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オンナたちは、音楽で「かわいい」をハックする。

「コンプレックスはアートなり」というコンセプトを掲げ、音楽で「かわいい」の概念を塗り替えようとしているNEO(ニュー・エキサイト・オンナ)バンド「CHAI」。4人は自分自身のコンプレックスとどう向き合ってきたのか。

あなたは自分の容姿に自信がありますか?

そう聞かれて「あります」と即答できる人はどれくらいいるだろう。

肥満、貧乳、一重まぶた。こうしたからだの特徴を、自分固有の魅力として愛せたら。

とあるバンドは、その代表曲のミュージックビデオで、コンプレックスに繋がりがちなこれらの言葉を、次のように再定義している。

Sony Music Entertainment (Japan) Inc.

CHAIの代表曲「N.E.O.」のミュージックビデオ

肥満=「ナチュラルクッション(触れたくなる柔らかさは、誰でも受け入れる優しさ)」

貧乳=「フラットガール(誰にも媚びない、公平さと平静さ)」

一重まぶた=「クールアイ(眉毛の下の、クールジャパン)」

彼女たちが掲げるバンドのコンセプトは「コンプレックスはアートなり」。数々の著名アーティストや海外のオーディエンスも唸らせる音楽で、「かわいい」の概念を塗り替えようとしている。

それがNEO(ニュー・エキサイト・オンナ)バンドこと、「CHAI」だ。

「コンプレックスはアートなり」

黒羽政士

CHAIは双子のボーカル/キーボードのマナと、ボーカル/ギターのカナ、ドラムのユナ、ベースのユウキの4人で構成される。

「コンプレックスはアートなり」というコンセプトには、どんな意味が込められているのか。

「私たちは見ての通り、全然完璧じゃなくて、4人ともすごいコンプレックスに悩んできた」

「もちろん今でもコンプレックスを抱えているけど、完璧じゃない私たちだからこそ、曲にして伝えられることがあると思ったんだよね」とマナは言う。

黒羽政士

双子のマナとカナは、幼い頃から一重まぶたの目がコンプレックスだった。

「世の中どうしても、目が大きい人が『かわいい』っていうのがあるから。その『かわいい』にずっと縛られて生きてきた」(カナ)

ユウキの場合は、人よりも長い首。ユナは、角ばったフェイスライン。

「思春期の頃は、学校で『お前だけ顔が近えんだよ』とか『顔がでけーな』って言われてたから、少しでも顔が小さく見えるように顔を前髪でずっと隠してたの」(ユナ)

黒羽政士

かわいいには誰かが決めた正解があって、それ以外は全て「不正解」。そして、いつまで経っても自分たちは正解にはなれない。

冒頭で触れた代表曲の「N.E.O」は、畳み掛けるようなビートにのせてこう歌う。

つまんないなんて変じゃない?
全部同じ顔なんて変じゃない?
キレイキレイしすぎ
個性はどこにある?

つまんないなんて変じゃない?
全部同じ顔なんて変じゃない?
そのままがずっと
誰よりもかわいい

多くの人が経験する見た目に対する葛藤を乗り越え、疑問を呈したところが、CHAIの出発地点だ。

ブスな人なんていない

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ユニリーバが2017年に実施した調査によると、容姿に自信があると答えたのは、日本の10代女性のうち、わずか7%だった。

無数の「不正解」を生み出したうえで定義される『かわいい』は息苦しい。それなら新しいかわいいを発信しようという思いが、CHAIの音楽には散りばめられている。

例えば2018年に出した「わがまマニア」に収録されている「Center of the FACE!」は丸々一曲、それぞれの「鼻」に魅力があることを歌っている。

それはノーズ
みんなにあるベイシック
それはノーズ
みんな違うトレンディ

それもノーズ
絶妙にハイクオリティ
それもノーズ
堂々たるチャーミング

そのアンバランス 魅力になる
そのアンバランス エースになる

扱いづらいくせ毛に捧げられた「カーリー・アドベンチャー」という歌もある。

クセがでるのは
自分らしくいること
その印なの
何もこわくはない
新しい目線
ここに集めれば
わたしが変わる

「かわいいっていろんな種類があっていいと思うし、そもそもブスっていう言葉なんて必要ないって思ってるし、ブスな人なんていない」

「それぞれ個性があるからいいのに、そこを誰も褒めようとしないから、こんなに息苦しくなってて」とマナは言う。

黒羽政士

マナとカナはいま、一重を「アジア人の特権」と呼ぶ。ユナとユウキもコンプレックスだった箇所が見えるような髪型に変えた。

「私たちの言う『NEOかわいい』って、そもそも人間は生まれた時から色々な良さを持っていて、みんなそれぞれかわいいんだよってことを言いたいだけなんだよね」(マナ)

学校は「自分を見失う場所」

4人は、お互いを褒め始めると止まらない。

その楽しげな様子を見ていると、この空間だけぽっかりと学生時代の教室にタイムスリップしたような気持ちになる。

例えば、マナとカナとユナが初めて出会った高校の音楽室のような。

「ユナと初めて会ったときのこと?覚えてる覚えてる。くせ毛がすごくて、あとすっごいニコニコして太陽みたいな子だと思った」

「ドラムが最初からめちゃくちゃ上手くて。誰のドラムこれ?って言って振り向いたら、女の子が叩いててびっくりした。音がでかすぎて」(マナ)

「最初からバスドラの安定感がすごかったよね。いまだに覚えてる、教室で叩いてたの」(カナ)

名古屋市内のどこにでもあるような高校の軽音楽部で、3人は一緒になった。

部活は、音楽は、楽しかった。でも学校は「自分を見失う場所だと思ってた」とユナは言う。

その気持ちは、一人、別の高校に通っていたユウキも抱いていた。

黒羽政士

「みんな同じ制服着て、同じ髪型しなきゃいけなくて、後輩はジャージのチャックを開けちゃだめとか、襟を立てられるのは上級生だけとか暗黙のルールがいっぱいあって。今思うとちゃんちゃらおかしい」

「でもそういうものに縛られてるってことにも当時は思ってなかったかも。学校を出て初めて息苦しかったんだとか、もっと他の世界があるんだってことを知ったの」(ユウキ)

軽音部で一緒にバンドをやっていた3人は、高校を卒業すると一度バラバラに。

だが、やっぱりもう一度音楽をやりたいと思ったマナが、その後知り合ったユウキを誘って、集まったのがCHAIの始まりだ。

「上京したての頃は、2DKのアパートに4人で暮らしてたんだけど、めっちゃ狭いの。激せまだよ」

「ダイニングが4.5畳で、2部屋ある6畳の寝室に2人ずつで寝て。プライベート空間なんか一切ないし、スーツケースも開けないくらい」(カナ)

「最初の頃は、ライブするたびにお客さんが0人で、どうやってお客さんを増やすんだって毎晩のように考えて」

「バンドマンなら誰もが経験するスタートだと思うんだけど、なんで見てくんないんだろうって、悔しくて。葛藤だったね」(マナ)

唯一無二。ジャンル「CHAI」

黒羽政士

そんな日々でも、迷わず進めたのは4人がいたからだと彼女たちは言う。

何にも根拠はなかったけれど、この4人だったらいけるんじゃないかと可能性を感じた。私たち、光ってるかも、と。

「自分たちの中に、いいものとダサいものの判断がちゃんとあって、4人いれば絶対に迷わなかった。作りたい音楽のイメージが、何も言わなくても共有されてるの」(ユウキ)

「私たちにとっていい物は、その人にしか出せない音と、その人にしか表現できない音楽、パッション。絶対的な個性と、絶対的なリズム」

「誰の真似もしない。誰っぽいとも言われたくない。私たちは、唯一無二。ジャンル、CHAIって思ってる」(マナ)

彼女たちの音楽は、発見されるまでにそう時間はかからなかった。

2016年には初期の代表曲「ぎゃらんぶー」がSpoitfy UKチャートTOP50に突如ランクイン。翌年には、アメリカのフェス「South by Southwest(SXSW)」に出演し、1stアルバム「PINK」をリリースした。

全米ツアーで8都市を巡る頃には、名だたるアーティストたちも彼女たちの音楽を絶賛していた。

今年いちの候補ですわコレは!ヤバいむっちゃ好きですわ。 https://t.co/JrIfL5YJYU

CHAIのライブ見てきた〜 むちゃくちゃかっこよかった センスがよすぎる!

社会というか、学校的な何かにコンプレックスに思わなくていいようなこともコンプレックスだと思わせられちゃう。みんな横並びで、ハミ出た個性を笑うような。CHAIはそういうところを撃ち抜く感じで、そのままでいいじゃん!って言ってくれてるような気がして、安心する。ワクワクもする。

2018年には海外レーベルとも契約を結び、秋にはSuperorganismのサポートアクトとして、イギリスとアイルランドを巡った。

今年の春には3度目のSXSW出演を果たし、2ndアルバム「PUNK」をリリースしている。

このアルバムタイトルは、海外の様々な音楽メディアが彼女たちを「ジャパニーズパンクバンド」と呼んだことがきっかけになっている。

音楽のジャンルとしての「パンク」ではない。誰かを縛る「かわいい」の概念に疑問を投げかけ、新たな価値観を提案するその姿勢が「パンク」と称されたのだ。

「音楽があってよかった」

「コンプレックスはアートなり」「NEOかわいい」。すべての人を肯定するCHAIのメッセージは強い。

だが、彼女たちを無敵にするのは、確かな技術とセンスに裏付けられた音楽だ。

「鬱陶しくない?言葉だけで押し付けられると。あなたはNEOかわいいんだよ!とかコンプレックスはアートだよ!って言われても。そういう風に聞こえさせないようにできるのが、音楽だから」(カナ)

「マイケル・ジャクソンの『HEAL THE WORLD』を聞くと、こんなに美しくて、こんなに響くものがあるのに、なんで悪いことができるんだろうって思う瞬間があって」

「本当に正直にそう思うから、音楽には言葉で伝えられないことも伝えられる。だから私たちには音楽があってよかったなって本当に思ってる」(マナ)

黒羽政士

4人の目標は、グラミー賞を受賞することだ。それはバンドを結成した頃からずっと言っている。

「私たちがトップに立つ、グラミーを取る。その証があることで、『かわいい』が変わる気がするから」(マナ)

「かわいい」が自由になる時代は、すぐそこまで来ている。


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《CHAI》

ミラクル双子のマナ・カナに、ユウキとユナのリズム隊で編成された4人組、ニュー・エキサイト・オンナバンド。2016年に初期の代表曲「ぎゃらんぶー」が、Spoitfy UKチャートTOP50にランクインし話題に。

2017年に初の全米ツアーを敢行し、日本テレビ系「バズリズム02」の「コレはバズるぞ2018」で1位にランクイン。同年10月に1stアルバム「PINK」、2019年2月に2ndアルバム「PUNK」をリリースした。6月には全国ツアー「CHAI JAPAN TOUR 2019『PINKなPUNKがプンプンプン トゥアー!』」を予定している。4人の年齢や本名は明らかにされていない。

Contact Saori Ibuki at saori.ibuki@buzzfeed.com.

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