ゴミ箱に飛び込んで、捨てられた野菜や果物を取り出す。街路樹から実を摘み、虫や雑魚を集める。映画「0円キッチン」は、こんな"ゼロ円食材"を料理し、ヨーロッパを巡る。なぜこんな旅を映画に? 監督に聞いた。
映画の主人公で、監督を務めたのはオーストリア人のダーヴィド・グロスさん。1978年、ザルツブルグ生まれのジャーナリストだ。
食料の3分の1が捨てられている世界に疑問を持ち、まだ食べられる食材を"救出"する旅に出た。
相棒は、調理で出る廃油で走れるように改造した車と、それが引っ張る調理台。ゴミ箱から作製した。
旅はオーストリアから始まる。スーパーのゴミ箱に"ダイブ"して、野菜や果物を回収する。
スーパーから集めたリンゴでコンポートをつくった。
ザルツブルグのマンションも捜索。住人の冷蔵庫などに眠る賞味期限切れの食材などを集めた。
こんなにドッサリ
"0円食材"から、コース料理のできあがり。
ベルリンでは、街路樹の実や野草などの場所を教えてくれる地図アプリと出会う。登録ユーザーは約1万7千人。1万カ所以上が登録され、ユーザーによって1日約20件の新情報がアップされる。
プラムを摘む監督ら。街の果物を腐らせるのは、"食料"の無駄というわけだ。
ベルリン郊外の有機農家からは"規格外"でお金にならない野菜を調達。ニンジン、ズッキーニ、ジャガイモなどをもらい受けた。
"規格外"野菜を調理するイベント「チョッピング・パーティー」に参加。オランダ料理「ヒュッツポット」の出来上がり。
インパクトがあるのがオランダの昆虫食。高タンパク源として肉の代わりになると紹介される。人間が食べない割れたニンジンや小麦の殻を餌に、虫は成長する。
ナッツ風味の虫は、クッキー生地にいれて。オランダの定番・肉団子は3割ほどを虫に替えて料理した。
子どもたちの反応。「虫入りの方がおいしい」「サクサクしてる」「歯ごたえもいい」
昆虫食を推進する女性が語る。「特に途上国で有効。食べ物が少ない地域に、昆虫飼育を教える。そうすれば年間を通して食料を得られるようになる。世界規模の大変革です」
最後は、仏ブルターニュのギルヴィネック港を訪れ、地元漁師のエビ漁に同行した。特製キッチンも船に乗せた。
国連食糧農業機関(FAO)によると、欧州で獲れる魚の半分は捨てられているという。船では、いつもは捨てられる小さなエビや一緒に獲れる魚をさばいてスープに。雑魚ブイヤベースができあがった。
漁師らは「なかなかだ」「伝統的なスープよりうまいよ」と反応。だが、こうも話した。「スープじゃお腹は膨れないし、世界中の海で膨大な量が廃棄されている。きっと改善策はあるがブルトン地域の貧しい漁師には何もできない」
5週間欧州を巡って、監督はこう締めくくる。「優れた試みをたくさん目にしました。どの国でも着実に状況が改善していますが、同時にまだまだやるべきことがあります。僕の旅はこれからも続きます」
なぜ監督はこんな旅に出たのだろう?BuzzFeed Newsはメールでインタビューした。主なやりとりは以下の通り。
ーー映画「0円キッチン」のアイデアはどこから?
始まりは単純でした。皆さんが「ゴミ」と呼ぶ食べ物で料理番組をつくろうと。食品ロスの問題に光をあてるためです。
「ゴミ箱飛び込み運動」に参加し、たくさんの新鮮な食べ物を「救出」しました。0円キッチンのイベントを催しました。
「飛び込み」と料理を撮影し、低予算でウェブ・シリーズを作ったところ、人気が出て、テレビ局が予算を出してくれることになったんです。それがこの映画です。
ーー旅で最も印象的だったことは?
ベルリンの「チョッピング・パーティー」です。若者たちが「規格外」の野菜や果物を集め、集まって、音楽が流れる中、調理して、食べ物を救って、パーティーするんです!
世界中で人気があります。より持続可能な経済のために努力することは、とっても楽しいんですよ。
ーー旅を通じて、新たな発見や監督自身の考えが変わるようなことは?
0円キッチンは私の人生を変えました。私だけじゃありません。映画クルーも0円レシピをシェアしてくれるんです。映画を見た人も私にメッセしてくれます。食べ物を捨てる前に、考えるようになったと。
ガールフレンドも見つけちゃいました。出会いは、ウィーンでゴミ箱に飛び込んだときです。スーパーのゴミ箱から始まるラブストーリー。真の反資本主義ロマンスでしょ?
ーー旅は終わりました。いま、どんな取り組みをしていますか?目標は?
世界中で映画のプロモーションをしています。テレビシリーズも第2シーズンを終えたばかりです。学校で講演したり、イベントを開いたりもしています。
欧州議会で0円キッチンのイベントを開いたんですよ。政治家たちの残飯から作った料理を彼らに食べてもらいました。この経験が、政策決定に影響を与えることを願っています。
0円料理を一度食べれば、考え方が変わりますよ!
ーー日本には「もったいない」文化があります。それでも、食べられるのに捨てている食べ物は年約632万トンもあります。
「もったいない」精神は0円キッチンの心に通じるものがあります。「物には魂が宿る」という神道の考え方が、0円キッチン運動に強く影響を与えているとさえ言えます。
「これはゴミじゃない」は私の哲学となりました。道元という禅僧から影響を受けています。その書「典座教訓(てんぞきょうくん)」から、どうやって食べ物を無駄にせず、粗末に扱わないようにするかを学びました。
消費主義が広がりますが、日本社会にこの考え方がまだ大きな価値を持っていることを望みます。「もったいない」のルーツを再発見し、廃棄ではなく、食べ物(とラブ)を作りましょう!
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