「クラウドファンディングすればいいじゃん」の社会にはならないで。25歳、社長になる人のこたえ

    クラウドファンディング大手の「CAMPFIRE」が4月4日、社会課題の解決に特化した事業「GoodMorning」を分社化することを発表した。

    新しい事業や活動を始めたい人などが、インターネットを通じて資金を募る「クラウドファンディング」。

    東日本大震災から3カ月後にサービスを始め、新たなムーブメントのハブとなってきた「CAMPFIRE」が4月4日、社会的意義のあるプロジェクトだけを集めた「GoodMorning」事業を分社化することを発表した。

    代表取締役社長に就任するのは、これまで事業部責任者を務めてきた酒向萌実さん(25)。

    「『困っているならクラウドファンディングすればいいじゃん』という社会には、なってほしくない」と語る酒向さんに、その意味を聞いた。

    2年半で7万人以上が支援

    ーー今回、子会社化に至った経緯を教えてください。

    「GoodMorning」は、社会課題の解決を目的としたクラウドファンディングのプラットフォームとして、2016年10月にサービスを始めました。

    これまでに実行されたプロジェクトは約1400件。2019年3月には累計支援額が7億円を超え、計7万2860人の方々に支援にご参加いただきました。

    その一方で、「運営側としてももっと活動をサポートしたいのに…」という課題感もあり、この流れをさらに後押しするために、より柔軟性や機動性のある体制を確保しようと、今回の子会社化に至りました。

    「クラウドファンディングすれば?」の社会

    ーーどのような課題があったのでしょうか?

    今までのクラウドファンディングでは、最大80日間という短期間で、お金を集めるという方法でやってきました。

    でも、一回の資金調達だけではサポートしきれない課題があったり、活動を継続的に支えていくことが難しいと感じていました。

    また、誰かが何か困っていることがあって、お金が必要だったり、仲間が必要だったりしたときに、「え?自分でクラウドファンディングすればいいじゃん」って言われるようになったら、すごく困ると思っていて。

    ーー困るとは…?

    例えば、経済的に困難な状況にいる子どもが「進学したいので、自分で自分の塾代を集めます」と言って、クラウドファンディングを始めたとします。

    もちろん、その活動を通じて、今目の前にいる子をみんなで支援することができたら、それはすごくいいことです。

    でも、親の所得の格差が、子どもたちの教育の格差も生み出してしまう問題は、本来は個人ではなく、社会全体で解決していく必要があると思っています。

    実際に、2017年10月に公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが中心となって立ち上げた「スタディークーポン」のプロジェクトは、渋谷区の貧困世帯で暮らす高校受験生が、塾代に使うことのできるクーポンを支給するために資金を募りました。

    このプロジェクトは当初から、クラウドファンディングで資金調達することをゴールとしておらず、制度化して、行政のお金で取り組んでもらうきっかけ作りとすることを重要な目的として掲げていました。

    その結果、2019年度の渋谷区の予算案に政策が組み込まれ、2020年度からは東京都が実施する方針を固めたとも報じられました。

    GoodMorningとしても、個人の挑戦を応援するからこそ、個人が努力して問題を解決しなければならない社会にしてしまわないように、社会にアプローチしていく必要があると考えています。

    ーー20183月に、日本で初めて、弁護士と当事者が裁判に必要な費用をクラウドファンディングした「タトゥー医師法裁判」のプロジェクトも大きな注目を集めました。

    司法って、私たちの生活からかけ離れたところにあるように思われがちです。

    たとえ、気になる事件があったとしても、傍聴するくらいしか「こういう結果になったらいいな」という意思表示をする方法がなかったり、でも実際に裁判所までいくのはハードルが高かったり。

    それが、クラウドファンディングをすることによって、当事者でない人も意思表示をすることができるようになったり、裁判やその背景にある社会課題とつながる方法を増やしたりしていくことができるのではないかと考えています。

    ロビイング支援を強化

    ーー分社化した後は、サービス内容は大きく変わるのでしょうか?

    今後は、活動の背景にあるのはどんな社会課題なのかという視点から、個別のプロジェクトを知ってもらえるようなオウンドメディアを始める予定です。

    また、SNSでのキャンペーンや、政策化に向けたロビイングの支援にも力を入れていきたいと考えています。

    特にクラウドファンディングは、PRの手段として使うことが重要です。なので、ロビイングのどのタイミングで使うべきなのか、制度化を目指している場合は、何に充てるお金を集めるべきなのかなどのサポートもしていければと考えています。

    ですが、全体として取り扱うプロジェクト数を絞ったりする予定はありません。

    掲載までのハードルを上げないことは、クラウドファンディングがこれまで実現してきた社会を守っていくために重要だと思っているので、必要な審査はしますが、掲載できる活動を限定する予定はありません。

    ーー2018年末には、別のクラウドファンディングサービスで成功したプロジェクトを、活動とは無関係の人物が「盗用」して、お金を集めようとした問題がありました。社会の重要な課題に取り組むからこそ、その信頼性が問われています。

    クラウドファンディングに限らず、オンライン決済機能を持っているあらゆるサービスが、厳しい目で見られている部分はあると感じています。

    GoodMorningでは掲載申請のあったプロジェクトを全てスタッフが審査し、その際の基準となる規約やガイドラインも公開しています。

    これからも丁寧な審査を心がけ、差別を助長するリスクや、第三者を傷つけるような内容のあるものに関しては、絶対に載せないというスタンスを今まで以上に強くしていく方針です。

    何度でも「おはよう」と言える

    ーー酒向さんは、GoodMorningを通じて「いいインターネットを作りたい」と表現されていました。

    インターネットができたことで、個人が色んな挑戦をしやすくなったり、発信しやすくなったりしたことは素晴らしいことだと思います。

    その一方で、一人では解決できないこと、そもそも立っているスタートラインが違うことを無視して、個人の頑張りや伸び代だけを見るのは違うんじゃないかと。

    個人が努力しなきゃいけない、個人の努力を後押しするだけのインターネットじゃなくて、社会全体が後押しできるパワーを持てるのが「いいインターネット」なのかなと思っています。

    ーー社のミッションには「誰もが社会変革の担い手になる舞台を作る」ことを掲げています。

    「GoodMorning」という社名には、朝という明るいイメージもあるんですが、何度も夜は訪れてつらいんだけど、何度でも「夜明け」は来るし、何度でも「おはよう」と言えるように、諦めたくないという思いを込めています。

    私はこれまで何度も、クラウドファンディングでお金を集めて、こういう風に社会が前に進んだとか、良くなったという例を見てきました。社会は、意外に変わるんだなと思ったんです。

    私はいま毎日その変化を見ています。だからこそ、プロジェクトを始めた人も、支援をした人も、社会って意外と変わるし、変えられるんだなと思える人数を増やしていく仕事ができたらと考えています。