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広辞苑に書かれた「フェミニズム」を変えてほしい。 彼女たちが立ち上がった理由

「フェミニズムは誰かを攻撃しているわけではないんです」

「フェミニスト」や「フェミニズム」という言葉を聞いたとき、あなたはなにを想像するだろうか。

「悪いイメージがついていますよね。ちょっとヒステリックで攻撃的、みたいな。私も性差別には反対だけど、自分が“フェミニスト”だとは名乗りづらいかな…って」

BuzzFeed Newsの取材にそう語るのは、都内の大学に通うイネコさん(23)とトミさん(21、いずれも仮名)。「すべての性の平等がみんなの幸せ」をテーマに活動する社会派アートグループ「明日少女隊」のメンバーだ。

今ある“フェミニスト像”には、違和感がある。でも、ネガティブなイメージを変えるためにはどうすればいいのか。

そう考えた彼女たちはあるものに目をつけ、そこに書かれた「フェミニスト」の意味を変えようと署名活動を始めた。

60年以上の歴史を誇る国語辞典「広辞苑」だ。


「明日少女隊」とは

明日少女隊は2015年4月に発足。交際相手の3歩後ろを歩く女性を「プロ彼女」と呼んで取り上げた女性誌の企画をパロディーで批判したり、性暴力被害の実情にあった刑法改正を求める運動の立ち上げに関わったりと、日本の女性が抱える社会問題について問題提起をしてきた。

そして2017年6月、広辞苑を発行する岩波書店に対して、次回の改訂で「フェミニズム」と「フェミニスト」の項目を見直してほしいと求める署名活動を始めた。

なぜか。「フェミニズムは、女性が男性以上の権利を求めたり、ある性が別の性よりも優位に立つとしたりする考え方ではなく、全ての性の『平等』を願う思想」で、その理念が広辞苑の語釈には欠けていると考えるからだ。


フェミニストは「女に甘い男」?

最新版の広辞苑(第六版、2008年)を開くと、「フェミニスト」と「フェミニズム」の項目にはこう書かれている。

フェミニスト【feminist】①女性解放論者。女権拡張論者。②俗に、女に甘い男。

フェミニズム【feminism】女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動。女性解放思想。女権拡張論。

そこに「平等」という言葉はなく、「女性解放」「女権拡張」「女に甘い男」というフレーズが並ぶ。

この説明では「あらゆる性の平等を目指すフェミニストの理念が明示されていないため、表現を変更してほしい」と、明日少女隊は主張している。

欧米の英語辞典に記載された「feminism」の説明と比較してみると、広辞苑にはない「平等(equality)」という言葉が使われていることがわかる。

「①性別間の政治的、経済的、社会的、平等の理論。②女性の権利や利益向上のための組織的運動」ウェブスター辞典

「性別間の平等に基づく、女性の権利をサポートする理論や運動」オクスフォード辞典

UN Womenの親善大使を務めるエマ・ワトソンさんも、2014年9月に国連本部で行ったスピーチで、“フェミニズム”という言葉がはらむ「男vs女」のイメージについてこう語っている。

フェミニズムについて語れば語るほど、女性の権利を主張することが男性嫌悪に繋がってしまうことが問題であるとひしひしと感じています。この現象を終わらせ、世の中の意識を変える必要があります。

なぜならフェミニズムとは、「男性も女性も平等に権利と機会を持つべきである」という信念です。つまり、「男女は政治的、経済的、そして社会的に平等であるべきである」という考え方なのです。

では、なぜ広辞苑に何が書かれているかが大切なのか。署名活動の呼びかけ文で、明日少女隊はこう綴っている。


「私たちは、フェミニズムは『いずれかの性が他の性よりも優位に立つ』といった考え方ではなく、だれもが平等で自分らしくハッピーに生きられる社会の実現のためにあると考えています」

「辞書は、高校生や大学生などの若い世代の人たちにとって、社会のことを理解する最初の手がかりのひとつです。私たちは、次世代に、このような誤解を招くようなフェミニズムの定義を残したくありません」

「性のあり方にかかわらず、全ての人が平等で自分らしく生きられる社会を実現するために、一緒にフェミニズムの定義を考え直しませんか?」


署名活動は約4カ月間で、6000筆以上の支持を集めた。


辞書は「二つの面を映し出す鏡」

広辞苑は1955年に第一版が出版され、7〜14年おきに内容を見直し、新たな版を発行してきた。

最新の第六版は2008年発行。岩波書店・辞書編集部の担当者は、次の第七版は「大まかには来年には出したい」とする。明日少女隊からの要請については、「検討の際に参考にさせていただきたい」と話す。

一方、広辞苑における「フェミニズム」の語釈の変遷を辿ると、第一版と第二版には性別間の平等を示す「男女同権主義」という説明があるが、1983年発行の第三版以降は削除されている。

「各改訂で何十万項目を見直しているため、それぞれどのような検討がなされたかは、今となってはわかりません」と担当者。

だが、そもそも国語辞典は「学術的に決まった定義だけでなく、世の中でその言葉がどう使われているかに依っている」といい、フェミニストの説明に「俗に〜」という言葉がついているのもそのためだという。

似たように「フェミニスト」の項目で「〔女性に甘い男性の意に用いるのは、日本での特用〕」と但し書きをつけているのが、三省堂の新明解国語辞典(第七版、2017年)だ。

同社の担当者は「辞書は『二つの面を映し出す鏡』としての役割がある」と説明する。

「辞書はもちろん『手本』としての定義を書くのも大事なんですが、実際に日常の場面で使われている『実態』も映し出す必要があります」

「"feminist"と言う言葉も、カタカナで『フェミニスト』となった瞬間にもう日本語です。そのカタカナ語がどう受け止められているかを検討した際に、『女性に甘い男性』という使われ方も否定できません」

その上で「これは日本独特の使い方だ」と読者に注意を呼びかけるために、こうした表記になっているのではないかと話す。


「女の子なんだから」が嫌だったからこそ

「フェミニズムは女性、男性など関係なく、ジェンダーや性的志向で何かが決定されることはない、何かの生きにくさや抑圧を感じている人をなくそうという運動だと思います」

明日少女隊のイネコさんはそう語る。彼女にとって象徴的だったのは、ランドセルの色だ。

今でこそ色とりどりのランドセルが通学路を彩るようになったが、イネコさんが小学生の頃は「女の子は赤、男の子は黒」が常識だった。

「本当は黒が欲しかったんですが、父親が『それだといじめられる』って心配して…。間をとってワイン色にしたんですが、それでも、自分が選んだランドセルを6年間背負って学校に行けたことがうれしかった」

「女の子が黒いランドセルでもよければ、男の子だって赤いランドセルでもいい。ジェンダーに関係なく、いろんな色が自由に選べることが大切だと思うんです」

トミさんが「不平等」を経験したのは、高校卒業後の進路を決めたとき。アメリカの大学で物理を学びたいと両親に相談した際、思わぬ答えが返ってきた。

「そんなにいい大学を卒業しても、子どもが生まれるまで何年働けるかわからないでしょ、女の子なんだから大学でそんなに高い学費を払わなくてもいいじゃない」

さらにその数年後、弟がアメリカの大学に進学したいと言ったときに両親が何も言わずに応援したことも、心にわだかまりを残した。

弟にアメリカに行ってほしくないわけではない。弟には思い切りがんばってほしいから。

ただ、一つ疑問が残った。「どうしてお父さんとお母さんは、私のときはそういう気持ちになってくれなかったの?」と。

女性である自分たちが感じた生きづらさ。でも隣を見ると、兄弟や友人たちがそれぞれに押し付けられている「ステレオタイプ」やその息苦しさも見えてくる。

「だからこそ」と、トミさんは言う。

「だからこそ、フェミニズムは何かを攻撃しているんじゃなくて、平等に、みんなで生きやすくなろうという思想なんだよって言いたいです」

「言葉にまとわりついている悪いイメージを超えて、『私は人を性で差別しない。だから私はフェミニストです』って言えるようになればいいなと思います」


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