「私のための絵文字はない」ムスリム少女が考えた絵文字をAppleが採用した理由

    「私たちは非常に大きな解放感の中で過ごしていることも、知ってもらえたら嬉しいです」

    Appleは「世界絵文字デー」の7月17日、iPhoneに新しく登場する絵文字の一部を発表した

    今回発表されたのは、昨年11月に新しい絵文字の開発を手がけるユニコード・コンソーシアムに承認されたもの。

    昨年追加された「妊娠中の女性」に続いて、「授乳中の女性」が登場。他にもヨガを楽しむ男性やゾンビ、エルフ、ティラノサウルス、ゲロを吐く人、頭が爆発している人、目が星の人などのデザインが追加された。

    2017年の暮れまでにはiPhoneやiPadなどのApple製品で使えるようになる予定だという。

    16歳の少女が発案した“ヒジャブ絵文字”

    今回発表された絵文字の中でも、特に注目されているのが、サウジアラビア出身の16歳、ラユーフ・アルフメディさんが発案した「スカーフ(ヒジャブ)をまとう女性」だ。

    "I just wanted an emoji of me": Headscarf-wearing women now have their own emoji, thanks to a 16-year-old Saudi gir… https://t.co/nl9l9yttxc

    ベルリンで暮らし、13歳の頃からヒジャブを身につけているラユーフさんは昨年、友だちとのチャット中にあることに気がついた。「みんなは自分の肌の色や髪に合わせた絵文字が選べるのに、私のための絵文字はない」と。

    そこで、ユニコード・コンソーシアムにヒジャブ姿の女性の絵文字を作るべきだと提案

    昨年11月にアメリカ・サンフラシスコで開かれた国際的な絵文字カンファレンス「Emojicon」でプレゼンし、「スカーフは私に力をくれる」「ポストの絵文字は4種類もあるのに、なぜスカーフを身に付けて暮らす何百万人もの女性のための絵文字がないんですか?」と訴えた。

    "The head scarf gives me power" 15-year-old @rayoufalh tells her story of her quest for the hijab emoji at… https://t.co/IgXDNM2TMq

    What puzzled @rayoufalh. Why emoji for the 4 stages of a mailbox, but no emoji for millions of women? At #emojicon.

    絵文字の発表を受けてTwitterでは、「抑圧の象徴であるスカーフを絵文字にすることは、抑圧を肯定している」と批判する声もあったが、ラユーフさんはCNNの取材にこう答えている。

    「この絵文字が論争を呼ぶのはわかっています。絵文字をうがった使い方をして、ステレオタイプを助長するような攻撃をしてくる人もいるでしょう。それでも、この絵文字からイスラムコミュニティが得るものはあると思う。きっと誰かが喜んでくれる」

    ラユーフさんはヒジャブ絵文字をきっかけに、イスラム教への理解も広がればと期待する。

    「これはただの絵文字。世界をひっくり返すような力はないかもしれない」

    「でも、みんなのスマホにヒジャブ絵文字が出てくるようになることで、私たちもみんなと同じ普通の人間で、普通の日常的な習慣の一つとしてスカーフを身につけているだけなんだと知ってもらえたら」

    日本人ムスリムも歓迎

    では、ヒジャブ絵文字誕生の知らせは、日本でどう受け止められたのか。

    「イスラム教やヒジャブについてあまり良くないイメージを抱いている人が少なからずいる理由の一つに、日本での生活においてムスリムを見たことがない、知らない、会ったことがないことが大きく影響していると思います」

    「だから、今回の絵文字などで普段から『見慣れる』ことができれば、ムスリムへの抵抗が少しずつなくなるのではないかと期待しています」

    そう話すのは、福岡県に暮らす40代の日本人ムスリムの女性。

    彼女が「かみさま」という存在を意識するようになったのは、難病を患い、入退院を繰り返していた小学生のころ。

    同じ病室に入院していた子がある日、「どうして私たちはこんなに辛い病気になったのか、知ってる?」と聞いてきた。「わからない、どうして?」と問い返すと、彼女の答えに驚いた。

    「かみさまがね、私たちはこの病気に耐えられると知ってるから、この病気をくれたんだよ。私たちはかみさまに選ばれた子なんだよ」

    それ以来、病でいつ死ぬかわからない、もう朝目覚めることはないかもしれないと怖くなるたびに、「かみさま」を思い、耐えた。

    大人になって「楽譜」のような文字で書かれたコーランに出会い、その祈りの音楽に魂が震えた。入信を決めた。

    入信後は「周囲の目が気になって…」

    だが、日常的にスカーフを身につけて生活できるようになったのは、入信後しばらく経ってからだった。

    「両親にはムスリムであることを反対され、ご近所さんの手前、ヒジャブはして欲しくないと言われていました。私も周囲の目が気になってしまって、最寄駅からモスクまでの間だけするようにしたりしていました」

    だが、結婚して新天地で暮らすようになったことを機に「もう外すまい」と決意。

    いまはヒジャブを見て「日本人ですか?なぜスカーフをしているのですか?」「暑くないですか?」などと質問されることはあっても、否定的な言葉を投げかけられることはないという。

    「欧米のようなムスリムに対する『憎悪』は日本では少なく、想像以上にとてもよく受け入れてくださっていると感じています」

    「今までムスリムを見たことがなかったという人でも、私と出会った後に、よくスカーフをした女性を見かけるようになったと話してくれることがあります。でも、急にムスリムがその人の周囲を歩き始めたわけではなくて、『知った』ことで目に入りやすくなっただけ。『見慣れる』ってそういうことだと思います」

    だが、女性は絵文字を通じてスカーフをしているのも普通の人だと知ってほしいと話したラユーフさんとは、少し違う考えを持つ。

    「そもそも女性が布を被っているのはイスラムだけではありません。キリスト教やユダヤ教の方たちも祈りの場で同じようにベールをしていますし、日本でも昔は高貴な人ほど御高祖頭巾を被っていました」

    「イスラムでは、どんな色のどんな素材のものをかぶろうと自由。私たちは非常に大きな解放感の中で過ごしていることも知ってもらえたら嬉しいです」