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「妊娠や避妊を中学で教えないのはなぜ?」性教育の”遅れ”を指摘された文科省の回答は…。緊急避妊薬の薬局販売をめぐって議論

緊急避妊薬の薬局販売をめぐる議論で、繰り返し指摘されている「性教育の遅れ」。中学では、性行為や避妊などについて取り扱わないとする学習指導要領の「歯止め規定」について、文部科学省の担当者が改めて見解を示した。

望まない妊娠を防ぐ「緊急避妊薬(アフターピル)」の薬局販売をめぐり、パブリックコメントが1月31日まで募集されている。

アクセス改善を求める声が高まるなか、市販薬化する上での課題として、繰り返し指摘されているのが「性教育の遅れ」だ。

1月23日に衆議院議員会館で開催された院内勉強会では、この問題について、文部科学省の担当者が、国会議員らの質問に答える場面があったが、議論は平行線のままだ。

薬局販売の課題は「性教育の遅れ」?

緊急避妊薬は、妊娠の可能性がある行為から72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を避けることができる薬。

WHOの必須医薬品に指定されており、世界約90カ国では処方箋なしで、薬局で購入することができる。

一方、日本では医師の処方箋が必要で、価格も海外より高価。そのため、薬を必要としている人がアクセスしづらい現状を改善する一つの方法として、薬局販売をするべきか否かの議論が行われている。

厚労省の検討会ではこれまで、市販薬化の懸念点として、悪用や濫用の危険性、薬剤師の資質、性暴力被害への対応など、様々な課題が挙げられてきた。

その中でも特に、市販薬化を進めている諸外国と日本が異なる点として、繰り返し指摘されてきたのが「性教育の遅れ」だ。

中学では「妊娠の経過は取り扱わない」

まず、日本の性教育が、国際的な基準から大きく遅れを取っていることは事実だ。

ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5〜8歳で妊娠は卵子と精子の結合などから始まること、9〜12歳で妊娠の兆候や検査方法、コンドームの正しい使い方、12〜15歳でその他の避妊方法や緊急避妊薬などについて、教えることが求められている。

一方、日本では学習指導要領のいわゆる「歯止め規定」によって、中学校では性行為や避妊などの「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とされている。

この規定は、刑法において性行為に同意できるとされる年齢が「13歳」に定められていることからも、問題があると指摘されている。

歯止め規定「撤廃は考えていない」

検討会でも、日本は欧米と比べて性教育そのものが遅れていることから、「緊急避妊薬では完全に妊娠を阻止できないことなど、薬を使う人自身の理解が不十分」「対等でない男女の関係が生じやすいことは日本の特殊事情ではないか」などの意見が出された。

性教育と市販薬化は両輪で進めていくべきという意見もあった一方、中には「歯止め規定」の削除が、市販薬化の「一つの条件」だとする主張もあった。

「歯止め規定」をめぐっては国会でも取り沙汰されており、永岡桂子文科相が昨年10月、「撤廃することは考えていない」と答弁

これに対して、「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の共同代表も務める、NPO法人ピルコン代表の染矢明日香さんが撤廃などを求めて運動を始め、4万3千筆以上の署名を文科省に提出した。

「性教育の遅れ」文科省の受け止めは

1月23日の院内勉強会でも、染矢さんが文科省の担当者に対して「検討会では度々、性教育が不十分という指摘が出ているが、文科省としてはどのように受け止め、今後充実させていくのか」と質問。

さらに「歯止め規定」を見直す見通しはあるのかと、質問を重ねた。

文科省は「不十分ではないかというご指摘は、受け止めさせていただきます」と述べた上で、「学校や教員によって授業の仕方や内容が異なり、そういったところで差が出ているのかもしれない」と回答。

歯止め規定については「生徒間で発達の段階の差が大きいことや、性に関する価値観が多様であることから、まず学校全体で共通理解を図ったり、保護者の理解を得ることに配慮するとともに、集団で一律に指導する内容と、個別に指導する内容を区別することとしています」と述べた。

その上で、具体的な性行為や避妊方法については、全員に教えるべき内容ではなく、「個々の児童生徒の状況に応じて、個別指導をしっかり充実させることが重要だと考えている」との見解を示した。

「ツケを若い人に回すことはあってはならない」

さらに、勉強会に出席した自民党の宮路拓馬・衆院議員からは、日本産婦人科医会などから性教育の充実を求める声が上がっている点について、しっかりコミュニケーションは取れているのかといった質問があった。

この点については、「コミュニケーションはとっているものの、価値観や考え方の違いで、ご納得いただけていないのかなと思います」と回答した。

また、関係団体によるリレートークでは、公益財団法人「ジョイセフ」の勝部まゆみ事務局長が登壇。

2017年に緊急避妊薬の薬局販売が検討された際にも、「性教育の遅れ」が懸念事項に挙げられていたことを指摘し、性教育の充実は必要であるものの、市販薬化は喫緊の課題であると訴えた。

「当然、包括的性教育は必要です。ですが、若い世代から知識や情報を得る機会を奪っていた責任は、誰が取るのでしょうか?」

「そのツケを若い人たちに回す、緊急避妊薬を必要としている人たちに、その責任を負わせるなどということはあってはなりません」


緊急避妊薬の市販薬化をめぐるパブリックコメントは、1月31日が締め切り。「e-gov」のページで資料の閲覧や意見の提出ができる。