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半数が「10回以上セクハラを経験」 調査が示したメディア業界の実態

「性的な取り扱われ方と引き換えに情報を得ている人が多数いるという現状を、記者として、上司として同僚としてどう思うのか。同じ職場にこのような扱われ方をしていることに怒りはないのですか、と聞きたい」

財務省のセクハラ発言問題で明るみに出た、報道現場におけるハラスメント。

性暴力の被害者と報道関係者でつくる「性暴力と報道対話の会」は5月17日、メディアで働く人を対象にセクハラ被害の実態を調べたアンケート調査の結果を発表した。

回答者の半数が「10回以上被害」

この会は、性暴力の被害者らでつくる一般社団法人「Spring」代表理事で、自らも父親から性的虐待を受けた経験のある山本潤さんを中心につくられた。性暴力被害者と報道関係者向けの勉強会を開いている。

今回のアンケートは、財務省の福田淳一元事務次官が女性記者にセクハラを繰り返していたと報じられたことを受け、4月24日からネット上で実施。5月7日までに、新聞社や放送局で働く20〜60代の記者ら計107人(女性103人、男性4人)が回答した。

被害を受けたことがあると答えたのは102人で、全員女性だった。そのうち「10回以上」被害を経験した人が最も多く、51人と半数を占めた。「2〜9回」が46%だった。

具体的には、「性的な関係を無理やり持たされた」と答えた人が8人。「抱きつかれた」が49人、「性的な関係を強要されそうになった」が39人、胸やお尻を触られた人が35人だった。

加害者の95%が「被害者よりも立場が上」

調査が示したのは、セクハラの加害者は社会的地位が高い場合が多く、その立場を利用した「パワハラ」の要素もあることだ。

加害者との関係について、被害を経験した人のうち74人が複数回答で「取材先・取引先」と回答。「上司」が44人、「先輩」が35人と続き、社会的関係や上下関係を問われて加害者が「上」と答えた人は95%だった。

被害を受けた当時の年齢も20代が7割を占め、加害者は40〜50代が最も多かった。

「社内のセクハラ被害がこんなにも多いとは思っていなかった。20代の頃はまだ駆け出しで、無防備であることにつけ込まれやすいのかもしれません」と、元毎日新聞記者の上谷さくら弁護士は指摘する。

「『あいつは使えない』と言われたくないというプレッシャーがある。被害を受けても、上から『このくらいで泣き言を言うもんじゃない』と言われたら『自分は根性が足りないんだ』と思いがち。そうした業界の体質も問題だと思います」

「なかったことにしようとした」が67人

セクハラを受けても相談することが難しく、被害が矮小化される傾向にあることも示された。

被害後の心境については、「なかったことにしようと思った」と答えた人が67人と最も多く、「自分の専門性が否定された気がした」が39人、「心身に不調をきたした」「自分が価値のない存在になったと感じた」が20人続いた。

被害について相談した人は3割強にとどまり、「相談することを考えなかった」が回答者の54.8%、「相談しなかった」が9.6%を占めた。

さらに、相談後の対応について「迅速・適切に対応された」と答えた人は38人中9人しかいなかった。

文書でアンケートへの考察を寄せた臨床心理士の斎藤梓さんは「セクハラについて相談することは、自分が性の対象として見られたと改めて認識し、被害を思い出さざるを得ないことであり、大変苦痛なことです」と指摘する。

「一方で、相談を受け止めて対処されるということは、『自分が尊重された』という体験になります。被害を受けた人が、自分が受けた傷つきを組織の中で安心して相談することができ、人として尊重して扱われることが重要です」

怒りを感じないのか

自由記述の欄には、他にもさまざまな声が寄せられた。

女はダメだと批判されることにおびえた。

だんだんと麻痺して、必要以上に笑ってやり過ごせることに価値を置くようになった。

閉鎖的で古い業界で、男性もハラスメントに晒されていることは想像でき、この問題に一緒に取り組んでほしい。

アンケートの結果は17日、報道各社に具体的なセクハラ防止策を求める要望書とともに、日本新聞協会や日本民間放送連盟などに提出した。

「政府や行政ではなく各協会に提出したのは、メディアの方々がご自身で業界が抱える問題について考え、対策してほしいと思ったからです」と山本さんは言う。

「性的な取り扱われ方と引き換えに情報を得ている人が多数いるという現状を、記者として、上司として、同僚としてどう思うのか。同じ職場にこのような扱われ方をしている人がいることに怒りはないのですか、と聞きたい」

「回答者の中には『私が声を上げていれば…』と書かれた方もいましたが、会社や組織がセクハラを放置している以上、被害者が一人孤独に反対したとして、追い出されるだけか不利な扱いを受けるだけです」

「だから、自分が悪かったと責めることはしないでほしい。深い傷つきを抱えさせられた人への責任をこの社会やリーダーシップを持つ人たちが、どのようにとっていくのかが問題だと思います」

アンケート調査は6月末まで続ける。回答フォームはこちら