トランプとは何者か? アメリカ人記者が見た孤独とコンプレックス

    「俺の心の奥底に何があるかなんて、誰がわかるんだい? 」

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    メキシコ人をレイプ常習犯だと言い放ち、国境に壁をつくると豪語する。スターならなんでもできる、女性の性器もつかめると自慢する。いったいこの男は何者なのか。ドナルド・トランプへの長年の取材から、その内面を切り取った。

    「自らをショーの前座のように扱う政治エスタブリッシュメントから、ひとかけらでもいい、尊敬の念を勝ち取りたいという、それは悲しい奮闘だった」

    BuzzFeedでアメリカ政治を担当するマッケイ・コピンズ記者。トランプを突き動かす動機をこう描く。

    強烈な承認欲求。待てどもこない招待状を夢見る子どもが、やがて怒りを覚えるように、それは復讐と紙一重だ。

    どういうことか?

    New York Daily News Archive / Getty Images

    ニューヨーク市役所で建設プロジェクトを公表するトランプ=1977年5月

    2015年6月16日、大統領選の共和党候補を決める予備選出馬を正式表明した会見で、トランプはニューヨークで過ごした幼少期をこう振り返っている。

    「ブルックリンとクイーンズの父の小さなオフィスから始まりました」

    「父はこう言ったものです。『ドナルド、マンハッタンには行くな。あそこは一流だ。俺たちはあそこについて何も知らない。行くな』」

    「わたしは言いました。『マンハッタンに行かなきゃならない。でかいビルを建てなきゃならない。やらなきゃならないんだ。オヤジ。やらなきゃならないんだ』」

    憧憬と憎悪

    トランプはニューヨーク・クイーンズの家で育った。父親のオフィスはブルックリンにあった。マンハッタンは、対岸で、光り輝いていた。

    「俺はイーストリバーの反対側に立って、マンハッタンを見ていたものさ」。トランプは2004年、プレイボーイ誌にこう語っている。「オヤジは決して、ブルックリンやクイーンズから出ようとはしなかったんだ」

    この心象風景がトランプのエスタブリッシュメントへの反発の原点だった、とコピンズ記者はみる。

    憧憬と憎悪がないまぜになった気持ちを抱く青年トランプ。名門ペンシルベニア大学のウォートン校で学位を修め、ニューヨークの郊外にある父親の事務所で働きながら、悶々としていた。

    アパート一軒一軒を回って、家賃を集めるようなこともあった。用心に、巨漢の男を連れて歩くような仕事だった。

    New York Daily News Archive / Getty Images

    トランプと父フレッド=1987年

    祖父のフリードリヒはドイツからの移民だった。ゴールドラッシュにわくアメリカで、坑夫たちに酒や馬肉や売春婦を売り歩いた。父フレッドはニューヨークの労働階級が住む郊外で、住宅開発を手がけ、富を築いた。

    「(トランプが)本当に欲していたエスタブリッシュメントの恩恵に浴せる唯一の場所。マンハッタンをそう見ていたに違いない。それは彼にとって、決して埋めることのできないような穴さ」

    ティモシー・オブライエンはBuzzFeed Newsに語る。2005年にトランプのビジネスの裏側を暴いた伝記「トランプ・ネーション」を出版した著者だ。トランプから名誉棄損で訴えられたが、却下された。

    オブライエンはトランプの内面をこうも指摘する。

    「この世界で自分の居場所に対して、非常に大きな不安感を持っている」

    2016年6月、トランプの著書「トランプ自伝ー不動産王にビジネスを学ぶ」のゴーストライターだという男性が名乗り出た。ニール・シュウォルツがニューヨーカー誌のインタビューに応じたのだ。

    今ならどんなタイトルの本にしていたか? そんな問いにシュウォルツが出した答えはこうだった。「ソシオパス」。社会病質者という意味だ。

    「トランプの嘘は口から出まかせではなく計算づく。人をだますことに何の良心の呵責も感じていないのです」

    不動産王のペルソナ

    トランプは25歳でクイーンズを出て、マンハッタンにマンションを借りた。この地で、大金を回して巧みに取引を成功させる不動産王「ドナルド・トランプ」のペルソナを作りあげる。

    例えば、こんなことをしている。フォーブスがアメリカの富豪400人のリストを毎年発表すると公表すると、自分を間違いなくリストに入れるようにご機嫌伺いをした。

    1999年、フォーブスの編集者はこう書いた。

    「われわれはトランプが大好きだ。コールバックしてくれるし、たいてい昼食をおごってくれる。自らの資産を見積もってくれさえする」

    トランプはニュース中毒者というわけではないが、ひいきする記者を囲う。記者を手なずけ、ほめそやし、操り、脅す。ときには1回のインタビューでこの全てをやる。

    好みの記者は誰かと聞かれたトランプは即座に18人の名前を挙げた。

    Joe Mcnally / Getty Images

    ヘリコプターからニューヨークを見下ろすトランプ=1987年

    果てない承認欲求

    風刺雑誌「スパイ」(現在は廃刊)の創刊編集長カート・アンダーセンが描くトランプ像はこうだ。

    トランプは、ニューヨークの支配階級に対して「珍妙にミックスされた、うぬぼれと嫉妬」を持つと話す。「マンハッタンのエスタブリッシュメントが拒絶するような、ブリッジ・アンド・トンネルの男さ」

    ブリッジ・アンド・トンネルとは、橋を渡りトンネルを通ってマンハッタンにやってくる人たちを指す。侮蔑を含んだ表現だ。

    「トランプはエスタブリッシュメントからこんな風に見られている。実力ではかなわない相手と張り合おうとしていて、粗野で愚かで、注目が欲しくて仕方がない。礼儀を知らない」

    初めて浮気を宣伝した人物

    もちろん、マンハッタンの上流階級がトランプより美徳があるとは言えない。ただ己の罪にはより慎ましくはある。

    例えば、プライベートジェット機。小さなイニシャルを書くのがせいぜいなのに対し、トランプは名前を全て大文字で胴体にでかでかと書いている。

    愛人の存在も普通は人目につかないようにしておくだろう。だがトランプは、タブロイド紙に赤裸々な浮気の詳細を自らリークしたと報道されている。

    「スパイ」の創刊編集長アンダーセンはBuzzFeed Newsにこう話す。

    「ヤツは最初の女たらしかって? 違うね。でも、それを宣伝した一番最初のヤツだよ」

    The cover and inside cover of Spy.

    政治活動

    支持政党を転々と変えてきたトランプ。不動産開発のために土地の用途変更が必要なら「民主党だろうが共和党だろうが、応援しなきゃならんもんは何でも応援する」と言い放ったこともある。

    2010年秋、トランプは勢力を拡大していたティーパーティー運動に加わろうとした。

    相談に乗ったのは、政治コンサル「ストラテジーグループ・フォー・メディア」。共和党エスタブリッシュメントから拒絶された右翼らを議員にすることを専門にしていた。

    当時社長を務めていたニック・エヴァーハートは、BuzzFeed Newsにこんな分析を示した。当時ティーパーティー集会に群れをなしていた人々を取り込むために、トランプに同社の助けはいらなかった、と。

    「(こうした人たちは)イデオロギーが保守なのではない。ただ単に怒り、自分が軽視されていると感じているだけなんだ」

    「こんな男を想像してほしい。小さな下請け会社を経営していて、大学を出ているか、そうじゃないかも。軍役に少し就いていたかもしれない。人生はだいぶ上手くやってきたけど、自分が尊敬されていると感じたことはない。だれも自分を勝ち組とは見てくれない」

    「こんな男をだしに、トランプは巨万の富を築いた。こんな男こそがトランプだ」

    Larry Marano / Getty Images

    ティーパーティーの集会で話すトランプ=2011年4月16日、フロリダ州

    2012年の大統領選挙の翌日、同様の言葉をトランプに近い人物も口にしている。

    「学がなく、手を動かすような仕事をしていりゃ、トランプを好きになるさ。こんな感じだよ。『ワオ、俺がリッチなら、こんな風に生きるね!』 女の子たち、車、高価なスーツ。トランプの派手さが彼らには魅力なのさ」

    オバマの出生

    2011年。トランプは翌年の大統領選への出馬をほのめかし続けた。リアリティー番組「セレブリティ・アプレンティス」の視聴率を上向かせるためだった。

    同時にオバマ大統領の出生地疑惑を追及し続けた。

    オバマ大統領はアメリカ生まれではなく、大統領に出馬できるように出生地をごまかした——。人種差別的色合いの濃い右翼的熱狂に、コンスピラシー・セオリーもかみ合って、運動は大きく盛り上がった。トランプは、オバマが生まれたハワイにまで調査団を派遣したとぶち上げた。

    2011年4月27日、オバマは出生証明書を公開するに至る。「トランプがいたから、そうしたんだ」。トランプは、鬼の首をとったかのように記者団の前で高らかに宣言した。

    「晒し(トローリング)」という言葉を知っているのだろうか。

    尋ねられたトランプはしばし考えた後、こう明かした。

    「他人を挑発するのは大好きだね。それは本当だ。競うのが大好きだし、競争はときに他人を挑発する。挑発することは厭わない。特にそれが正しい種類の人間を対象にしているときはね」

    ホワイトハウス記者夕食会

    オバマの出生地をめぐり、挑発を続けたトランプ。4月30日のホワイトハウス記者クラブ主催の夕食会で、今度は自分がジョークの的となった。

    大統領が際どいジョークで聴衆を笑わせるのが恒例の夕食会。当時、オバマのスピーチライターだったジョン・ファブローとジョン・ロヴェットは、数日前までどんな「トランプ・ジョーク」がいいかと頭をひねっていた。

    ロヴェットが映画監督ジャド・アパトーと電話で雑談をしていたときだった。いくつかジョーク案がわいてきた。2人のスピーチライターは原案を手に執務室に駆け込んだ。際どすぎるかもしれない——。だが、オバマは素晴らしい出来だと気に入った。

    夕食会の会場。「ドナルド・トランプは今夜ここにいます!」オバマが聴衆をけしかけると、笑い声と拍手が起きた。

    「ドナルドほど出生証明書がこんなに大きく取り上げられて嬉しい人はいないでしょう。彼もこれでやっと大事な問題に集中できるからです。われわれは月面着陸をでっちあげたでしょうか?」

    笑いが続く。

    「冗談はさておき、あきらかに、私たちは皆あなたの資格や経験の深さを知っています。例えば、いえ、真面目な話です、最近、『セレブリティ・アプレンティス』のエピソードはステーキ店でした」

    トランプが司会するリアリティー番組。見習いとして様々な職業に挑戦する参加者を一人ずつ脱落させる。トランプが「お前は解雇だ!」と告げるのがお決まりだ。

    「料理チームはうまくやらなかった。だれの責任なのかと議論があった。でも、ミスター・トランプ、あなたは本当の問題はリーダーシップにあると見抜きました。そこで(歌手の)リル・ジョンやミートローフではなく、(俳優の)ゲイリー・ビジーを解雇しました」

    「こんな判断をされては、わたしは寝ていられません。うまくやりましたね」

    料理チームを引っ張っていた俳優が解雇されたように、大統領として国を率いるオバマは自分も解雇される、というジョークを飛ばしたのだ。爆笑の渦の中、オバマは続けた。

    「彼は確実にホワイトハウスを変えるでしょう。では見てみるとしますか」

    スクリーンにはけばけばしい画像。「トランプ ホワイトハウスホテル カジノ ゴルフコース」と書かれていた。

    Manuel Balce Ceneta / AP

    2011年4月30日、ワシントンDC

    議員、映画スター、記者ら2500人に笑いものにされたトランプ。

    ホストの俳優セス・マイヤーズも冗談を重ねた。「彼の全人生は、モデル、黄金の葉、大理石の柱でできていますが、それでもまるで場外馬券売り場で知ったかぶりをする人間のようですね」

    マンハッタン出身ではないトランプが抱えてきた自分の居場所に対する不安感を意図的に煽るものだった。

    トランプの顔は固まっていた。ジョークに傷つく様子を決して見せない上流階級が見せるような笑顔を作る余裕もなかった。

    夕食会が終わるやいなや、トランプと妻メラニアはそそくさと出口へ向かった。ある記者がそんな夫妻を捕まえた。「ジョークを気に入りましたか?」

    トランプは、いつになく言葉につまり、静かにこう告げた。

    「いいや。あまり」

    Jahi Chikwendiu / The Washington Post

    妻メラニアとホワイトハウス記者クラブ主催の夕食会に現れたトランプ=2011年、4月

    満足感

    2012年の大統領選で出馬を模索していたトランプ。ようやく2012年2月、自らのラスベガスのホテルで、ミット・ロムニーを推すと発表した。「国中の世論調査」でリードしているが、「民間を去る準備」はできていない、という理由をつけた。

    Ethan Miller / Getty Images

    ロムニーを推すと発表し、握手するトランプ=2012年2月2日、ラスベガスのトランプ・インターナショナル・ホテル&タワー

    だが、トランプはこのとき初めて、これまで手に入れることのなかった満足感に浸った。

    政治のAリスト入りを果たし、共和党から出馬を探る候補たちが、トランプ詣でを始めたのだ。

    それはエスタブリッシュメントの象徴ミット・ロムニーがトランプ・タワーを訪れ、最高潮を迎える。CNNに「われわれは非常に馬が合ったよ。期待以上にね」と話した。

    だが、トランプは知らなかった。ロムニーが記者団を避けて、裏口から出ようとしていたことを。ロムニーの側近たちがタワーの装飾や水増しした財産を笑い飛ばしたことを。

    その後、待てど暮らせどトランプの元に応援演説の依頼は来ない。フロリダ州での応援演説を申し出たが、ロムニー陣営は断った。やがてトランプも自分のポジションを理解し始める。

    最大の侮辱はフロリダ州であった共和党全国大会だった。トランプはBuzzFeed Newsに「みんなは俺の基調演説を期待していたんだ。何千通もの手紙や電子メールがきた」と話すものの、ロムニー陣営はトランプを選ばなかった。

    「なんだ、俺が正しいことを言えないと?」。トランプは憤っていた。「おい、俺はウォートン校へ行ったんだ。成績もよかったんだ」

    ロムニー陣営は、短い動画だったら大会で流してもいいとトランプ側に伝えた。だが結局、それさえもカットされた。

    糞扱い

    トランプの表向きの言い分はこうだ。ロムニーも側近も「俺を怖がっていたんだ」。

    だが、トランプをよく知る人物たちは、陣営からの冷遇にトランプは煮えくり返っていたと話す。

    ある人物は言い切った。「彼らはトランプを糞扱いしたんだ」

    選挙の投開票日。トランプは、ロムニーの敗戦が濃くなると、そうそうにパーティー会場を後にした。そして、ヘリコプターで空中から連続ツイートした。

    「この選挙は完全なるインチキで茶番だ。民主主義じゃない!」

    「革命を!」

    古臭いホテル

    2014年初め。トランプの挙動が再び新聞を賑わせていた。その年のニューヨーク州知事選に出るのか、2016年の大統領選を待つのか。

    これはトランプが四半世紀前から続けるメディア戦略だ。1980年代には、本「トランプ自伝ー不動産王にビジネスを学ぶ」を宣伝するため、大統領選出馬を匂わせた。

    2014年、BuzzFeedのコピンズ記者はトランプの密着取材を許されている。当初、ニュージャージー州からニューヨーク市へ戻るプライベートジェット機に同乗するはずだったが、雪のため、急遽フロリダの別荘「マール・ア・ラーゴ」へ同行し、現地に1泊することになった。

    Evan Agostini / Getty Images

    別荘「マール・ア・ラーゴ」=2005年11月、フロリダ州パームビーチ

    取材は記事「ドナルド・トランプと過ごした36時間のフェイク選挙戦」としてまとめた。

    トランプの政治活動の右腕サム・ナーンバーグによると、別の側近コーレー・ルワンドースキーがトランプに告げた。「この記事はあなたそのものです」

    だが、この記事はトランプの逆鱗に触れる。「信用できない薄汚い記者め。俺の皮肉も理解しない。愚かで退屈なトランプ『ヒット作』を書いた」とツイート。そして、ナンバーグを解雇した。

    何が原因だったのか?

    NewsmaxTV / Via youtube.com

    サム・ナンバーグ

    ナンバーグが指摘したのは、別荘「マール・ア・ラーゴ」の描写だった。

    「部屋は、すこし古臭いかもしれないが、素敵なホテルのような感じがする」

    装飾の趣味を指摘するのは、トランプの最も痛いところだった。

    アウトサイダー

    トランプがパームビーチの物件を最初に購入したのは1985年だった。上流階級のひとりとして乗り込んだつもりだったが、地元のワスプ色の強いエリート層は受け入れなかった。

    「パームビーチでは、インナーとアウトサイダーがいるんです。いかに彼がお金をもっていようと、彼がパームビーチのインナーサークルの一員になることはありませんよ」。資産家のマーリーン・ラスゲブが1986年、地元紙マイアミ・ヘラルドに話している。

    「成金だから、多くの人は嫌がるんですよ」

    高級クラブ「バス・アンド・テニスクラブ」の会員となるのを断られたという噂が出回ると、トランプは猛然とこれを否定した。数十年たった後にもこう主張している。「望むなら、入れたさ。望むなら、何だって手に入る。俺はパームビーチの王だ」

    John Moore / Getty Images

    2016大統領選

    2015年初め、トランプは側近に大統領選に備えるよう指示を飛ばした。同年6月、予備選への出馬を公式表明する。成り行き次第では退いて、秋からのリアリティー番組への復帰も可能なタイミングだった。

    「われわれは勝つだなんて思わなかった」。ナンバーグはBuzzFeed Newsに明かす。「当てずっぽうもいいところさ。誰か想像できたか?」

    初期の最優先事項はスペンサー・ズウィックという男を陣営に引き込むことだった。2012年のミット・ロムニー陣営で鮮やかな手腕を見せた資金集めのプロだ。

    だが、ズウィックは、立候補を模索するあらゆる人物から申し出を受けつつも、断っていた。

    アドリブ

    トランプは、このズウィックをトランプ・タワーの26階にあるオフィスに招待し続けた。「俺たちのために、資金集めをしてくれないか」

    7億ドルの投資会社を共同創設したズウィックにとって、トランプは取るに足らない存在だった。テレビタレントに過ぎなかった。

    ズウィックはその場を取り繕おうと、こんなアドリブを思いつく。

    「なんであなたが資金集めをしているのか理解できません」。大金持ちの資金提供者におべっかを使うのにどれだけの時間を費やさなければならなかったか、ロムニー陣営での悔しい思いがよぎった。

    トランプに対し、しばらく資金集めのことを忘れて、資金提供者にごまをすらないという誓いとともに「強気に出てはどうか」と提案した。

    「それは素晴らしいアイデアだ!」 トランプは狂喜した。

    買収されることはないブルーカラーの億万長者としてのトランプ——。「資金提供者の操り人形たち」を攻撃することで、予備選で絶大な支持を集めた。

    ナンバーグは後にBuzzFeed Newsに打ち明けている。腐敗した資金提供者には屈しないというトランプの方針は、幸運の賜物に過ぎなかったと。

    「ほんとうは、できることなら資金集めをしていたさ...トランプは自己資金で戦う意図なんてこれっぽっちも持っていなかった」

    出馬表明へ

    2015年6月上旬。ニューヨークポスト紙に、保守系ライターのジョナ・ゴールドバーグがトランプの大統領選出馬をからかうコラムを載せた。「ハニーブーブーよりは、もっともらしい候補だ。でもただそれは憲法で年齢制限があるからだ」

    ハニーブーブーは、大家族ものリアリティー番組で人気を博した少女のあだ名だ。子どもは選挙に出られない。

    ナンバーグによると、コラムを読んだトランプは、こんな感想を漏らしたという。「どうして俺を尊敬しないんだろう。サムよ?」

    出馬に踏みきらせたもの

    数日後、トランプは、ゴルフ場のクラブハウスの改装式典のため、スコットランドにいた。そこから、ニューヨークの側近ルワンドースキーに電話をかけた。数日後に迫っていた大統領選の出馬会見を延期したい、と。

    準備を進めてきた側近たちはパニックに陥った。なんとかトランプに予定通りに出馬を表明してもらおうと、気を引く言葉をかけ続けた。

    ナンバーグによると、トランプの心をつかんだのはこのセリフだった。「選挙で何が起こるかわかりません。ただ、どうであれ、100年後にも書かれるんです。あなたが出馬しなかったとは決して言えなくなるでしょう」

    「俺が出馬しなかったとヤツらは言えなくなる」。このセリフをトランプは側近につぶやき続けた。「俺が出馬しなかったとヤツらは言えなくなる」

    Christopher Gregory / Getty Images

    出馬を表明する記者会見に現れたトランプ=2015年6月16日、ニューヨーク

    ムッソリーニ

    トランプの側近だったサム・ナンバーグは選挙戦に突入した直後、再び解雇された。Facebookに投稿した過去の人種差別発言が報じられたのだ。

    ナンバーグは解雇の腹いせにトランプの競争相手テッド・クルーズを推し、元上司を「政治思想が一貫」しないと批判した。

    だが、トランプを相変わらず信奉しているようだった。話をしていても「ミスター・トランプと二度と呼ぶものか。ドナルドだ」と自らに繰り返し言い聞かせる。戦いを好みスターに夢中となる聴衆にナンバーグの姿は重なる。

    ただ、このナンバーグも、こう嘆く。「最初は、共和党のオバマだったんだ。それがどうしてか、ムッソリーニになってしまった」


    この記事は、トランプのある一面を切り取ったに過ぎないかもしれない。トランプを政治に駆り立てる真の動機はなにか。

    「この国を再び、強く豊かにしたいんだ」

    BuzzFeed Newsが2年前に尋ねたときには、お決まりの文句が返ってきた。でも、不動産事業にもリアリティー番組にも飽きて、刺激が欲しいだけではないか。

    トランプは肩をすくめた。

    「俺の心の一番奥に何があるかなんて、誰がわかるんだい? そうかもね」


    バズフィード・ジャパン アダプテーション・リポーター

    Contact Saki Mizoroki at saki.mizoroki@buzzfeed.com.

    McKay Coppins is a senior writer for the BuzzFeed News politics team, and the author of <a href="http://amzn.to/1l2ObHY" target="_blank">The Wilderness</a>, about the battle over the future of the Republican Party.

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