この子が大きくなった時も、彼は「差別される側」なのだろうか。雨の渋谷を歩いた、それぞれの理由

    「Black Lives Matter」運動へ連帯を示すために、東京で開催されたマーチ。参加した5組に今、東京で声をあげる理由を聞きました。

    米ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさん(46)が、警察官に首を膝で押さえつけられ死亡した事件から約3週間。

    警察による残虐な行為に抗議し、「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」と訴える抗議活動は世界各地へ広がっている。

    日本でも東京・渋谷で6月14日、人種差別に抗議し、運動への連帯を示すマーチが開催された。なぜ今、東京で声をあげるのか。BuzzFeed Newsは5組の参加者にその思いを聞いた。

    事件が繰り返されるたびに

    米ミネアポリスで黒人男性が警察官に殺害された事件から約3週間。東京・渋谷で人種差別に抗議し、「#BlackLivesMatter」運動への連帯を示すマーチが開催されました。 小雨が降るなか集まった数千人もの人々。彼らはなぜ今声をあげるのか。参加者それぞれの思いを聞きました。#blmtokyomarch

    アフリカ系アメリカ人のナヨケンザ・ロビン・オリバーさん(33)は、日本で暮らして計10年になる。

    「海外で暮らしていると、アメリカで起きている警察の残虐行為に対して、何もできないような気持ちになる時があります。だから今日は自分にできることをやりつつ、運動をサポートしていければと思って参加しました」

    アメリカでは近年、黒人の市民が警察官によって殺害される事件が相次いで報じられている。

    2012年には、高校生だったトレイボン・マーティンさん(当時17)が警察官によって射殺された。2014年にはエリック・ガーナーさん(当時43)が逮捕時に、首を絞められ死亡した。

    事件が繰り返されるたびに、多くの人が「Enough Is Enough(もうたくさんだ)」と声をあげてきたが、また事件は起きてしまった。

    「悲しいのは、今回のジョージ・フロイドさんの事件も僕たち黒人にとっては、何も新しい出来事じゃないことです」

    「今僕が感じているのは、トレイボン・マーティンの事件の時に感じたのと、同じ感情。エリック・ガーナーが殺された時に感じたのと、同じ感情。ずっと落胆し続けているんです」

    一方で、今回の事件を機に世界各地へ広がった運動には、これまでとは違う希望を感じている。

    「今年はアメリカ大統領選挙があるのもあって、今度こそは警察の構造的改革につなげていくことができるのではと感じています。とは言っても、ここからが難しいので、声をあげ続けていかないといけないと思います」

    「同じ空気を吸って生きているのだから」

    カメルーン出身で都内の大学に通っているムブモド・ノォフス・ハンフリーさん(24)は「黒人が殺害される事件を止めて、あらゆる人種や肌の色、地域の人への差別をなくすために参加しました」と語る。

    ハンフリーさんにとって、今回の事件で死亡したジョージ・フロイドさんは「取るに足らない無名の人物」ではない。

    通行人が撮影し、のちにSNSで世界中に拡散された事件当時の動画の中で、同じ肌の色を持つ彼が「息ができない」と訴え、助けを乞う姿を見てから、いつもの自分ではいられなくなった。

    「人種差別に対する戦いは、もう何十年も続いています。僕は今年こそ、あらゆる人々が一緒になって、人種差別に終止符を打つ年にすべきだと思っています」

    マーチに参加したのは黒人だけではない。日本人や白人、アジア人などあらゆる人種・ルーツの人々が声をあげた。

    「今日のマーチに、黒人だけでなく様々な人種の人が参加したのがとても嬉しいです」とハンフリーさんは言う。

    「あらゆる人種の人々がこうした事件に疲弊していて、同じ人間なんだから、平等に扱われるべきだと感じているんだと思います。僕たちは皆、同じ空気を吸って生きているのだから」

    もしも、心の中では変化を求めつつも、声をあげられずにいる人がいたら、「勇気を持って一歩踏み出してみてほしい」と語る。

    「いま、勇気を出して自分の意志を示せば、必ず誰かがあなたを支えてくれます。そしてあなたの姿を見て、また誰かが声をあげることができるようになるはずです。だからこそ、いま一歩踏み出してみてほしいと思います」

    「日本人とは見てもらえない」

    ブラジル出身のドラァグクイーンのラビアナさん(27)は、幼い頃から20年以上、日本で暮らしている。

    今回の事件がメディアやインターネットで大きな注目を集める中、「日本には人種差別はない」という声を多く目にしてきた。ラビアナさんは、同意できない。

    「私自身、外国人として日本で過ごしてきて、差別されたことはたくさんあります。ずっと日本に住んでいるのに『国へ帰れ』と言われたり、どこへ行っても絶対に日本人としては見てもらえません」

    「Black Lives Matterはアメリカだけの問題ではないし、海外の問題だと言うこと自体がちょっと違うのかなって、すごく疑問に思いますね」

    今回のマーチにはボランティアスタッフとして参加し、翻訳業務などを手伝っている。

    「マーチを通じて、まずはこの問題のことを知ってもらい、自分にできることを探してみてほしいです。情報を調べるでも、本を読むでも、ドキュメンタリーを見るでも、寄付をするでも。一人ひとりにできることはいっぱいあるので」

    見えない差別を、見えるように

    大学生の藤澤日菜さん(21)は、東京で開催されるマーチに参加するかどうか親と話していた際に、口論になった。

    「ニュースで海外のデモに関する情報が流れていた時に、『新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、こんなに自宅待機を頑張っているのに、日本でもしマーチがあったら参加するの?』って言われて」

    「私は(人種差別は)おかしいと思ってるから、参加したいと伝えたんですが、親世代はこの問題を身近に捉えていないのかな?と疑問に思いました」

    自分が、東京で、マーチに参加すること。その経験を家族や友人に伝えること。それが少しずつ変化につながっていくのではないかと期待する。

    「日本の人種差別は、アメリカに比べたら見えづらく、みんな目をそらして、日本に差別はないと思っている人が多いように感じます。でもそれは絶対に違うから、今日私が参加することで見てきたことを伝えていきたいです」

    大学生の稲垣千尋さん(22)も、自分にできることはないかと考えた末に、マーチに参加することを選んだ。

    「日本ではなかなか見えない差別を、見えるものに変えていくことが、今日のデモの目的の一つだと思います」

    この子が大きくなった時

    マーチは代々木公園を出発し、渋谷・原宿エリアを約3kmほど行進した。ルート終盤では、すでにゴールした参加者たちが、歩き続けるほかの参加者にエールを送る場面もあった。

    歩道橋から身を乗り出して、マーチの掛け声に合わせて「Black Lives Matter」と声をかけていた4歳の男の子もその一人だ。

    彼の父親はアフリカ出身。日本出身の母親(40代)は「この子は半分ブラックなので。家族が当事者というのもあって、東京で何も起きないのはちょっと嫌だった。何かしらしたいなという気持ちでいました」と語る。

    父親は「危ないから」とマーチに参加することは反対だった。でも、遠巻きでもいいから連れていきたいと、買い物ついでに代々木公園に近い原宿駅までやってきた。

    「そしたら、駅でパパみたいな人がプラカードを持っているのを見ただけで、この子が『行きたい!』ってなっちゃって。疲れたらやめようねって言ってたんですけど、全ルート一緒に歩いてきました」

    この子が、将来大きくなったら。その時も、彼は「差別される側」なのだろうか。事件以降、男の子の母親は考えている。

    「日本では、外国で起きた出来事だと捉えている人が多い気がしますが、それは変わっていかないといけないなと思います」


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