UberのライバルLyftトップが語るクルマと交通の未来 日本進出は

    「車は購入するものではなくなります」

    タクシーの代わりとなる、配車・相乗りサービス(ライドシェア)の競争が世界的に激化している。日本市場への浸透を図る米最大手Uber(ウーバー)を追いかけるのが、2012年にサンフランシスコで生まれたLyft(リフト)。日本に進出するのか?その戦略は? 来日したローガン・グリーン共同創業者兼CEOに聞いた。


    Lyftは、登録している運転手と乗りたい人をアプリでマッチングするサービス。アメリカ200以上の都市で、月1千万回利用されている。運転手は31万人を超え、日本の法人タクシーの運転者数(2014年度末)とほぼ同じだ。ただ巨人Uberに比べ、時価総額は10分の1以下にとどまる。

    ——強みはなんでしょう?

    「Lyftはおもてなしの会社。『ハッピーな運転手は、乗客もハッピーにする』が哲学です。テクノロジー企業ですが、お客様からみたらホテルのようなサービス。最良の運転手を採用し、待遇に気を使います。乗り心地が向上するからです」

    ——Uberと同じでは?

    「Uberは運転手をモノのように粗雑に扱います。規制当局に対する姿勢もそうです」

    とはいえ、利用者から違いは見えにくい。差別化のため、運転手を優遇し、より優秀な運転手を集めようとしている。

    ——どんな手を打っているのでしょうか?

    「半年前『エクスプレスペイ』を始めました。運転手に売り上げが当日、口座に払い込まれるんです。とても人気です」

    「最近、ゼネラルモーターズ(GM)と『エクスプレスドライブ』を立ち上げました。Lyftでフルタイムで運転するなら(最大)無料で車が手に入ります」

    「Uberはチップを許しません。でもLyftはOK。優良運転手はチップで収入が増えます。新人の運転手からは料金の25%を手数料としてもらいますが、優良な運転手『パワードライバー』はその一部が返ってくるので、稼ぎがよくなります」

    「新人には、評価が高い運転手がメンターとしてつきます。どうやったら、いいサービスを提供できるか知っている人たちから、ノウハウを学びます。研修後もオンライングループでつながり、Lyftでどうしたら運転手として成功できるか、コツを伝授し続けてくれます」

    「UberとLyftの両方で運転する人たちは多いですが、私たちの調査では、その80%が『Lyftの方がいい』とこたえました」

    昨年、世界最大手Didi Kuaidi(中国)、東南アジア最大Grab(旧GrabTaxi、シンガポール)、インド最大Olaとの提携を発表した。いずれも同様のサービスを展開する企業だ。

    ——対Uberの包囲網を広げていますね?

    「Lyftのお客様が、中国、インド、東南アジアにいったとき、Uberより広いエリアでサービスを受けられるようになります」

    「例えば、中国でもLyftのアプリを開くと、利用可能な車の位置が表示され、支払いまでシームレスで使えます。2社の客もアメリカで同じサービスを受けられる。これは『グローバルローミング』。携帯電話のローミングと同じだから」

    ライドシェアはテクノロジーの力で、これまで市場価値を持たなかった運転サービスに対価をもたらし、乗りたい人のニーズを掘り起こすことに成功している。

    ——ライドシェアがもたらした成果は?

    「人々は街に簡単に出かけられるようになれば、街にもっと繰り出すようになります。地元経済にとって素晴らしいこと」

    「日本では、東京五輪で課題があると聞いています。五輪のような大型イベントでは、観客のためにもっと柔軟でダイナミックなシステムが必要。ライドシェアは適しています」

    昨年、楽天は3億ドル(324億円)をLyftに出資。ただLyftのサービスは日本では「白タク」とみなされ、違法となる可能性がある。

    ——日本のタクシーの印象は?

    「今回、初めて日本に来ました。日本のタクシーはおそらく世界トップ級でしょう。汚れもないし、運転手は素晴らしい。どこでもつかまえることができました」

    「でも日本のタクシー会社のアプリを試すと、質はよくない。水曜日に電車から降りて、日本のアプリを開くと5台しかいなかったし、どの運転手も反応してくれませんでした。雨の日、金曜の夜、大きなイベントがあるときにタクシーを探すのは大変だと聞きました。タクシー自体は素晴らしくても、つかまえる過程はそうではないですね」

    ——日本への進出は?

    「日本もライドシェアを受け入れると思います。東京五輪より前だとは想像しますが、あくまで推測です。日本は面白い市場ですが、わたしたちの計画については明らかにできません」

    「世界のほとんどの都市はライドシェアを受け入れています。世界的な潮流なのですが、いったん利用可能になれば消費者はライドシェアを好みます。質や信頼性が高く、たいていは安いから。この市場にふさわしい規制が育てば、みんながウィンウィンの関係になれます」

    規制当局が持つライドシェアへの懸念の一つが安全。運転手による犯罪や事故はアメリカでも度々クローズアップされる。

    ——どう安全性を担保するのですか?

    「Lyftはこれを最優先に考えています。Lyftが優れているのは、すべての乗車に対してリアルタイムで乗客からフィードバック、コメントがされる点です。問題が発生したら、即座にわかります。(従来の)タクシーではこうはいきません。運転手の犯罪歴や運転歴を徹底的に調べ、車の検査もします」

    「安全なシステムをつくるための投資をしてきました。既存のタクシー会社ではできないこともしてきました。だからこそアメリカの規制当局は、このビジネスを理解するのに時間はかかりましたが、安全面でも優れていると分かったんです」

    一方、仕事を奪われる既存のタクシー業界の反発も大きい。東京・日比谷公園に3月、タクシー運転手らが結集し、大規模なデモがあった。

    ——タクシー運転手の雇用を奪うという批判にどうこたえますか?

    「生涯同じことをしてきた人たちにとって、変化はどんなものでも怖いでしょう。でも、ほとんどの都市で、タクシー運転手は、私たちやUberのようなサービスに移りました」

    「最大の利点は柔軟性です。これまでは決められた時間働かなければなりませんでした。子供の迎えや用事があっても、抜けられなかった。そうしたら解雇されてしまう。Lyftなら、より柔軟に働けます」

    ——Lyftならではのシステムもあるのですか?

    「Lyftはテクノロジー企業です。核であるテクノロジーのおかげで、運転手は効率的に運転できます。長時間、客を探して、流さなくてもいい。Lyftが、どこに乗客が多いかを知らせるんです。最も近い乗客とマッチングします」

    「(乗客から採点が総合され)各運転手に評価がつきます。(☆5が最高で利用者が見られる)。高評価の運転手はそれを誇りに思います。最良の運転手はより多くの客から選ばれ、乗せることができます」

    「Lyft自身も、最良の運転手にいてもらうことで、会社の評価を上げられるので、最大限の努力をするのです」

    アメリカでは、運転手と雇用関係にないとして、保険料や整備費を押し付ける姿勢が労働の搾取だという批判もある。

    ——運転手を雇わないのは問題では?

    「当局と一緒に取り組んでいます。というのも一定数の社員がいないと、健康保険などある種の手当ては出せないという法的な欠点があるんです。これは意味不明な規制。(働き方に)柔軟性があるLyftはよりよいモデルだと思いますし、規制当局とこのモデルを改善するために協働しています」

    「パートの運転手もいます。夢を追うアーティストや俳優かもしれない。起業したい人かもしれない。自由な時間で運転して、夢を追うために必要な資金を手できます」

    GMは1月、Lyftに5億ドル(540億円)出資すると公表。10年以内にLyftでGMの自動運転車を呼べるサービスを始めるという

    ——自動運転車が広がれば、運転手はいらなくなりませんか?

    「Lyftは4年前に始まりました。次の4年で、Lyftのビジネスは完全に変わります。自動運転車は、誰もが予想するより早く実現されると思います。技術の進化とともに段々と使われるようになって、5年後、10年後でしょうか、最終的には自動運転車だけになるでしょう」

    「(例えば)グーグルのテスト車は、時速25マイル(約40キロ)までで、晴れの日のみ走ります。(そのように)当初は、走れるときは自動運転車が使われるけど、そうでないときはLyftの運転手が呼ばれるでしょう」

    ——Lyftはどんなサービスを提供するようになるのでしょうか?

    「世界の変化で最もクレイジーなのは、みんながもう車を買わなくなるってことです。車が必要なら、スマホをタップすれば、数秒で到着します」

    「車に荷物を置きっぱなしにしたければ、1週間、1年借り続けることもできます。ほぼ所有しているような感覚です。でも、駐車も維持管理も洗車も必要ない。自動的に済んでいるから」

    「特別な車も使えるようになるでしょう。例えば、長距離旅行には、ぐっすり眠れたり、映画を鑑賞できたりする車」

    「車は購入するものではなくなります。私たちがこう呼ぶものに変化するでしょう。『サービスとしての輸送(Transportation as a service)』です」


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