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トランプ氏発言で物議 愛する子を戦いで失った夫妻を非難し、全米が揺れる

戦地へ向かう息子に母は訴えた。「英雄になんかならないで。無事に帰国して」

ヒラリー・クリントン氏が民主党大統領候補に決まった米民主党大会。7月28日に壇上に立った、ある夫妻の姿がアメリカ国民の心を揺さぶった。米陸軍の息子をイラクで亡くした親だ。2人の演説がいま、全米をゆるがしている。

この夫妻はパキスタンからの移民でイスラム教徒。息子フマユン・カーン大尉は2004年、イラクで仲間の米兵を自爆する車両から守り、27歳の若さで帰らぬ人となった。移民であり、命を米国に捧げた子の親であるという背景が、移民の国アメリカを体現している。

「国を愛するアメリカ人のイスラム教徒として、ここに立つことを誇りに思います」。夫キズルさんが切り出すと、会場は歓声でわき「USA」の連呼であふれた。ヒジャブをかぶった妻ガザラさんは一言も発せず、キズルさんをじっと見つめる。(演説の様子はこちら

この国に来たとき、手には何もありませんでした。アメリカの民主主義を信じました。

この国で3人の息子を育てる幸福に恵まれました。自由で、それぞれの夢を追える国です。息子フマユンも夢を持っていました。軍の弁護士になることです。ですが、その夢を脇へ置いたその日、仲間の兵士を救って犠牲となりました。

ヒラリー・クリントンは真っ当にも、息子を「アメリカの最良の存在」と呼んでくれました。ドナルド・トランプだったら、息子はアメリカにいることすらできなかったでしょう。

これはトランプ氏が「イスラム教徒のアメリカ入国を禁止する」と宣言したことを指している。そして、会場が割れんばかりの歓声に揺れたのは、トランプ氏にこう問いかけたときだった。

アメリカ憲法を読んだことはありますか。喜んでわたしのを貸しますよ。この文書から「自由」と「法の平等な保護」という言葉を探してください。

胸元から取り出したのは、憲法を記した小冊子。常に持ち歩いて、しわだらけになっていた。人種や性別で差別発言を繰り返すトランプ氏への痛烈な批判だった。

(戦没者らが埋葬されている)アーリントン墓地に行ったことがありますか。アメリカ合衆国を守って亡くなった勇敢な愛国者たちの墓を見なさい。あらゆる信条、性別、民族の人たちがいるとわかるでしょう。

あなたは何の犠牲も払っていない。壁を築き、分断をはびこらせることで問題は解決されない。団結して強くなるのです。

あふれるTwitter投稿

演説は大きな注目を浴びた。直後に「投票登録」とググる人が急増。

As soon as Khizr Khan finished his speech, "register to vote" spiked as a Google search.

Twitterには、心を動かされたという投稿が相次いだ。

本物のアメリカの英雄の父、キズル・カーン。涙ぐみます。なんと素晴らしい愛の精神と包み込む価値観なんでしょう

カーンさんの話に、泣かないようにするので精一杯です。神よ、彼とその家族を愛したまえ。なんてパワフルな演説なんでしょう

トランプは反撃

名指しで批判されたトランプ氏。もちろん黙ってはいなかった。30日、カーンさんが「数百万の人の前に立って、わたしが憲法を読んだことがない(それは嘘だが)などと主張する権利はない」という声明を出した。

ABCの番組にも登場した。

Donald Trump to Army Gold Star father Khizr Khan: “I've made a lot of sacrifices" https://t.co/ZOHLGCaOyC https://t.co/Myp4oyHyX4

まず、妻ガザラさんが何も話さなかったことを指摘した。

彼女は何も話さなかった。発言させてもらえなかったんじゃないか

イスラム教徒の女性だから発言を禁じられたのだろうと揶揄したのだ。

自分が何の犠牲も払っていないという批判には、こう切り返した。

私も多くの犠牲を払ってきたと思いますよ。一生懸命働いてきました。何万人もの雇用を生み出したし、素晴らしい建築物をつくった。とてつもない成功を収めてきた

当然、司会者は「それは犠牲ですか?」と突っ込む。

ええ、もちろん犠牲です。数千人を雇用し、教育などの面倒も見た

妻が発言しなかった本当のワケ

実は、妻ガザラさんは29日にNBCのインタビューで、12年経ったいまも息子の写真を見ると涙をこらえられないので、党大会では発言しなかったと説明していた。演壇の背景には息子の写真が大写しにされていた。

Here's the real reason mom of fallen U.S. war hero didn't speak at the DNC. More: https://t.co/dfzdohR9y0 https://t.co/0k898sgVve

イラクに赴く息子には、こう話したと振り返った。

無事でいて。わたしのために英雄になんかならないで。ただ、わたしの息子でいて。息子として、帰って来て。

そして涙を流して、続けた。

息子は英雄として帰ってきました。

メディアで発言する夫妻

トランプ氏の反論に、一般市民の夫妻はおじけることはなかった。逆にふたりは、ますます力強く、寛容や思いやりの心を持つようメディアで訴え続けた。

妻ガザラさんは31日、ワシントンポストに寄稿。トランプ氏へ反論し、党大会で発言しなかった理由をこう記した。

一言も発せずとも、世界中が、アメリカ中が、わたしの痛みを感じてくれるからです。わたしは(息子を戦地で亡くした)金星章の母です。わたしの姿を見れば、誰もがその心でわたしの思いを感じてくださるでしょう。

最後に息子と話したのは2004年の母の日でした。いつでも電話をしてといいました。どうか無事でいてと頼みました。前面に出ないで、英雄になろうと働き回らないでと頼みました。彼ならそうするとわかっていたからです。

息子は言いました。「お母さん、僕の兵隊たちがいるんだ。仲間なんだ。面倒をみなきゃならないんだよ」。息子は基地の門の外で、自爆する車両に殺されました。仲間の兵士たちと無実の市民たちを守ろうと亡くなったのです。

これがわたしの息子なんです。フマユンはいつも頼りになりました。家を掃除していると、家にいれば掃除機をわたしの手から取って、掃除をしてくれました。病院の障害のある子どもたちに水泳を教えるボランティアをしていました。息子は言いました。「ちょっと上手くなって、子どもたちの顔が輝くとき、とってもうれしいんだ。子どもたちはとっても幸せそうんだよ」。人々を助けるために父親のような弁護士を目指していました。

12年がたちますが、生きている限り、心の痛みはいえることがありません。

フマユンの写真がある部屋に、足を踏み入れることができないのです。これまで、息子の遺品があるクローゼットを片付けられませんでした。義娘に頼まなければならなかったんです。息子の大きな写真が後ろにある党大会のステージに上がるとき、自分自身を抑えるので精一杯でした。

ドナルド・トランプはわたしが発言を許されていなかったのではないかと言いました。真実ではありません。夫から話したいかと尋ねられましたが、できないと言ったんです。わたしの宗教は神の目の前ですべての人間が平等であると教えます。

ドナルド・トランプは多くの犠牲を払ったといいました。犠牲という言葉がなにを意味するのか、知らないのでしょう。

夫キズルさんは30日、首都ワシントンDCへ赴いた。翌日、NBCなどのテレビ番組に相次いで出演するためだ。

CNNの番組ではこう話した。

(トランプ氏の)政策や活動からは、この国の基本的で根源的な憲法の原理を理解しているとは見えません。この原理によって、人類の歴史でこの国は格別の存在になっているのです。平等な尊厳と自由の原理です。

彼は人々を排除し、判事、司法制度全体、移民、イスラム教の移民をバカにします。分断のレトリックはまったく基本的な憲法の原理に反するものです。憲法を読んだことがあるなら、故意にこうした原理を侵しているか、それとも読んだことがないのでしょう。

リーダーとリーダーを目指す人に絶対に必要なことが二つあります。道徳的指針と共感能力です。この候補は両方の特性を欠いています。

まったく共感能力を持っていません。彼の家族には、彼に少しの共感能力でも助言し、教えてほしい。

なぜ憲法の冊子を持ち歩いているのか聞かれ、こう答えた。

この国の存在を、具現化し、正式に記しているからです。

最後に、共和党のポール・ライアン下院議長と共和党上院トップのミッチ・マコネル院内総務に、トランプ氏への支持を撤回するように呼びかけ、そうしなければ「わたしは話し続ける」と宣言した。

彼らの道義的責任です。歴史は彼らを許さないでしょう。選挙は終わるでしょうが、歴史は記されるのです。道義的勇気を持ち合わせないことの責任が問われるでしょう。その魂とリーダーシップに重荷となって残るでしょう。

共和党の反応は

名指しされたライアン氏は、カーン夫妻らを讃えるツイートをした。

アメリカの偉大さは、自由の原理によって立つ。それを守るために軍服を着た人々によって、存続してきた。(中略)多くのイスラム教徒のアメリカ人たちが我が国の軍で勇敢に戦い、究極の犠牲を払った。カーン大尉はその勇敢な例だ。彼の犠牲とカーン夫妻の犠牲は常に讃えられるべきだ。

ただ、トランプ氏の名前には触れなかった。マコネル氏もABCに同様の声明を寄せたが、やはりトランプ氏には触れなかった。

共和党の重鎮たちからは相次いでトランプ氏の発言を非難する声があがっている。戦没者遺族からも批判が続いている

トランプは再反論も

黙っているトランプ氏ではない。Twitterでカーン氏に反撃し続けた。

民主党大会で、カーン氏から意地悪く攻撃されたんだ。反応しちゃいけないのかい?ヒラリーがイラク戦争に賛成したんだ、わたしじゃない!

I was viciously attacked by Mr. Khan at the Democratic Convention. Am I not allowed to respond? Hillary voted for the Iraq war, not me!

カーン氏はわたしのことを知らないのに、民主党全国大会の壇上から意地悪くわたしを攻撃し、今度はテレビに出まくって同じことをやっている──大したものだ!

Mr. Khan, who does not know me, viciously attacked me from the stage of the DNC and is now all over T.V. doing the same - Nice!

だが、逆ギレのツイートでは非難の嵐はおさまらない。

これまでトランプ氏はどんな暴言を吐こうとも高い支持率を誇ってきた。だが、軍人や退役軍人、戦没者の家族らを敵に回し、自由と平等というアメリカの根源的な価値を踏みにじる今回のトランプ氏の行動は、11月の大統領選挙に影を落とすかもしれない

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