面もあり、日本政府としてこれに署名することはできないという立場であります」

    さらに、アメリカやロシアをはじめとする核保有国やNATO諸国が条約に賛同しておらず、条約に実効性がないことも示唆。まずは現存する1万5000発の核兵器を削減した上で、新たな核兵器が生産されていないか検証できる制度が必要だと指摘し、こう述べた。

    「国民の命と責任を預かる政府としては、米国の抑止力を維持しなければなりません」

    「条約が核廃絶という崇高な目標を掲げるものであっても、その条約に参加すれば、核抑止力の正当性を損なうことにもつながります。これは日本国民の財産や生命が危険にさらされても良いということと同じことだと考えています」

    「日本政府としては、わが国のアプローチとは異なる核兵器禁止条約に署名することはできませんが、現実の安全保障の脅威に適切対処しながら、地道に現実的に廃絶を推進する取り組みを目指すつもりであります」


    BuzzFeed Newsでは、ICANのノーベル賞受賞スピーチ『私があの日、瓦礫の中で聞いた言葉を贈ります』被爆者がノーベル平和賞授賞式で訴えたことの記事も配信しています。

    BuzzFeed JapanNews